その49 狙撃手と決戦6
抵抗?
言葉にいぶかしむ間も無く、ゆらりと立ち上がるD4。
確かに眉間を撃ち抜いたはず。この至近距離で外すはずがない。
相手はロボットだし、人間のように行動不能になることはないということであろうか。
いや、それにしたって早すぎやしないか。
ドンッ☆
考えるよりも早く、私の手が動く。相手が一歩踏み出してフラフラとこちらへと歩み始める瞬間、再び愛銃が火を噴いた。
相手に向けて発砲する。轟音が響いて、弾丸は今度は右目を撃ち抜いた。
いや、「撃ち抜けるはずだった」。
「……!」
「言っただろう。銃撃は効かない、と」
カチン。情けない音を立てて、銃弾は弾かれてしまったのだ。目に見えぬ膜でも張っているかのように、眼球に当たってもそれ以上進まなかった。
再び、一歩そのまま踏み出す。見ると片手がどろりと形を変え、次の瞬間にはそこに刃物が握られていた。
まずい。
相手が歩を進めると同時に、こちらは一歩後退。耳にかけた銀髪がふわりと広がった。
「……『抵抗』とは」
「そうだ、もうばれてるみたいだから言っちゃおうか」
受けた攻撃を高速解析し対抗する。
言わば超精度の分析能力。それがこのD4の能力か。私の思考はほとんど当たっているらしい。相手は頷いた。
だとしたらまずいことになる。
私は拳銃の類しか扱えない。そりゃあそうだ、スナイパーなんだから。
射撃能力があると言っても、それもまた銃術の範疇。
とどのつまり、打つ手がない。
「―――――――――――――『詰み』だよ、スナイパーさん」
なるほど、
相手が悪いとはこのことか。
ガクがこちらへ向けて走り出すのが見える。私は後退しようとしたが、どうしたっていずれは追いつかれてしまうだろう。
だが、相手が違和感を感じるとすれば私の反応にだろうか。
そう、不思議と私は落ち着いていた。もしも相手がそのように私を捉えていたのなら、その認識は正しい。
対抗策がない、詰みの状況を作られたとしても、私は動じなかった。
―――――――――――――予想通り
「……あとはお任せしましたよ」
こちらへ向けられた短刀の刃。おそらく特殊な加工がなされているのであろう。
光を受けてもいないのにぼんやりと発光し、みるからに切れ味の高そうなそれ。
私に振るわれる。
一度大きく振りかぶり、再び振り下ろされる。私は逃げなかった。これ以上下がろうにも追いつかれるし、
そもそも『逃げようとしていない』のだから。
ガキンッ!!
その、刹那。
「ええ」
私とD4の間に、物陰から割って入ったもう一人の人物。
少女は受け太刀された短刀越しに私と『彼女』を見比べると、一瞬だけ驚いたように目を見開く。
それから少女はこの場のもう一人を上から下までざっと見下ろした。
軍服。薄手の黒いコート。そして剣の鞘に記された紋。
「あらぁ……新手か。しかも、大陸警察とはねえ………」
そのマークを見てから、D4はひひひと小さく笑った。どうやら自警団がこの騒動を嗅ぎつけているのは知っていたらしい。
おそらくもう対策は講じてあるのだろう。だからこそこうして落ち着いているわけで、なるほど大陸警察が大多数の戦力で攻めてこない理由がわかった。
「お初に。あんたが『D4』ですか」
彼女は。
ヒュン! と軽く長剣を振って相手の剣を受け流す。
ニコル・デラグライト。
ゼータポリスの外で邂逅した一人の魔導士と、最強の機械。
二つの刃が交錯した。
ありがとうございましたー!