その53 狙撃手と終焉
すごい音がしたぞ。
俺は駆け出した。ええと、確かこっちの方角でよかったよな。
ほどなくして見えてきた。工事中のビル群。その路地裏。
「如月!」
おいおい、やっぱりあの『主』とかいうやつ、どんだけ強いんだ。
横たわる如月に俺は駆け寄った。かわいそうに、こんな瀕死の状態まで追いつめられて………ん?
ない。
えっ、どういうことだ。
傷は普通に回復していた。全快ではないにせよ、少なくとも応急処置は済ませてあるし動くのに支障はないだろう。
俺の視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと目を開けた。「ぁ……運転手」
「いたた……」
「おい、大丈夫かよ」
「本当は大丈夫じゃなかったんだがな。ん? どういう……」
如月はまたもやゆっくりと起き上がる。投げ出されていた刀を拾い鞘に収めると、それから周りを見回した。
俺も釣られる。つい先ほどまで明らかに戦闘が起きていたのだろう。バラバラと散る鉄くず、残骸。『D4』と刻印されたいくつものパーツが、バラバラと散らばっている。
如月は歯車の破片を拾い上げると、それを弄びながらつぶやいた。
「…………倒したのか、二体同時に」
「お前がか?」
「いや、私ではないよ」
というか、『D4』を二体もいっぺんに相手どれるもんか。
如月はいう。
と、その時だ。パラリと足元に一枚の紙が落ちた。「ん?」 拾い上げる。なんだこりゃ。
「おい如月、これ」
「ん?」
如月は紙を手に取ると、そこに書かれていた文字を追う。
文章を追えばどういうことなのか、その場にいなかった俺でもたやすく理解できた。
「そうか…………」
―――――――――――――嬢ちゃん、これからもがんばんな
同時に周囲に落ちていた薬莢。
それがここらでは高額で貴重な、体内の活性化を促す『回復弾』であったことを知るのは、もう少し後になってからだった。
「………借りができたな」
***
「って!」
「そんなことどうでもいい! なんで御主がここにいるんだ!?」
「え? いやあ、ソラさんの指示なんだよ。ともかく『D4』を倒せと。んでソラさんに言われてな、倒して戻ってきたんだ」
「いやいや! え? 倒した!? 倒したのか、D4を? 本当に」
如月は半信半疑といった視線を俺に向けてくる。
「お前なあ、当たり前だろ。完勝してやったぜ完勝。ほれみろ、傷なんかどこにもないだろ?」
俺はおどけたように笑うと、両手を広げた。
まだ如月は半信半疑であったようだ。だが元気そうな俺の様子を見て、さすがに納得せざるを得なかったんだろう。
ぱちくりと切れ長の瞳で瞬くと、それから言う。
「…………………強いんだな」
おう。
俺は短く言った。なんつーかこいつのこういう視線はくすぐったい。
まあそれはいいとして。すると、如月が俺の背後に視線を送った。
「ソラ」
振り向く。「ソラさん!」
「あの、言われた通りにやりましたけど」
「結構です。お怪我は?」
俺は首を振った。如月も同じ動作。
俺の方はともかく如月に関しては意外だったのだろう。ところが、状況をすぐに飲み込んだようだ。
さすがソラさん。というか主となにやら関連があるみたいだし、彼の性格を知ってのことだろうか。
「さて」
「お二人ともご苦労様でした。行きましょうか」
ソラさんは言う。
「え、何処へです?」
「もちろん、ノアに会いに行くんですよ。全ての元凶ですから」
顔くらい拝んでもバチは当たらないはずです。
そう締めくくると歩き出す。俺と如月は半信半疑でその後に続いた。
ありがとうございましたー!




