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その33 狙撃手とD4

「うっ……すまんな、運転手」


「おう、気にすんな。痛くねえか?」


 D4が撤収してから、俺は負傷した如月をおぶって歩いていた。

 ルアについていく。彼女いわくついてきてほしい場所があるそうだ。今は一刻を争うため如月の治療を優先したいが、

 そこに行けば衛生環境も整っており、治療できる環境にあるという。

 普通の病院じゃあダメだ。医療用の危機は全て統括コンピュータ『ノア』によって制御されているため、再び襲撃される恐れがある……と、ルア。


「D4は、彼女らが言ってましたよね。ノアを守る最強の防衛ロボットです。厳密には……『ロボット』じゃなくて、『プログラム』なんですけど。あ、そこ右です」


「ん? なんだそりゃ、ロボットとプログラムって違うのか?」


「ええ、ロボットは……まあ、そのまま。機械のことで。プログラムとは機械が動作するための『指令』のことです。

 A級からC級は『防衛プログラム』とありますが、その実態は投入したロボットのコアに指令を記入しているだけですから。ですから厳密には『防衛プログラム(を搭載したロボット)』ですね。

 ゆえに、実態もあるし、一度投入されたら途中でさっきのように帰還することはしない。劣勢になっても攻撃してきたでしょう?」


 ……確かに。ほとんど大破した犬の頭が足に食いついてきたのを俺は思い出した。

 もう血は止まっているし歩くのにもししようはないが、ズキリと痛む。ルアが言う場所に着いたら俺も治療してもらおうかな……。


「しかし、」


 彼女は続けた。


「『D4』は違います。機械ではなくプログラム……つまりノアの()()()()()()です」


 なるほど……。

 いやなるほどじゃねえ、え、ってことはつまり……?


「ロボットじゃないってことは……コアがないのか?」


「はい。弱点となる部分を持たない。これが強みの一つです。そしてもう一つは、決まった形を持たないことです」


 なんだそりゃ!? 形を持たない? 

 ……いや、『指令』なんだから当たり前なのか。しかしさっきは二人とも女の子の姿をしてただけじゃないか。


「便宜上そういう形状を取っているだけですよ。与えられた能力を行使するための媒体としてね。本当は形を持たない……もっと詳しく言うなら彼女らは形状記憶粒子の集合体です。

 構成するナノレベルの小さな粒に、少女を模しているだけ……。まあ、これを『ロボット』と定義するならロボットになるかもしれませんが」


「いやいや、粒子ってつぶつぶのことだろ……? ロボットはもっとこう、歯車や鋼鉄なんかで出来てる……あ、でもちょっと待てよ!? さっき如月が切った時、中身が飛び散ってたじゃないか」


 俺は先ほどの光景を思い出した。

 如月の『飛ぶ居合』は、確かにD4の一人……あの重力のやつを切り裂いたじゃないか。

 だってネジや歯車の、他にもいろいろな部品が俺の目の前に飛び散ってきたんだから。


「ええ、ですからそれは……」


「もしや、……あれか? なんかそれっぽく形作ってただけで、実際は何の意味もないってこと……?」


 ルアは頷いた。

 なんだそりゃあ……俺は力が抜けそうになる。せっかく如月が頑張ったのに、何の意味もなかったってことなのかよ。

 ところがルアは首を振った。「とんでもない! 如月さんはダメージを与えてましたよ!」


「金切り声みたいなのが聞こえてきたでしょう?」


 俺は頷く。


「あれがダメージを与えている証拠です。実際に強い衝撃や急激な温度変化を加えると、それまで保持していた形状や能力を記憶できなくなって、行動不能になります。

 んで、それを繰り返せば倒せます。『ノア』が『指令続行不可能』と判断して、以降の行動をシャットアウトするからです」


「そ、そういわれてもなあ……だってちょっと切り込むにも近づけなかったんだぜ? それをお前……瀕死レベルのダメージを何度も蓄積させるって……」


 無理じゃね、いや無理だろ。

 事実として如月が打った渾身の『秘剣』を受けてもけろっとしてたし。しかも出力40%とか言ってたな。

 つまりまだ全然連中は本気じゃなかったっていうことだ。ナメプされてるみたいで腹が立つな。しかも……


「D『4』っていうからには……後2体いるんだろ」


 ルアはこっくり頷いた。俺は再びため息をつく。


「マジかー……いや予想はしてたけど。あの重力と長い髪と……ああ、なんてことだ。まだ後2匹もあんなに強いのがいるのかよ……」


 勝てる気がしない。俺の胸中に暗雲のように湧き上がる不安。

 いやしかし勝てなかったら……死が待っている。

 どうやら方舟計画というのは『優秀な人間を残す』ための間引き政策のことらしい。全くとんでもないことだ。

 優秀な遺伝子のみを選別する、とD4の連中は言ってたな。つまり、普通以下の人間は全員切り捨てられるってことか。それこそ、俺たちも……。


「でも、おかしいんですよ。D4は隠しプログラムです。普段はノア内に格納されていて、決して表には出ません。

 それがどうして……方舟計画が始動したならまだしも、始まってもいないでしょう?」


 ルアは俺を見た。「さ、さあ……?」


「『ノア』にヤバいことが起きたら動き出すんだろ? ってことは、問題が起きたんじゃねーのか、ノア側によ」


 俺は至極単純なことを言ってみた。


「………」


 ルアは無言である。

 考え事をしているようで、俺は「そんな当たり前のことを言うな!」とでも怒られるかと思ったが、どうやら違うらしい。

 「そうかもしれないですね」 え? マジで?


「しかし……そうだと仮定すると……」

「一体なんなんでしょうか。『D4』を起動させるほどの、ノアに対する脅威――――――」


 ルアはまた俺を見る。

 いやいやさすがにそこまではわからん。ってかさっきのも当てずっぽうだし。


 そうこうしていると、ようやく目的地に着いたようだ。俺は話に夢中で全然周りを見ていなかった。

 ほとんど人通りのない、廃墟群のような空間にたどり着いていた。閑散としており、どこかもの悲しげだ。

 足元には錆びた歯車が一枚転がっていた。


「着きました」


 ルアはいう。「こちらへ」


「ここは一体どこなんだ……? まだD4のやつらが襲ってこないだろうな」


「大丈夫ですよ。ここから行く場所はゼータポリスの26区画の外れ……つまり『ノア』の管轄外ですから」


 そう言ってルアはかがむ。

 ローブから片手を突き出すと、その手を地面にかざした。金属的な大地とルアの小さな掌が触れ合う。


「……座標変換、111444555511144」


「おい、ルア?」


「すみません、ちょっと黙っててください」


 あ、はいすみません。

 ルアの片手がうっすらと輝き始める。


「…………コア認証開始……12%……53%……98%……完了。同期完了、承認を続行……」
















「―――――――――――――『デバックフィールド』起動します」
















 その直後、

 俺は驚きのあまり声を失った。

読んでくださった方ありがとうございましたー

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