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その30 狙撃手と居合い

「そうそう簡単に!」


「殺されてたまるか」


 俺と如月は一気に距離を詰めようと走り出す。

 駆けながら、周囲に散らばる鉄くずを蹴り飛ばした。ガラガラという乱雑な音。

 相手はさっき戦ったロボットと同じなんだ。そうなると、体のどっかにあるコアをぶっ壊せばいいんだろう……ルアの言葉を思いだす。

 右胸だ。俺は鉄くずの山にたどり着いた。手をかけた登り始める。如月もぴょんぴょんと慣れた手つきで足を進めていた。おい身軽だな。


 その時である。少女は緩慢な動作で両手を広げた。


「ん?」


 ほとんど同時に俺の全身を奇妙な感覚が支配する。


「ん? んん!?」


 え、ちょっと待って! なんだこりゃ、え? なんでこんなに浮き上がるの?


「運転手! な、何やっとるんだ御主!」


 このやろうだから運転手じゃないって言ってるだろ。

 そんなこと言ってる暇じゃない。いやどういうこったこれは。

 「し、しるかよ! うわあ、浮き上がるっ!」 俺は如月が伸ばした手を掴もうと四肢をバタバタさせた。しかし、ほどなくして……


「っておい、お前もか」


「……そのようだな」


 いや、俺たちだけじゃなかった。

 まわりに散らばっていた錆びきった鉄、乱雑に散らかされた塵、裏口に立てかけられていた看板など。

 あらゆる物が俺たちと同じように浮いている。そして徐々にその高度を引き上げていた。

 俺は目標だった少女を見る。彼女は涼しげな様子で俺たちを見上げていた。


「どういうことだこりゃ、何やったんだお前!」


「そりゃあねえ、こっちだって黙って殺されるわけにはいかないよ」


 この機械、なにかやったのだろうか。いや、間違いなくこいつが原因だろう。

 そもそもこいつの周りだけ、まるで()()()()()()()()かのように物がフワフワと浮いている。

 にもかかわらず当人である少女は地面に根を張っているではないか。




「反演算―――――――――――――『重力』」




 少女は言った。


「我々はねえ、統括コンピュータ『ノア』によって与えられた、物理法則に従わない固有の『能力』を持っているんだ。そいつを武器として戦う」


「の、能力!? そんなもん、さっきのあのロボットにはなかったぞ!」


 武器っつーと……大きな魔導銃とブレードだけだったじゃねえか。


「違う……」


 すると、言葉を紡いだのはルアだった。

 俺と如月は振り返る。青い顔、まるで子供のように震える彼女の姿がそこにはあった。


「ルア……?」


「違うんです……彼女は………C級じゃありません」


 それから彼女はへなへなとその場にへたり込んでしまう。

 全身の力が抜けたのか、あるいは重力を操作(?)した少女の視線を受けてからなのか、全くその場から動けないようだ。


「ちょっと待て、だって……C級が一番強いんじゃないのか」


 如月が言う。


「そうだそうだ!! まさかB級やA級なんていうんじゃないだろうな」


 自分で言ってなんだが、その線は薄いだろう。だってこの少女がさっきのロボットより弱いとはどう考えても思えない。

 プカプカ浮かされて全く何もできない俺がいうんだから説得力あるだろ! だってさっきは普通に倒せてたんだぜ? B級だけど二体も! 

 如月だってC級をバッサリやったんだ。


 となると、推測できることはただ一つ。

 できれば外れて欲しい結論だ。「まさか……」 俺は呟いた。


「そうだよ」


 少女は言う。

 俺は少し前に話された彼女の言葉を思い出した。

 

 統括コンピュータ『ノア』への害を速やかに排除するための、防衛機能のことさ。

 基本は戦闘力の高い順にC級、B級、A級と分けられている。

 

 ()()()


