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その3 狙撃手と大移動

 精霊。


 『せいれい』。

 あるいは、『エレメンタル』。


「まあ簡単に言うとな、魔力で構成された生命体だ。こっちの方にはよくいるんだけど、そうか。西側じゃああんまり見ないのか。

 一応、ハオルチア大陸全土には生息してるんだけどなあ」


 鞘ごと剣を外すと、セーラは傍に立てかけた。

 ごおん、ごおん、とエンジン音が耳につく。見上げてみれば目がさめるほどの良い天気。雲ひとつない青空が広がっている。

 そして下を見てみると、無限を思わせる雲海。そう、『雲』海である。


「……飛空船ひくうせん……」


 ソラさんはセーラの対面に座っていた。長い銀色の髪が天空の風に揺らぐ。


「乗ったのは初めてですよ。膨大な魔導が必要でしょう。車を格納できるほどの大きさとなると」


 あれから車を取ってきて、んでセーラに言われた場所に行くことになった。

 するとそこにあったのは驚くなかれ、巨大な船だ。ただ海上を行くそれとは明らかに異なっていることは一目瞭然。

 巨大な6枚の羽がついたプロペラを筆頭に、大小さまざまな羽、翼。他にも幾何学模様の浮かび上がった数々の魔導具。

 車ごとこれで精霊国家『エレメンタリア』まで運んでくれるという。格納庫にしまうと、早速甲板に出てみたというわけである。


 さぞかしこんだけでけーのを起動するとなると……。

 たとえば俺たちの頭上で回っている一番大きなプロペラ。あれ回すのにどのくらいの魔導が……。


「ん? 動力源は魔導じゃねえぜ。言っただろう『精霊』国家だと」


 ()()()()()()()()飛んでるんだ。


***


「は?」

「自己紹介?」


 セーラに連れられて操舵席に行くと、そこにいたのは緩やかな法衣のような服を身にまとった一人の少年であった。

 緑色の髪に、緑色の瞳。なんともやる気のなさそうなそれをこちらに向けてくる。胡座をかいて座っており、その下には何重にも魔法陣が描かれていた。


「おう、古い友人がきてさ。旅人だから精霊を知らねえんだ」


 セーラは俺たちを順に紹介する。

 彼女の言葉を聞きながら周りを見回した。なんだここ……一応操舵室なんだろうけど、操作する道具がひとつもないじゃないか。

 かじすらない。ただの四角い殺風景な部屋だ。四方がガラス張りなので、めちゃめちゃ見晴らしがいいのが特徴だろうか。


「やーだよ。なんで僕が。剣将さんがやりゃあいいじゃないか。適当に言っといてよ」


 『剣将さん』とはセーラのことらしい。

 本人はぽりぽりと頭を掻く。「ちぇ、付き合い悪いなあ」


「風を司る精霊、シルフ! ……の、ラダー君!

 まだ若い精霊なんですが操縦技術が大変優秀で、剣征会うちの飛空船の操舵手をやってもらってまあす!

 おい、こんなんでいいのかよ」


「いいよ。『操舵』なんてしてないんだけどね。あと在位方角は『西』ってことも付け加えといてね」


 ざいい……? なんだって?

 ラダーはポケーッと俺たちを見ていたが、セーラに促されて仕方なくといった感じでお辞儀をした。

 その周囲には、目を細めてみればわかる。『つむじ風』が舞っているではないか。どうも涼しいと思ったんだ。

 なるほど風の精霊。ソラさんも同じことを思ったらしい。こんにちは、と声をかけたあと続ける。


「こんなに大きな船をあなた一人で? すごいですね」


「別に……あ、ちょっと高度下げたほうがいいのかな」


 船体がゆっくりと傾く感触。

 それとほとんど同時に、ふわふわと周囲に光で構成された文字? のようなものが浮かび上がる。

 魔力で構成され、精霊たちが使役する『古代文字』という代物であることを知るのは、もう少しあとになってからだ。


 それからラダーは、ここにきてようやく俺たちに視線を送った。

 緑の目がソラさんを見て、俺を見て、そして如月を見て。


「………!」


 なにやら雰囲気が変わる。

 如月は小首をかしげた。


「……? どうかしたか」


「あ、、ああ……!! い、いや、なんでもない。きっ……キサラギさんか。うん、よ、よろしく」


 ラダーは再び前方を向いた。


***


 ごおん、ごおん、という重たい音とともに、飛空船は飛び続ける。精霊国家エレメンタリアには丸一日かかるらしかった。

 別に時間を気にするほどせかせかしてないからそれはいい。なんつーか、空の旅なんて気持ちいいじゃないか。

 ソラさんはセーラと……旧友と思い出話に花を咲かせているらしい。時々笑い声が聞こえてくる。いやあ、のどかでいい時間だ。


 もっとも、一つだけ問題があった。


 かなーり時間が経ったわけだが。飛び上がってどのくらいだろうか。もう長時間立っており、各々好きなことをやっている。

 ソラさんは景色のいい甲板に腰を下ろし、文庫本を読んでいた。


 んで如月は……


「……お、おい運転手。エクス、大丈夫だろうなこれ。さっきのあいつ、あの精霊、操作を誤って落っことしたりしないだろうな」


「だ、大丈夫だって。おいくっつくなよ。……まあでも無理もないか」


 高所恐怖症のやつにはたまらねえよなあ、これ。もうずっとこの調子だ。

 如月は青い顔をしていた。部屋に戻ってればと言おうと思ったが、どこでも変わらないだろう。

 断続的な小さな揺れ、見渡す限りの雲。いやが応なしにも『自分が高いところにいる』ということを思い知らされる。

 俺にぴったりとくっついて、左手で俺の服をちょこんと掴んでいた。どうやらマジで怖いみたいだ。


「あ、あんまり端っこに行かないでくれ」


「分かった分かった。とりあえず座ろうぜ。えーっと椅子は……」


 ドゴン!!!!!


