その42 狙撃手と腐れ縁
少し、時間が戻る。
如月がまだ『主』と交戦している頃だ。
ソラさんは高層ビルの屋上からライフルのスコープを覗いていた。俺も一緒になって『主』を探す。
俺は見えないが、その先のどこかにあの『主』とかいう男がいるらしい。というかあいつあんなに強かったのか。
いや、如月が言っていたから強いんだろうとは思っていたけども。
それにしても、ソラさんの言葉では如月は瀕死だという。だ、大丈夫なんだろうな。助けに行こうとした俺を止めたのは、ほかならぬソラさんだった。
「大丈夫です。あなたはここにいてください」
算段としては、ソラさんが『ノア』の天頂を狙撃する。
事前に打たれた薬の効果を消し不可視となった『ノア』を見ることができるという。
んで後は俺とクーク、ルア、そしてほかの反乱軍の戦士たちと一緒に攻め込む算段であったのだが、
「大丈夫ですから、あなたは私のそばにいてくださいな」
……え?
ソラさんはクークたちと会って、正確には地下の秘密基地で俺に言った。
耳打ちするようにこっそり述べたのが何やら気にかかる。
戸惑う俺の手を引っ張ると、そのままここに来てしまったのだ。工事中のビルに忍び込んだ、そのとある区画の一室。
……ちなみに、ソラさんゼータポリス敷地内に運べたのは、他でもない。
『抜け穴』が存在したのである。それも機械と、それを承認した人間だけが潜ることのできる穴。
以上を駆使することによって、ソラさんは注射を受けずにこちらにやってくることができた。
正直これは驚いた。というかソラさん自身が(当たり前だが)一番驚いていたように見える。
そして、
「あの、ソラさん………」
「……………」
「そ、ソラさん、まだ怒ってます……?」
「………別にそんなことはないですよ。お気になさらず。私、根に持ったりしない性格ですから」
うーむ、ソラさんは未だに俺と目を合わせてくれなかった。
いや今は『主』を狙撃しようとしているから当たり前であるが、それにしたってさっきからずーっとこの調子だ。
心なしかいつもの銀色の瞳が冷たい……というより拗ねているように思える。
しまったなぁ、いや、俺は最初ソラさん一人置いていくのは反対したんだけど……まあ言ったって無理だろうな。
それはそうと、もうひとつ気になることがある。
「あの、ソラさん……これ、このふくろうなんなんですか?」
俺の肩に止まった大きな一匹のふくろうは、ホーと鳴いた。
「ああ、なんだか懐かれちゃいましてね。荒れ地を飛んでたんですよ。お友達になっちゃいました」
それからスコープの調節をしていたソラさんはくるりと俺の方を見た。
すごいじと目。
「ちょうど、一人っきりで退屈だったので」
「めちゃめちゃ根に持ってるじゃないですか!? いやすいませんって、あのですねえ……実はこれには………」
その時だ。
弁解しようとする俺をソラさんは片手で制した。
「見つけましたよ」 小さく呟く。
***
それからは、後は前回の通りだ。
ソラさんの大きな声で俺は我に帰る。どうも如月は負けたらしい。
満身創痍であるらしいが、無事なのだろうか。いや、ソラさんの言葉を聞く限り、とりあえずは命は助かっているようだ。
というか、あの『主』という男のこと。如月に勝っちまうとはなんつー化け物なんだ!? それだけじゃない。
「そ、ソラさんの師匠!!!!????」
そっちの方が驚いた。いやまじかよ!?
ソラさんに師匠なんていたのか。
いや、そりゃ独学でこんだけ優秀なスナイパーのなったとは限らないけども。
「ええ」
なんということはない、というようにソラさんは言った。
「師匠というより、『腐れ縁』みたいなもんなんですけどね。はっきり言って私、あの人嫌いですし」
「え、そうなんですか。」
「ええ。師弟関係というより、お互いに殺しあった仲ですからね。この際だからちょうどいい、聞きたいことを聞いたら撃ち殺しましょうか。
もしもし、『主』ですか。おひさしぶりです。私です、ソラです」
《……………》
しばらく無言であったが、やがて不服そうな声が聞こえてきた。《………おう》
ソラさんはいくつか質問があると言っていた。
間違いなくゼータポリスの……もっというと『方舟計画』のことなのだろう。
ところが、である。彼女の口から飛び出した言葉は、俺の予想とは全く異なっていた。「まず、最も重要なことを」
そう前置きして言葉を紡ぐ。「……〝移動する災厄〟は…」
「―――――――――――――『じゃれ』は今どこにいますか」
読んでくださってありがとうございましたー!