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その31 狙撃手とふくろう

 飛ぶ居合い!?


 なんだそりゃ、驚く俺を無視して、如月は涼しげな顔だ。

 同時に浮遊感が消える。おそらく敵がダメージを受けて、重力を制御できなくなったんだろう。

 どさっと俺たちは地面に落ちることになった。

 如月が刀を鞘に収める。俺は慌てて立ち上がった。


「ざまあみやがれ。俺が守って如月が攻撃する。ええと、全部計画通りだ」


「ふん、そういうことだ。運転手なら必ず守ると分かっていた」


 え、そうなのか。俺は如月の横顔を見る。

 彼女はさも当然といった調子で言葉を紡いでいた。その琥珀色の切れ長の瞳は、半壊した鉄くずとその上部。

 袈裟に切り捨てられた『D級』の少女。


 一陣の風が吹く。

 如月の蒼色の羽織の裾を揺らした。


「67.98%……損傷…………これ以上の戦闘行為…続行不可能」

「いやあ、末恐ろしいねえ剣士のお嬢さん……そっちの、ええと運転手? さんもなかなかおやりになる」


 間合いの外を斬る技なんて、さっきの戦いじゃあ見せなかったじゃないか。

 そもそも魔導やエネルギー波の類じゃあないみたいだし。一体どういうことなんだい。彼女は続ける。


 少女の声は極めて聞き取り難いものだった。

 それまでと異なり、異音、雑音のようなものが断続的に混ざっている。


「当たり前だろう。三振りあるうちの『秘剣』の一つだ。そうそう見せるものじゃない」


 とはいえここまでで三つのうち二つを開示しているわけだ。

 そのことを如月から聞かされるのは、もう少し後になってからである。


「まあ、いいか……」


 少女は言う。


「おい待て、逃がさねえぞてめー! コアをぶっ壊してやる」


「ああ、敵わなかったねえ……出力40%じゃあね」


 と、そこで少女の言葉に俺は「えっ」と。

 出力40%? え、どゆこと??


「D級防御プログラムはねえ……あまりに強力すぎるから、普段は力をセーブしてるんだ。半分以下までね。リミッターってやつだ」


「えっ。じ、じゃあさっきのは………」


「本番は――――」


 少女がそこまで言ったところで、だ。如月が駆け出す。

 ちょうちょうはっしと鉄くずを駆け上がると、D級の目の前へ到達する。


「ならば、本領発揮する前に倒すだけだ」


 彼女は踏み込むと、刀を強く握りこんだ。

 首元を狙う一閃。ところが、剣士の殺気を受けても少女は微塵も動じた様子がなかった。

 表情を変えない。おいおい、戦えないにもかかわらず、なんなんだこの余裕は? 

 全くの無傷ならともかく、体が裂けかかっているんだぞ。


 俺は奇妙な違和感を感じていた。いわゆる『嫌な予感』というやつだ。

 そしてその予感が的中したと気づくのは、すぐ後のことで。


「き、如月――――――」


 俺は、ほとんど考えるより早く叫んだ。


「――――ダメだ!! 行くな!!」
















「反演算―――――――――――――『針髪」
















 少女と、如月。

 そのちょうど真ん中に割って入るもう一人の人物を、俺は見た。

 灰色の髪、片目が隠れて見えないが、瞳も同色だ。

 不自然なほど輝くのその双眸は如月を睨み、腕は彼女の斬撃を中途半端に止めている。

 握っていたのだ。如月の刀を。その持ち主は、驚いた様子で眉を上げる。


「っ!?」


「なんだ、剣士ですか」


 剣士ならな―――新たに割って入った少女のつぶやき。


 直後、

 俺は駆け出した。その光景を見たルアの、悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。


「な……!! 御主…今……なにを」


「たかが人間が――――『D4』を、あまり舐めないでいただきたい」






「如月!!!」





 鮮血が舞う。

 脇腹に深い傷を負った如月は、そこで堪らず膝をついた。


 ***


「うーん……」


 いよいよ身の置き場がなくなってきた。私はもうずっと外で荒れ地を見ていたが、さすがにいつまでもこうしているわけには本当にいかない。

 とりあえず、車に戻ってライフルを入れたケースを持ってきた。もしも仕事が入ってきた場合のことを考えて、である。


 しかし、

 困ったな。注射は怖いが、だがそんなこと関係なくもう国には入れなくなってしまっているらしい。

 ニコル……あの魔導師曰く、だ。試しにもう一度U番ゲートに行って聞いてみたが、なるほど確かに言う通り。注射関係なく入国できない。


「参りましたね……」


 国を覆う壁。私はもう一度それに手を触れた。分厚くら冷たく、さらに魔道によって加工されているらしい。

 拳銃なら言うまでもなく、戦車砲でもビクともしないだろう。それが高く高く天まで伸びている。

 しかし、かと行って真上からゼータポリスに浸入することもできないだろう。つまり壁を乗り越えることも不可能であるらしいのだ。

 見えない魔導の膜のようなものが、ドーム状に張り巡らされているらしい。大きな鳥が数匹、壁にでもぶつかるようにUターンしていたからである。


 すなわち、外界からゼータポリスへ。

 ゲートを通らずに入国する方法は完全に存在しないということになる。


「ん……?」


 すると、私は奇妙なことに気がついた。

 ちょうど荒地の……遠くの方だ。なにやら大きな影のようなものがこちらを見つめている。

 私は目を凝らした。眼鏡越しであるが、うーむもともとあんまり視力は良くないので良く見えない。

 近づいてみると、その姿が明らかになった。


「……ふくろう?」


 大きな一匹のふくろう

 褐色の翼にまだら模様。レンズのような大きな目がこちらを見つめている。縁の模様で黒い眼鏡をかけているように見えた。


「あらまあ、こんなところにねえ……あなた、どこから来たんですか?」


 って……なにやってるんだ私は。

 あんまり退屈すぎて動物に話しかけてしまった。こんなところエクスさんに見られたら笑われてしまうかも。

 踵を返す。それよりも、なんとかして彼らと合流する方法、あわよくば逃げる方法を考えなければいけない。


 と、


「……?」


 そこで右肩が重くなるのを感じる。

 あら、随分と人懐っこいふくろうだこと。


「……もしかしてあなたも、仲間とはぐれちゃったの?」


 私はちょいちょいとふくろうの額を撫でる。

 突如できた話し相手は ホーウ と答えるように鳴いた。

読んで下さった方ありがとうございましたー

9/26 第1章その1とその3に挿絵を追加しましたー

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