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その5 狙撃手と剣将






                 ド






                 オ






                 ン






















                           〝           〟


















       〝                     〟










        〝                          〟












                             〝             〟











 『無音』。


 一切の音がその場から消え去った、静寂。

 奇妙な感覚があった。

 頭上のプロペラは回っている。飛空船自体も確実に進んでいるし、船首の方では火の手を消しているのだろう。消化のための水が舞うのが、断片的にであるが見て取れることができる。


 だが、ひたすらに静。

 おそらく、俺たちがそう『錯覚』しただけだ。現に、セーラが背中の剣に手をかけた瞬間、地響きにも似た重厚な音が確かに聞こえたのである。

 だが、そこからありとあらゆるこの世の音が消え去ってしまった。


 それだけではない。


「な……」


 まるで景色が、コマ送りのように見える。視界が歪み、なんだろう……間延びしたような、そんななんとも嫌な感覚だ。

 羽を失った鳥のように、汚らしい旋回をしながらバタバタと落ちてゆく空賊の飛空船。

 何台も何台も、否、全てであろう。コントロールを失っているらしい。上空で正面衝突して爆発する連中も見えた。


 そして、

 ようやっとその爆音が俺の耳に響いてくる。

 と、同時に視界が元に戻った。はっ!! イカンイカン!! こんなところで突っ立ってたら狙い撃ちされ……


「……は。なんだぁこいつら。口だけだな」


 否、

 その心配はなかった。俺の視界に飛び込んできたのは、背中の長剣、その鍔口を切っただけのセーラの姿だったのだから。

 ええ……? 何をやったんだこの人。甲板の真ん中まで歩いて行って、んで中央で立ち止まって剣に手をかけて……


 カチン。

 という耳に良い音。セーラはほんのちょこっとだけ抜いた剣を再び完全に納刀した。

 「い、今のは……?」 俺の隣にいたソラさんが問いかける。彼女も俺と同じ症状に陥ったのだろうか。

 セーラは振り返った。


「『剣気』だよ」


「け、けんき……?」


「ああ、『今からお前らを斬るぞ』っていう気迫のことさ。そいつを一変に解放してちっとばかり脅してやろうと思ったんだけど。

 ……まあ予想以上にひ弱な奴らの集まりだったみたいだな。ほとんど気絶してやがる。

 お前らはなんともないだろ? はは、さすがはソラとそのお仲間さんだ」


 なんともな……あ、確かに今はなんともない。

 つい先ほどまでの何やらよくわからない感覚が嘘のようだ。と、そうなると俺の中に少し考える余裕が生まれてきた。

 あれは『死』だ。そう、『喉元に抜き身の刃を突きつけられた感覚』と言い換えればまさにその通りであり。

 緊張で音が聞こえなくなり、恐怖で視界がおかしくなる。そして走馬灯でも見るかのように形がコマ送りとなった。


 俺は周囲を見回した。

 上空を旋回していて運良くこの甲板に落ちることのできた空賊は、その全員がセーラの言う通り気絶していた。

 ゴーグルがずれ、あるものは白眼を向き、またあるものは口からヨダレを垂れ流している。無意識のうちに痙攣してうわ言を呟いている奴もいた。『た、助けてくれ……命だけは……』


 すご。

 ()()()()でこの威力かよ!? つーかこれもう単なる圧力じゃなくね。攻撃だろ攻撃。

 あとあと聞いた話によると、セーラはちゃんと俺たちには剣気を当てないようにしてくれたらしい。

 つまり、俺とソラさんがが受けた恐ろしい感覚は()()()()()ということだ。


 余波だけでこの威力。

 まともに脅された空賊の奴ら……うーん同情してしまう。

 つーかさすがソラさんの旧友。ソラさんもは鬼のように強いけど、類は友を呼ぶって奴だろうか。

 セーラは、ところがである。ポツリと呟いた。「親玉がいねえな」


 え?

 親玉?


