その54 狙撃手と終焉2
路地裏をたどりながら、俺たちはむき出しになったノアを目指して歩いた。
ソラさんはなにも喋らない。如月に肩を貸そうかと思ったが、どうやら彼女はほとんど全快しているらしい。いつものように姿勢良く歩いていた。
しかし、
ソラさんは聞いても答えない。ただ「行けばわかりますから」というだけだ。
俺は少し前に彼女から聞いた話を思い出した。あの、抱きしめられたときね。
「………うーむ」
………信じられん。
いやまじで。そもそもどうしたって、そんなこと考えられるはずないだろう。
しかしソラさんは言った。間違いない、と。
というより、仮に『そう』だと仮定すると全てが辻褄が合ってしまうのだ。
こういう所以で全くと言っていいくらい反論できず。
やがて、
ちょうどノアの……正面入り口であろうか。
周囲には警備のロボットは全くいなかった。俺が行ったときは数体、多分C級プログラムだろう。彼らが頑張っていたのだが、
今は全く無人だ。さらに進んでいくと、ところが、ちょうど扉のある階段。その目の前に人影があった。
「…………」
人影は俯いているようだった。もう時刻は夜。真夜中だ。ちょうど月が陰っており非常に見えにくい。
ソラさんは立ち止まる。
俺たちの足音に気づくと、その人物はゆっくりと顔を上げた。
「『D4』は全員やられてしまいましたか」
ソラさんは無言だった。
象牙色のコートのポッケに手を入れている。キチリと撃鉄を起こす音が俺の耳に入った。
「……予想外でしたか」
「いいえ」人影はゆっくりと起き上がる。
翳っていた月が露わになり、一面がうっすらと青白く照らされた。その表情が浮き彫りになる。
ほとんど同時に、この場で唯一真相を知らされていなかった如月が息を飲むのが分かった。
「どうして………」
「―――――――――――――どうして、御主が………」
「ええ」階段に座っていた人物は、
クークは、一呼吸置くとゆっくりと言った。
「私が『ノア』です」
***
正確には、ノアのコアと言いましょうか。
クークは癖のある長い髪を一度撫でると続けた。
振り向く。後ろにあるのはこの都市…機械国家『ゼータポリス』を一手に統括する中枢。
「私の指令で、『D4』は全て動いています。いや、全滅した今『動いていた』と言うべきでしょうかね」
あなたたちの動きは全て筒抜けだったので、『D4』を動かすのも簡単でした。
クークはいう。無表情だった。少なくとも初めて会ったあのときと異なり、人間的な感じがまるでしない。
機械的に、人間の模倣をしながら話している。そんな感じであろうか。
なるほど。
『全部筒抜けだった』と彼女は言った。そりゃあそうだろう。だって俺たちと行動していたんだし。
ノア側に反乱を行おうとする―――その中で一番戦闘力が高いのは如月……と俺だ。
行動を監視しながら頃合いを見て『D4』を投入する。やりやすいったらありゃしないだろうよ。
しかし、
誤算もあった。
「ええ」
ソラさんを見ながら、クークは……いや、『ノア中枢』は言う。
「あなたたちですよ。スナイパー」
銀色と伝説。
二人のスナイパーが存在したことが、唯一の誤算でした。
それから彼女はゆっくりと立ち上がる。
一陣の風が吹き、それがクークの緩やかな翡翠を揺らす。
ということは、俺はこの段階でもう一つ気になることがあった。
「なあ、ルアは」
クークの視線がこちらに向く。俺はなおも続けた。
「ルアは一体………」
読んでくださった方ありがとうございましたー!