表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/190

その4 狙撃手と運転手

「………」


「………」


 俺とソラさんは顔を見合わせていた。


「まさかこんな結末とは思いませんでしたね……」


「ええ。まさかあの場面でジャムるとは……。エクスさん、あなた、本当に運が良かったみたいですね」


 俺たちは今度こそ気絶し、縄でぐるぐる巻きに巻かれてしまったマカセを見つめる。

 すごい。本当に幸運だった。そう、まさにあの瞬間。俺を撃とうとした瞬間だ。マカセの引き金が人差し指にかかり、それががちゃりと押されたとき。

 ところが、弾丸が全く飛び出さなかった。不発だ。脳裏から驚愕するマカセの表情が離れない。全くいい気味だ。




 弾詰まり、である。




 ごくごく稀に拳銃に起こる現象。専門用語では『ジャム』というらしい。

 何度引き金を引いても出ない銃弾。まさかあの場で、あの絶体絶命の状況で、マカセからしてみればほぼ勝ち確定の状況での、あのアクシデント。


 あまりにも不運過ぎる。

 そして、俺たちにとってはあまりにも幸運すぎた。


 だが、それだけではない。


「でも、ソラさんこそ。すごいですよ、露出した小さなボルトを撃ち抜いて、階段を外しちゃうなんて……」


「まあ、あの程度なら……」


「いやいやほんとに、芸術的とすら言えます」


「いやだわ、ふふ、そんなに褒めないでくださいな」


 ソラさんは頬を染めてころころと笑った。うは、かわいい。

 つってもお世辞なんかじゃあない。老朽化したボルト。

 これまた『運良く』錆びて『運良く』露出していたわけである。とは言っても非常に小さい、目立たないものだ。

 マカセの乗っている階段を固定した3本のそれを、ソラさんは神業とも言える狙撃能力で撃ち抜いたのだった。


 結果として、

 マカセは階段が外れて真っ逆さま。そのまま地面に激突して今度こそ気絶、俺たちに捕まってしまったというわけだ。


***


 さて、

 遅れてやってきた大陸警察(ハオルチア大陸の自警組織)に連絡すると、若い保安官は俺にくどくどとした礼を述べた。

 そのままマカセと子分を連れて行ってしまう。懸賞金はこの口座に! という一言を忘れない。ソラさんに言われた通りに告げた。


 んで、

 物陰に隠れていたソラさんが現れる。


「行っちゃいましたよー。ソラさん、しかし本当に俺一人で片付けたってことにしていいんですか?」


「ええ、言ったでしょう私は『殺し屋』と。自警団なんかとはあんまり顔を合わせたくないんです」


 まあ、お金が手に入るならいいやってことかね。

 で、これからどうしよう。特に用事もないし行く当てもない。

 大通りの場所を聞くと、ソラさんは案内すると言った。「私も」そっちに用がありますから」


「あんまりキョロキョロしないように。慣れてない人と思われてたかられますよ」


「お、おう」


 とまあこんな会話が繰り広げられる。そう、路地裏は治安が悪かった。

 やがて通りを抜けると、ようやっと明るくなる。そこには石畳と煉瓦造りの、ヨーロッパのような街並みが広がっていた。

 ソラさんは慣れた様子で近くに止められていた一台の車に近づいた。深緑色で……なんだろう、アンティークな感じがするがひどくボロい。

 いや、ボロいなんてもんじゃない。これ本当に動くんだろうか。所々凹んでいるし、ガラスはヒビにツギにと散々である。


「ふむ……見つかりませんでしたねえ。運転手。少しお金を弾もうと思ったんですけど……」


「ふぇ? 運転手……?」


「ええ、あ、そうだ。あなた、運転できませんか?」


 そういって俺の方を見るソラさん。

 銀髪が緩やかに風に揺れる。少しもためらうことなく俺は言った。なんというか、せっかく生き死にを共にした仲だ。

 このままはいさよならというのは少し寂しいではないか。


