その4 狙撃手と空賊2
「ちくしょー……ぼんぼん撃ちまくりやがって。今に見てろ」
「ひゃはははは!! オラオラぁどうした! ぶち殺してやるぜえ! 食らえっ!!」
「!? エクスさん、来ますよ攻撃が! エクスさん!?」
大丈夫ですソラさん。俺時間に厳しいんで。
ドカンドカンドカン!! 連中が一斉に砲撃してきた。いいぞ! というわけで……
「えっと、5分くらいでいいかな……ストーップ!!!!」
瞬間、静寂が訪れる。
5分だ。流れる時間としては短いが、止める時間としては長い。つーわけで、俺はざっと周りを見回した。
睨みながらこちらに打ってくる飛空船が多数。そして、低空飛行で挑発する奴らも何人もいた。
……いるんだよなあ、車運転してる時も高いう奴が。
飛空船の『煽り』だろうか。ともかく、高速移動している時はとても捉えられないが、相手が動かない今、難なく触れることができた。というわけで。
「……コレはこの辺で。んでこいつはこっち……」
俺は低空飛行している奴をかたっぱしから動かしてやった。
無論どこに動かすかは言うまでもないだろう。
「んー……もうちょっと左か」
弾丸の軌道上に、族を配置する。
とどのつまり同士討ちを狙うわけだ。よしよし……これでかなりの数撃墜できるぞ。スクーターが壊れて乗り手が落っこちてくるだろうから、そこを他の人たちに捕まえてもらおう。
「ついでに……」
今船の上から迎撃し、撃とうしている船員たち。
当然ながら狙いがめちゃくちゃだ。そりゃあ、こんだけパニクってたら無理もない。つーわけでちょっと補正してやることにする。
「こ、こんな感じかな……? もうちょっと上か」
結構難しいな。ソラさんは本当にすごいよ。
自分で狙いをつけてみてその難易度が実感できる。ビビりながら今まさに引き金を引こうとする船員の銃口を少し傾けると、よし……まあこれに関しては気休めだ。当たればいい。
時間を見る。ちょうど単身は11を指していた。
「……5……4……3」
2……1……
―――――――――――――解除。
ドカンドカンドカンドカン!!!!
「ぎゃっ!!」 「うわああっ!!」 「おい、味方を撃つなよ!?」
「なんだ……!? 狙いが…」
「おお、当たった!」 「すげえ俺もだ!!」
よしよし。
「落ちてきた奴を捕まえろ!! こらっ!! 観念しろこいつ!」
俺はセーラに変わって指示を出す。
ついでに慌てて脱出してきた一人の賊を捕まえると、ソラさんと協力して縄でぐるぐる巻きにしてやった。ざまあみろ!
***
船内。
やあみんな、私だ。如月 止水だ。
いつもならここで二、三近況でも報告するのだが、いかんせん今はそんな余裕はない。なぜかって? 言うまでもないだろう。
高所恐怖症である。
全く、どうも私は高いところがダメだった。昔から何度も克服しようとしてきたのだが、どうにもこればっかりは良くならない。
とはいえ、用心棒だ。そんなヤワなことは言ってられないだろう。というわけで私の手を引く女性。……セーラ・レアレンシス。彼女に言う。
「おい、大丈夫だ。戦える! 戦えるから……ひぃっ!!」
大きく船内が揺れた。無意識のうちに私はセーラの手を掴んでしまう。台無しだ。
「気にすんなよ。私も苦手なものの一つや二つある……おい! 入るぜ!」
そう言ってセーラはドアを開ける。
そこは先ほどの操舵室だった。
***
「ここに? 彼女を……?」
「頼む、置いてやってくれ。おい、安心しな如月。ここは一番揺れないし頑丈だからよ」
確かに。
先ほどまであんなにガンガン揺れていたのに、ほとんどここではそれを感じなかった。
まあ目の前に広がる景色が嫌なもんだが……みないようにすれば問題ないだろう。