「遂行すべき、優先度の極めて高い事象」


 少女はなおも続けた。


「あるいは、統括コンピュータ『ノア』に対する極めて強力な阻害因子・妨害行為が行われた場合にのみ投入される、四つの隠しプログラム」


 やはり、こいつは『C級』じゃなかった。
















「―――――――――――――『D4』」
















 ()()()()だ。


 D級。

 ルアの言葉を聞いた瞬間、少女の瞳が俺たちに向けられた。


***


「そういうわけだよ、お二人とも」


 少女は俺たちを見た。

 同時に正面に浮き上がる大きな鋼鉄の塊。どこかの重機が打ち壊した、廃品であろうか。

 わずかに揺れるたびにギシギシと重厚な音を奏で、同時に黒と茶色で視界がふさがれる。


「やめて! あなたの目的は私のコア! その人たちは関係ないでしょう!」


 ルアの声が響いた。


「バーカ、方舟計画で残す人間は決まってるんだ。こいつらは選ばれなかったのさ。どうせ死ぬ」


 少女は……D級防御プログラムは言った。


「おい、聞いたか如月」


「ああ、物騒なことだ」


 どうやら俺たちは殺されるらしい。これから処刑されるといったところだろうか。

 やばいやばいやばい! 落ち着いてる暇はないさ。どどどどうしよう。

 そもそも空中じゃまったく身動きは取れないし、俺は手足をバタバタさせてみたが……ダメだこりゃ。


「文字通り、手も足も出ないだろう。じゃあ―――――さよなら」


「おい、来るぞ運転手」


「!? ヒィっ!! おい、如月……! 用心棒! なんか対策は!? あるんだろ! あ、あるよな!!?」


「ない」


 な……! 

 如月は言い切った。


「万事休すだ」


 ゴオン!!

 金属と金属がぶつかり合う音、耳障りなそれが俺たちの耳を打ち、同時に目の前の鉄が打ち出された。

 高速で飛来し、視界いっぱいに広がる。俺は悲鳴を上げた。こんなもん直撃したらひとたまりもないぞ


 慌てて十字架に手をやる。5秒……いや、15秒……ええい、30秒だ!

 時間を止めると、神剣を大きくして目の前に突き出した。盾のように構えて両手に力を入れる。

 ……っとその前に、如月だ。手を伸ばして……羽織の裾を掴むと、こちらへ引っ張り込んだ。


「うおわっ!! くぅ……!!」


「!? む……! 運転手お前、おい、大丈夫か!?」


 そして、衝撃。

 30秒経過したのだ。なんとか神剣で高速のくず鉄を防いだものの、

 しかし痛い。痛すぎる。俺の両手はこれでもかというほどの痺れていた。神剣は無事……よし無事だ!

 だけど持ち主の俺は大丈夫じゃないです。というかこれを防いだとしてもさ……


「さあて……いつまで持つかねえ。鉄はそこら中にあるよ」


 ゴオン

 二つ目が浮かび上がる。そうなんだよなぁ……こっちは防戦一方だ。しかももう防げないぞこの痺れじゃ。


「当たったら痛いねえ……」


 そういってD級はくっくと喉を鳴らして笑った。小馬鹿にしたように俺たちを見つめている。ルアが必死に何事かを叫んでいるが、一切聞く耳を持っていない。

 むしろ見せつけるようにに蹂躙していた。まったく……統括コンピュータ『ノア』とかいうのはひどく悪趣味だ。


「助かった運転手。ぶっちゃけ死ぬかと思っていたぞ。さすがの私も鋼鉄は切れないからな」


 如月が言う。


「バカ! そんなことはどうでもいい! おい、どうしようどうしよう!!? 次が来るぜ……ひぇ、さっきよりもでかい」

 

 俺は焦った。倍以上あるぞ。


「手も足も出ないだろう。なあ、剣士のお嬢さん。私を切りたいかい」


 D級はそう言って如月を見た。

 琥珀色の瞳とレンズが交錯する。


「ああ、斬りたいね。それに、せっかく運転手が守ってくれたんだ。こいつばっかり活躍しては私の用心棒の名が廃る」


 しかし、

 青い顔の俺はそこで如月の横顔を見た。

 諦めていなかったのだ。この若い剣士は。それどころか、刀の柄を強く握りしめていた。

 彼女は小声で俺に言った。


「嘘だ」


「はあ?」


「『策』ならある。あいつを油断させるためにないふりをしていたんだ。

 なあ、機械。確かに私は手も足も出ない。しかし」


 ほとんど同時に、如月の利き腕が動くのを俺は見た。

 鞘と刀身の擦れる音。刃鳴り。そして、凶悪な刃の輝き。


「この剣は届く。秘剣『いかずち』―――――――――――――」
















「――――――――――――()()()()()を喰らえ」
















 如月が刀を振り抜くと同時に、耳障りな斬撃音。少女がハッと目を見開く。


「は……!?」


 直後、悲鳴のような、金属をこすり合わせるような絶叫が路地裏に響き渡った。俺は思わず耳を覆う。

 聞いていたくない不協和音だ。同時に目の前に歯車や、ねじ、そのほかさまざまな部品が飛び散った。


「……っ」

 

 ゆっくりと目を開ける。するとそこには、


「お、おお………!!」


 D級の肩から斜めに掛けて一閃。

 綺麗に切り裂かれているのが見えた。ほとんど体が裂けかかっている。断面からはよく分からない回路部品や導線が露出し、バリバリバリ……ピピピピピピ 警報のような音も響いていた。


「ぐふ……あれぇ………」

「データと違うねえ………これは参った」

読んで下さった方ありがとうございましたー

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