表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/190

その32 狙撃手と剣姫22

「いででで……ちくしょう傷が……」


 アイリスに殴られた傷がズキズキと疼く。それでもエクスは走った。動かない足を動かし、悲鳴をあげる体に鞭を打つ。

 大した距離ではないにもかかわらず、もどかしいほどに遠い。近づくにつれて巨大な炎に煽られ、熱さが増していった。


「い、生きてるんだろうなあいつ……」


 もう少し進んだところに勝手口が見える。あの角を曲がれば、現在サラと交戦している中庭だ。

 ところがである。それより前に人の気配。エクスは目を細めた。前方に数人の人影が見える。


「いたぞ! 銀色のスナイパーの仲間だ!」


「な!?」


 軍服を着て銃を携えた男が数人、こちらをにらんでいる。エクスを確認するや否や、手に持った機関銃を一斉に向けた。

 しまった、彼は舌打ちした。絶望が目の前に広がって行く。あとその角を曲がればもうアイリスのところにたどり着き、『フレアクイーン』を渡せるというのに。

 サラに仲間がいたのか。どうやら自分が駆けていくのが見られていたらしい。そもそもサラ自体単身でここにいるわけではないし、当たり前と言えば当たり前か。

 きっと帝国の所属であるのだろう。軍服にはエクスにとっていなれないエムブレムが刻まれていた。


「殺せ!」


「くっそ、こいつら……!!」


 どうする!? とにかく彼はペンダントに手を触れる。ところが、その瞬間にずきりと下鈍痛が全身を包んだ。

 もともと能力を多用しすぎている。これ以上の行使は、かなりの負担になることは明らかなことであった。

 かといってこのままでは……逃げ場はない。なにより逃げている時間などない。再び遠方で炎が舞い、建物の一部が倒壊する。


「撃て!」


 万事休すか。

 掛け声とともに、銃声。エクスは叫び声をあげることもできず、かといって足を止めることもしなかった。

 こうなったら自分が死んでも剣を届けてやる。

 たとえ蜂の巣にされようとも、とにかくこの剣を届けるのだ。ボッコボコに打たれようとも、絶対やってやる。どうせ失敗すれば殺されてしまうからである。


「アイリス!! 持ってきたぞ───うわっ!!」


 銃声。

 帝国の兵士たちの銃口が火を噴いた────────のではない。

 エクスは目を丸くした。なんだ、何が起こったんだ……? 相手が引き金を引く瞬間、全員脳天を打ち抜かれて絶命したぞ。


「エクスさん!!」


 自分の名前を呼ばれて、そこで彼は振り向く。はるか後方だ。「ソラさん!?」


「あなたそんなとこで何してるんですか! 剣姫と戦っているんでしょう!」


「いやそれは……あとで説明します! とにかく助かりました!」


 ソラは右手にリボルバー拳銃『ランド』、左手にオートマチック拳銃『ボルト』を持っていた。銃口からはうっすらと白煙が上がっている。

 そう、彼女はまだ『実は依頼人であるサラが黒幕だった』ということを知らないのだ。剣姫が敵であると思っている。

 当然ながらその得物をなぜかエクスが持っている状況に疑問符を浮かべており。


 彼女もまた、エクスのあとを追った。

 舞う火炎、黒煙。やがてアイリスの姿が見えてくる。


***


「ぅ……」


 一方の中庭。

 アイリスはたまらず膝をついた。身体中に無数の火傷、意識が朦朧としてくる。

 対するサラは全くの無傷だ。巧みに側に仕えているサラマンドラ。炎を使う剣の姫が炎に焼かれるとは、なんとも笑えてくる話である。


「そろそろ終わりですかね、剣姫。こうなると剣征会の真打ちも無様なものだ」


 杖状の仕込み刀を一度振る。再び炎のトカゲが大口を開けた。

 全てを焼き尽くす炎の牙。そして自身が炎でできているからこその、炎耐性。それこそがサラマンドラの本質だ。

 炎への耐性。自分及び術者への強力な属性抵抗を目の前にして、アイリスはなすすべがなかった。ただでさえ剣がなく、加えて体術は全てあの炎のトカゲに阻まれてしまう。

 さらに近づいて拳を振り被ることすら、素早い動きで攻撃され返される。


「一国の姫、そして帝国の奴隷。あなたがいくらここであがこうとも、何物にもなれず、そして死んでゆくのです」


「そんなこと……!!」


「奴隷の売買は金になりますから。ここで職を失うには惜しいんですよねえ。まあ、事情を知るものは全員死ぬからいいんですが」


 アイリスは顔を歪めた。ここで自分が殺されれば、その罪は間違いなくこちらに被せられてしまうだろう。

 それこそ、銀色のスナイパー一味が勘違いしていたように。

 全く、剣を取りに行ったっきり全然戻ってこないが、あの運転手(?)の青年はどこで油を売って言うんだ。

 アイリスは胸中でエクスのことを思いっきり罵った。


 直後に襲い来る火炎。

 体をさばいて躱す。いつもならなんなく受け身を取れるのだが、こうも傷が多いと無理だ。

 そのまま地面に叩きつけられ、彼女は呻いた。


「しかし全く」


 無様なその姿を見て、サラは頬を歪める。


「愚かだな。アイリス・アイゼンバーン。たかが奴隷が『真打ち』の真似事なんて笑わせる」


 所詮お前は奴隷でしかないのだから。

 サラは言った。彼の所属する『ジェイド帝国』。他ならぬアイリスを奴隷として売り飛ばした国そのものである。

 当然ながらサラはその出自を知っているのだ。

 アイリスはギロリと彼を睨む。過去は最も知られたくない。ましてや、自分がもっとも憎む国の兵士にだ。心を抉られるようなものであった。


「随分な言い草じゃありませんか。その奴隷で金儲けしてるのは、どこの誰なんでしょう」


「ええ、利用価値でいうとその程度ですよ」


 さて、

 ()()()()()()()()()()()

 サラは仕込み刀を振り上げた。呼応するようにサラマンドラが口を空ける。炎の牙がアイリスに向けられ、彼女は思わず後退した。ちくしょう、銀色のスナイパーの仲間はまだ……。


「アイリス!!」


 来た。いやおせーよ。

 剣姫は振り返る。そこには自分の見慣れた得物───『フレアクイーン』を持つエクスの姿が。

 彼女は手を伸ばした。燃え尽きかけていた闘志の炎が、再び燻り始める。

 エクスは渾身の力で剣をぶん投げた。弧を描きながらアイリスの元へ……


「殺せ、火竜サラマンドラ


 直後、

 今までで一番大きな火炎。サラマンドラそのものがアイリスを飲み込む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