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その39 狙撃手と刃

 ……驚いた。

 スナイパーというからには長距離狙撃を主とするソラのような人間ばかりかと思っていたら。

 こんな戦い方もこの世には存在するのか。


「……っ!!」


 一歩後退する。鼻先を黒々とした銃口が掠めていった。

 姿勢低く、下側から抜き上げるような一閃。硬質な音が響き、銃の腹の部分で押さえつけられる。


 私の予想では、銃撃と剣戟の応酬になるつもりであった。銃撃側……つまりぬしは距離を取りながら射撃してき、それを私がかわしつつ剣の間合いまで詰める。

 しかし、実際は逆だ。この主という男――()使()()()()()()()()()()ではないか。


「おらぁっ!!」


 ごおん、という重たい音が響いた。

 巨大な砲身による一撃を、なんとか刀身の峰の部分で受け流す。さらに一歩距離が詰められると同時に、私が脇に回避した。

 そのまま、真後ろへの縮地。ダッと地面を蹴って距離を取る。

 主は再びライフルを方に担ぐと、加えていた煙草を吐き捨てた。


「は、どうした嬢ちゃん、さっきの威勢はどこにいったんだい」


「……ふん、様子見だ。動きを見ている。面白い戦い方じゃないか」


 ヒュン、と私は一度刀を振った。

 しかも、主はまるで棒切れでも扱うかのように、軽々とあの巨大なライフルを振り回している。

 自分の身の程もある、長大な銃を、片手でブンブンやるのだから厄介極まりない。攻撃の速さでは私の方がずっと上だが、範囲も威力も向こうに分があるようだ。


 さて、

 どうするか。

 刀を低く構え、切っ先を上下に細かく揺らしながら私は考えた。

 にらみ合いが続いている。このままじゃあ確かに拉致があかないぞ。向こうが一歩近づくと私は一歩後退し、一定の距離を保っていた。


 敵の強みは……威力と範囲。

 ならば、あの構えを使ってみるか。


「この剣は久しぶりだな……」


 上段に構えた剣先が、そのまま弧を描きながら下段へ、さらに弧を描きながら上段へと戻る。

 以上の動作を極めてゆっくり……そう、あくびが出るような速度だ。私は繰り返した。

 主はわずかに首をかしげる。


「なんだそりゃ、なんかのまじないか?」


 水に映った月を剣先で描くようにして、くるくると回す。

 一見すると今の主が思っているように、無意味に思えるだろうその構えは、飛燕流において『水月の型』と言った。

 ともすれば隙があるようにすら見える。少なくとも、こうものんびり動かしていては攻撃を仕掛けることなどとてもできないだろう。つまりこちらからは動かないということになる。


 仕掛けてこないとわかると、主はダンと地面を蹴った。

 まっすぐにこちらに近づいてくるのがわかる。それでいい、『お前の方から』動いてこい。

 みるみる縮む双方の距離。ぎしりと重たい音がライフルから響くと、主は上段から私に向かってそれを振り下ろそうとした。

 ちょうど剣先が真下に向かった瞬間のことである。ふん、()()()()


 水月の型は、


「かかったな」


 『当て身』の構えであった。

 遅い動きに慣れた相手の目には、その『差』によって跳ね上がる剣先がいつも以上に高速に見えてしまう。

 すなわち、『実際の速度』と『体感の速度』のズレ。その一瞬の誤差を利用し、私は相手の隙をついた。


「……!?」


「『動きを見ている』と言っただろう」


 相手を先んじて動かし、それに呼応し一手遅れて自らが動作する。

 剣先がライフルに触れる。上から下への大きな力は、横からそっと力を加えると容易にその軌道を変えることができた。


 そして、


 私は今この瞬間、『相手の力を利用した』のだった。

 剣先に触れたその接点、ライフルの真下への力が伝わるのがわかる。ぶれそうになる重心を固定し、両足を地面に根をはるかのように踏み込むことで軸を安定させた。

 相手の得物の軌道は逸らし、しかしその勢いは殺さない。むしろ、『自分の力』として利用する。

 この加減の具合が本当に難しい。力むよりも脱力しなければならなかった。柔らかい動きで、伝わった相手の力を剣先から利腕へ、利腕から肩へ、

 そして肩から反対の腕へ、腕から相手の腹にくっつけた拳へ。


 そう、

 『主』が目を見開くのがわかった。さすがにこの男ほどにもなろうなら、ぴったりと自分の腹にくっつけたれた私の拳。それがどういう意味を持つのか分かるのだろう。


「しまっ―――――」


 もう、遅い。











「―――――――――――――『せん』という言葉を知っているか」










 『相手の力』+『自分の力』の逆襲。

 直後にズドン!! という重たい衝撃と共に、主の巨体は真上へと打ち上げられた。

 力ではなく技に頼りがちな私の筋力ではとても不可能な威力、そして衝撃だ。その要因は、ひとえに相手によるものが大きい。


 『後の先』とは――――――『カウンター』のことだ。


 そして、

 空中では、回避行動をとることは難しい。

 少し前の自分を思い出しながら、私は宙を舞う主を睨む。


 再び刀を握り直した。打つべき技はもう決まっている。普通に切ったのでは、この距離は届かない。

 「ち、ちくしょう!! てめぇ!!」 主は大声で叫んだ。


「秘剣『いかずち』―――――――――――――」


 風を切る『飛ぶ斬撃』の音。


 程なくしてその刃鳴りは、物体を切る太刀音に変わった。

読んでくださってありがとうございましたー

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