その58 狙撃手と終焉6
ガタガタガタガタガタガタガタガタ
俺とソラさんを乗せ、如月が車上に乗ったボロい……じゃなくてアンティークな車は快調に一本道を飛ばしていた。
時刻は深夜だ。ソラさんに気遣われたがこんなところでヘタレていては運転手の名が廃る。というわけでご希望通り、順調にアクセルをふかしているのだ。魔導も注入したばかりでぐんぐん進む進む。
バックミラーを見れば、もう小さくなってしまったな。たたずむのはゼータポリスの長い外壁。
「しっかし、まさかクークさんが黒幕だったなんて……ちょっと悲しかったなあ」
いや、ちょっとじゃないです。めちゃめちゃショックを受けた。
つーか外れてて欲しかった。だって短い間だったけど、共に戦おうとした仲間だったじゃないか。
ルアが襲われているとなるとあんなに心配してくれて、如月を治療するときも本当に優しかったのに。あれは演技で実は裏で俺たちを殺そうとしていたなんてな。
特に如月に関しては、本当に危ないところだった。『主』と戦うことになったのもクークの……いや、ノアの陰謀だったのだから。
もしも主が途中で心変わりしなかったら、如月は今間違いなく俺たちの真上にいなかっただろう。なあ?
「……………すぅ…………すぅ……………」
寝てんのかーい。
まあいいや、こいつは今回特に疲れただろうからな。ゆっくり休んでくれ。
俺は彼女の傷に響かないようこっそりスピードを落とした。
「そんなものです」
ソラさんは言った。
いつものように彼女は頬杖をついて外を眺めている。開け放たれた窓から吹き抜ける風が、銀色の髪をくすぐっていた。
「裏切り、嵌め、寝返り、逆心。殺しの世界にはいくらでもあります。そもそも信用してたらきりがないかもしれないですよ」
「そう、ですかねえ……」
ってことはソラさんは俺たちも……?
ふとふと湧き上がったごく自然な質問にしかし、ほとんど同じことをソラさんも思いついたらしい。
というか失言だったと思ったのだろう。
「い、いやいや」
ちょこっと慌てた様子で俺に向き直る。
それからまるで俺の考えを予想したかのように続けた。
「ちょっと待ってください。エクスさん、それは誤解です。私はもちろん、あなたと如月さん、二人とも信用していますよ」
「分かってますよそんなこと。俺もソラさんのこと信用してますよ」
あ、もちろん如月もな。つーか信頼関係がないとここまでやってこれるかい。
何回も死にそうになったし、そのために助け合ってなんとか生きてきたわけで。
俺の言葉を聞くと、ソラさんは安堵したように息を吐いた。
「その割には……」
そしてジト目になった。
「私をさっさと置いて行ってしまいましたね。注射のとき」
「!? い、いやそれはですね。まぁたこの話になるのか。いやいや、信頼してるからこそ置いて行ったんですよ。
そもそも、助けようにもどうすりゃいいんですか」
自分が肩代わりするわけにもいかないしな。
ソラさんはわずかに考えるそぶりを見せた。
「そりゃあ……いろいろあるでしょう。うーんと……手を握ってくれたりとか、励ましの言葉をかけてくれたりとか」
「注射打つときに手を握る……ねえ……」俺は小さな声で言った。周りの看護婦さんや医者にめっちゃ笑われそうだな。
しかし本当に嫌いなんだなソラさん、注射。
いやしかしむしろ手を握るくらいで済むならしてあげればよかった。それに、多分怯えるソラさんの姿も……うん、多分ものすごく可愛いに違いない。
そう考えると案外……………と、そのときである。
ピピピピピピピピ
と、ソラさんの携帯端末がなった。誰だろうこんな時間に。
「はい」
ソラさんは「もしもし」と電話に出る。
すると、彼女の表情がサッと変わるのがわかった。
ありがとうございましたー!