しかし、突然の招かざる客にこの精霊は許してくれるだろうか。さっき見た限りではあんまり人当たりが良くなさそうだし……
「いいよ」
いいのか。
なんだ……?さっきと雰囲気が違うな。
だがまあいい。考える余裕がない。私は一言言うと風の、精霊の隣に腰を下ろした。
前は見ないようにする。うむ。確かに揺れない。少し気持ちが落ち着いてきたぞ。
セーラはせかせかと戻っていった。というわけで二人っきりになる。
「結構撃ってくるなあ、敵さんも。おっとっと……」
グワン!と大きく舵を切った……らしい。
『らしい』と言ったのは、ほとんど船室が揺れなかったからである。
「大丈夫かなあ。ソラ達……くっ、私がしっかりしなければならないのに」
「大丈夫だよ。剣将さんがいるし」
ラダーはなんということはないと言うように言葉を紡ぐ。
「そんなにすごいのか、あのセーラという剣士は……」
ヒュン、と私の目の前に古代文字が飛んでくる。
幾つかのふわふわと漂うそれ。私はうち一つを目で追っていた。当然外は見ないようにしている。
と、機械音を奏でて頭上に存在したモニターの電源が灯る。ん? そこにはつい先ほどまで私がいた……甲板じゃないか。
「多分、これから戦うよ。剣将さん」
一緒に観戦しよう。
精霊はそう言って背伸びした。
***
セーラが如月をどっかに連れて行ってしまってからも、俺たち甲板組(?)は必死に応戦していた。
ところどころ飛空船からは火の手が上がっているし、焦げ臭い匂いも伝わってくる。このままじゃあまずいぞ。
本当に墜落してしまうかもしれない。つーかこんなとこで撃墜されたら死ぬわ!
その時、俺の後方の扉が開く。
「あ、あの! セーラさん……えっと、如月は……?」
「おお、もう大丈夫だ。やーしかしわりィな、せっかくのお客さんを働かせちゃって。もうそろそろ終わるからよ」
セーラは断定的に言った。
それからその場でぐるりと周囲を見回すと、大きな声で言う。
「おうい! お前ら全員下に行ってろ! 甲板に出るな! 戦い慣れてない奴は特にな。さあて、やるかい」
お前らは大丈夫だな?
セーラは俺とソラさんに確認する。大丈夫……ってどういうことなんだろうか。
いや、そりゃあ戦い慣れてないわけじゃないけど。ソラさんは言うまでもなく。まあ俺もな。
セーラはそれから中央まで歩いた。俺たちは物陰に隠れながら応戦していたのだが、ええ、マジかよ。
頭上はけたたましい音を立てながら無数の空賊が飛び交っている。
「ぎゃははは!! ほお、剣征会のお出ましか! だが、その自慢の獲物も俺たちにゃ届かねえぜ!」
「おらおら!! 当てられるもんなら当ててみな!」
……そうなんだよなあ。こいつら蝿や蚊みたいにブンブン不規則に飛んでいるから、煩わしいったらありゃしない。
ソラさんみたいに超人的な射撃能力なら対抗できるが、それ以外だとさっぱりだ。如月が使っていた三つある秘剣の一つ……なんだったか、あ、そうそう。『雷』か。
あの飛ぶ斬撃ならまだこいつらを打てるかもしれないが、それにしたってやっぱり数が多い。そう、最も厄介なのはその数である。多勢に無勢だ。
だが、
不思議とセーラのオレンジ色の瞳からは、戦意が消えていなかった。
「はは、言う通りだな。確かにお前らを斬るこたできねえよ。ただなあ、」
「それでも……ちょっと燃えてきたぜ!!」
そこで、ここへきて初めてだった。
ソラさんの旧友、セーラ・レアレンシス。
すなわち、剣征会の剣士。
〝真打ち〟剣将は姿勢を低くし、背中の得物に手をかけた。
その、瞬間――――――
読んでくださった方ありがとうございましたー!