 それに、

 俺が転生した目的。すなわち神様のステータス振りの実験。そのためには『できるだけ波乱万丈な人生を送れ』と神様は言っていた。

 殺し屋の運転手……ぴったりではないか。

 いやさすがに俺は殺しはやらないけどな! 怖いし……しかし、殺し屋のおこぼれ程度にはありつける気がする。


 そんな魂胆もあった。

 というわけで、即答。


「よかったら、やりましょうか」


 多分ソラさんは行く先々でこうやって運転手をさがして、そしてまた次の目的地まで行ってるんだろう。

 免許を持ってないのかなんなのか。そこで俺の出番である。幸いなことに免許くらいなら死ぬ前に取っている。

 ソラさん頷く。


「では、お願いしましょうかね。50000ツーサでどうでしょう」


 俺は快くオッケーした。ツーサ? そんな金の単位はわからん。だがまあ話を聞くに安くはないんだろう。

 というわけで意気揚々と運転席を開ける。


***


 ガタガタガタガタガタ、


「へぇー……なるほどそんなとこなんすねぇ……」


 ガタガタガタガタ、

 俺とソラさんを乗せたボロい……じゃなくてアンティークな車は快調に通りを飛ばしていた。その割に音が妙だが気にしてはいけない。


 車中で、俺はソラさんからハオルチア大陸について話しを聞く。大小720の国からなり、そしてここは『トルカータ』という国。大陸の北西の端、これといって特徴のない国という。

 俺は彼女に言われ、次の角を右に折れた。


「……で、どこに向かってるんです?」


 俺は尋ねた。ソラさんは殺し屋だ。そう、殺し屋。殺し屋なのである。人は見かけによらないとはこのことであり、

 俺は尋ねた後『しまった』と思った。果たして答えてくれるだろうか。そればかりではない、不用意なことを聞くな、とズドンと……


「お屋敷が見えてくるはずです。それもかなり大きなね。トルカータでも屈指の大富豪であるカクタス家の別荘らしいんですけども……」


 なんだそりゃ!?俺は変な声を上げそうになった。

 富豪、当然それもだが、そんな金持ちが『殺し屋』なんぞ雇うという。いわば依頼の相談であるらしい。

 一体何事なのだろう。当然そこまで聞いてみた俺だが、ソラさんは曖昧に笑うだけで教えてはくれなかった。そりゃそうだ。守秘義務という奴か。


「あ、あれですかね。うわあ、大きい。これで別荘なのか……」


 困惑。俺の反応でどのくらい大きな屋敷なのかソラさんも分かってくれたらしい。門に辿り着くと、自動で大きな音を立てて開かれた。

 アクセルを入れる。塗装された庭…いや、庭というにはあまりにも大きすぎる。徒歩だと玄関に辿り着くまで相当な時間がかかるだろう。

 綺麗に植林された木々、なにやらよくわからないが高そうな銅像、爽やかな音を立てる噴水。いろんなものを通過し、やがて大きな扉の前にたどり着いた。

 適当なところに車を止める。俺は運転手らしく先に降りて助手席のドアを開けた。


「ありがとう。あなたはここまでで結構です」


「えっ? なんでです?中まで行きますよ。あっ大丈夫、なんかまずいことは聞きませんから」


 食い下がる俺をソラさんは制した。


「ここまでで結構。それと……1時間以上私が戻って来なかったら…そのまま逃げなさい」


 最後は小声だった。ソラさんは俺の耳元でそう呟くと、一人玄関へと歩いて行く。やがて門番?両脇に控えていた手下らしき黒服と2、3言話すと、そのまま開かれた扉の中に消えた。

 というわけで、俺は一人待たされることになる。どうにも落ち着かんな。そわそわしながら安物の腕時計を何度も何度も見た。


「………」


 やがて、

 あっという間に1時間は過ぎた。





 ソラさんは、まだ戻ってこない―――――――

ありがとうございましたー!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