 直後、ダンっ! と着地する足音。

 甲板上に響く。


***


 バァン。


 俺は振り返った。甲板に着地する音。そしてそちらを見ると人影が二つ。

 マスクと厚手のメガネに覆われていて顔かたちが分かりにくいが、一人はセーラと同じほど背が高く、こちらは男だろうか……。

 そしてもう一人。こちらは小柄な、おそらくは女性だ。赤茶けた長い髪がゆっくりとたなびいている。


「く……馬鹿どもが、剣征会には気をつけろとあれほど……。おい、リードア、行くぞ」


 小柄な方がバタバタと周囲に転がる気絶した自分の部下達を見て言った。ひどく憎々しげな口調である。

 女が腰のサーベルに手をかけると、やべえ、マジか。俺たちに緊張が走った。

 男の方は……『リードア』というのか。首筋に巻いたマフラーがはためいている。セーラはそんな二人の姿を見て言った。


剣気あれ食らっても意識があるか。ようやく骨のある奴が出てきたな」


 一歩踏み出した。二対一だし……俺たちも加勢した方がいいだろうなあ。

 そんな思考とともに臨戦態勢を取ろうとする。ソラさんも愛銃に手をかけた。

 のだが、片手を差し出してそれを制するセーラ。「いいよ、私がやる」


「……大丈夫ですか。今までのとは違いますよ。武器も……」


 ソラさんはこんな時でもあくまでも冷静だった。俺も懸念していたことを友人に告げる。

 目の前の空賊の親玉。女の方はサーベルに、そして男の方は小型のバズーカ砲のような大きな銃。

 両方とも魔導で動くタイプの代物だ。それだけではなく、大きな文様のようなものが記されている。


「なあに、心配ないさ。そうだな……私が死んだら後は頼むよ」


 そんな冗談ともつかないような言葉を紡ぐと、セーラは一歩前に出た。


「ダリア、くるぜ。しかし〝真打ち〟が乗船しているとは意外だな。

 お前、『剣将』だろ。最近剣征会に入り、んで内部改革を行ったとかいう。

 剣征会のリーダー格だ。」


 リードアが言う。

 サーベルを持った女は『ダリア』というのか。

 ヒュン、と感触を確かめるように一度魔導剣を振った。こちらにもリードアの銃と同じように、妙な模様があるぞ。


「へえ……詳しいな。そこまで知ってんのかい」


 セーラはちょっと意外そうな顔をした。どうやら自分の名前が予想外に広がっているらしいぞ、なんて考えているのかも知れなかった。

 俺たちは遠巻きにその後ろ姿を見守る。ぬしも言っていたが、剣征会ってこの辺じゃあ本当に有名らしい。

 特にセーラは『真打ち』。つまりその剣征会の上位七人の剣豪の一人らしいから、そりゃ有名にもなるだろうってわけだ。え、しかもリーダー格なのかよ。


「ってことは、武器のことなんかも知ってんのか? あ、つーか、お前らもその得物……」


「ああ。精霊の力を刀身に宿した武器のことだろう。エレメンタリアじゃ魔導武器より普及しているな。

 そして我々のこれも……。そしてお前のその剣もか。『覚醒』はさせられるんだろうな?」


 武器のどこかにその精霊の力を封印した『紋章』があるはずだ。精霊の力を借りることができる。

 ダリアはいう。へえーそんなもんがあるのか。ってことはあのセーラさんの長剣も。

 あ、本当だ。何かの羽を模したような四枚の鍔。そのちょうど真ん中に藍色の模様のようなものが彫り込まれている。


「そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()力を『覚醒』させることができる。ってなわけだ。なあエクス、ソラ」


 あ、俺たちに解説してくれてたのか。ありがとうセーラさん。


 それから彼女は再び背中の柄に手を伸ばした。

 うっ! また剣気がくるぞ! と思わず俺は一歩後退する。ソラさんもわずかに眉をひそめた。

 とはいえ、あれ……? あ、そうか二回目だからだろうか。

 一度耐えることができれば、ある程度耐性のようなものができてそこまで負担にならないらしい。

 セーラはキチリと剣の鍔口を切った。それを皮切りに、ダリアとリードア、空賊二人の顔も険しいものに変わる。

 サーベルを構え、銃口を向け、各々臨戦耐性に入った。


「安心しな」

「お前らごときの私の精霊を覚醒させることはしねえよ。まあ、それでも……」


「―――――――――――――何分持つか、だな」 

ありがとうございましたー

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