 その時である。

 轟音。それまでプロペラ音しか聞こえなかった音の中に突如混じる爆発音は、直後船体を大きく揺らした。


「うわわっ!!」


「ひっ!」


 俺にしがみつく如月。な、なんだこの音いきなり!?

 後方からセーラの声が聞こえてきた。「おい、どうした! 見張りは!!」

 にわかにざわつく船上。それまでの静寂は一気に吹き飛び、代わりに騒乱する。

 部下と思しき人物の声が聞こえ、直後、ドタドタと船員が走り回るのが見えた。


「襲撃だああ!!!! なんでこんなところに!?」


空賊くうぞくが出たぞおお!!」


***


 カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!

 船中に響く警戒音。ガンガン叩かれるそれは、明らかに緊急事態を告げている。


「空賊だああああ!!!」


 誰かが叫んだ。と同時にまた爆音。

 船体がぐらりと傾いた。うわわわわやべえ転ぶ。椅子や机がぶっ倒れ、ガラスが割れる音が耳に入ってきた。


「ひ……! な、なんだ一体あいつら……!!」


「おい如月!! 離れるなよ! 立てるか!」


 俺は如月を必死に抱きとめながら言う。彼女の視線につられて上を見ると。

 ガラガラという明らかに俺たちが乗っている船とは違うプロペラ音。


 えぇ……。

 なんだありゃ!? 一人乗りの飛空船? 真っ黒で、鳥の羽を思わせる装飾がなされている。 

 スクーターみたいなので縦横無尽に空を駆ける奴らが……五十人くらいだろうか。いや多すぎだろ!


「ひゃははははは!! 空賊『からす』参上!! 撃墜しろおお! 金目のものを奪ってやれ!」


 敵のスクータには砲身が付いていた。あれから魔導弾丸を無差別に撃ってくる。うわわまた一発飛んできたぞ! 俺と如月は右往左往していた。やばい! ぶつかる……!!

 が、直前でそれは中途半端に爆発した。ええ……? 

 

 あれ。

 それだけじゃない。俺を狙っていた賊の一人。そのエンジン部分から黒い煙が上がっているのがわかる。なんだなんだ?

 「ぎゃあああ!」 叫びながら落ちていった。え……?


 あ。


「ソラさん!!」


「ふーむ、キリがないですねえ。この船、客船なんでほとんど大砲やなんかの兵器を積んでないらしいですよ。

 小さな銃なんかはあるみたいですが、私以外誰も当ててないですし」


 ソラさんは両腕を広げていた。その両手には愛用の拳銃が2丁。

 両方から硝煙の匂いを振りまいている。連射したのだろう。銃口からわずかに白い煙も上がっていた。


 ダンダンッ!!

 ソラさんはせわしなく瞳を動かすと、続けざまに三発。銃口が火を吹いた。

 その全てが的確にスクーター飛空船のエンジン部分を撃ち抜いてゆく。


「ぎゃあっ!!」


「ひぃっ!!」


「おちるううう」


 おお、すげえすげえ!! 

 他の船員たちが右往左往する中、ソラさんは一人落ち着いていた。

 象牙色のコートと銀髪を風にはためく。歩きながら、まるで狙いでもつけていないかのように無造作に引き金を引く。

 ところが極限まで狙いすまされ、数ミリの狂いもないことは、銃声の数と全く同数聞こえてくる悲鳴が物語っていた。


「あの銀の女を狙え!! リロードだ! リロードの隙を……今だ!! ぎゃっ!!」


 ヘッドショット。

 血を吹き流しながら落ちていく空賊。


「まあ失礼な。隙のあるリロードなんてするもんですか」


***


 だが。

 ちくしょう、多勢に無勢だ。いくらソラさんが頑張ったところで、相手の数が多すぎる。しかも後から後から、湧いてくるように数が増えてきた。

 これじゃあソラさんの言う通り。撃っても撃ってもキリがないじゃないか。俺だって微力ながら力になりたいところだけど、如月を守らなきゃいけないし。

 指示を出すのと怪我人の保護、てんてこ舞いしていたセーラが通りかかった。


「なに!? 高所恐怖症!? マジかよ!? そ、そりゃあ悪いことしちまったな……おい! 大丈夫か?」


「う……待て、心配はいらん。これくらいなんてこと……おい!?」


 俺にしがみついていた如月は、直後セーラに引っぺがされる。え……? どうすんの?


「安全なところに連れて行くんだよ! ソラ、とエクス! ちょっとあいつら頼んだぞ」


 そう言ってセーラはどこかに走り去っていった。……如月を連れて。

 大丈夫だろうな。いや、大丈夫だろう。ソラさんの友達だし。


 それに、


「ちくしょ……ボンボン撃ちまくりやがって。見てろよ……」


 これで俺も動ける。

 そう、策があった。少なくとも、頭数自体は減らせるであろう策だ。 

読んでくださった方ありがとうございましたー

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