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その29 狙撃手と防御プログラム

「人間狩り!?」


 俺は素っ頓狂な声を上げる。え、どういうことなんだそりゃ。

 どういうこともこういうこともないというような表情で如月は俺を見る。


「これから四日後だ。そのノアとかいう機械の命令で、ゼータポリス中の人間がほとんど殺される。生き残るのはごく少数だそうな

 先ほどゲートが閉ざされたのはその前哨。計画を感知した人間が国の外に逃げるのを防ぐためだとさ」


「は? いやいやちょっと待てよ。わけがわからん。そもそもどうしてそんなことを……」


 そこです。

 ルアは険しい顔で言う。


「お話しするには、まずこの国の歴史を知っていただかないとなりません………」


 機械国家『ゼータポリス』


 その原点は、たった一つの小さなキューブ状のコンピュータであった。

 開発者は量子工学者『クウガス・H・エバリュエスト』。

 稀代の天才としてたぐいまれな才能を有した彼は、才覚・叡智の全てをその立方体に込めた。


「↑ここまではよろしくて?」


「おう」 「うむ」


 俺と如月は頷く。さらにルアは続けた。


「そもそも最初はゼータポリスは最初『機械国家』ではありませんでした。鉱山資源と豊富な魔導に満ちた、普通の国です」


「ふーん」 「へぇ」


「ところが、です。クウガスの発明したコンピュータによって、徐々に徐々に様々な機械が生み出されていきました。コンピュータはあらゆるロボットの作成方法を指示したのです。産業用ロボットから、軍用の兵器まで」


「へえー」 「ふむふむ」


「それだけではありません。経済、風土、ハオルチア大陸の地形、隣国の性質なども考慮することで、敵国の襲撃、伝染病の流行などを予測することもありました。

 事実として、クウガスの発明したコンピュータによって国家滅亡の危機を何度も乗り越えたことがあります。もともと彼は国の研究機関に所属していましたからね。信用もありますから」


「すごい」 「すごい」


「こうなると、もうゼータポリスはそのコンピュータを無視することはできません。

 気がつけば、国はそのコンピュータに頼りきっていました。こうしてゼータポリスは『機械文明』となったのです」


「ふーん」 「ほほう……」


「…………」


「………」 「……」


 そこでルアは黙った。


「え? 終わり?」


 俺は首をかしげた。え、それだけ?

 別に何にも悪いことなんてなくね……? というか見たところ順風満帆に見えるのだが、それがどうして人間狩りに繋がるんだろうか。

 だが彼女は首を振った。


「いえ、ここからです。やがて」
















「―――――――――――――そのコンピュータには『Noahノア』と名前が付けられました」
















「「「!!?」」」


 真上から響く声に、俺たちはほとんど同時に顔を見合わせる。


 まず先に動いたのは俺だった。轟音。耳障りな音が鼓膜を叩いたからだ。

 見上げると、突如降ってくる巨大なくず鉄の塊。


「な……!」


 こんなの食らったら死ぬわ! 

 ほとんど無意識のうちに神剣の時計に手を触れ、5秒ほど時間を止める。

 その隙にルアと如月を引っ張ってからくず鉄から逃れると―――――5秒経過後、俺たちがさっきまでいたところは一瞬にして錆びた鉄、巨大な機械編で覆い尽くされた。


「あれぇ? うまく避けたねえ」


 そして……その瓦礫の上に立つ一人の人物。

 若い少女型のロボットだった。ただし今まで見たどの型にも当てはまらない。

 まず上半身から下半身にかけてが、どろりとした流動体だ。鉄くずの上から上半身が『生えている』といえばわかりやすいだろうか。

 漆黒の髪を二つ結びにしており、同じように真っ黒の瞳―――の形をしたレンズがこちらを見つめている。半眼の、眠たそうな表情だった。


「まあ、C級防御プログラムをやすやす倒しちゃうんだから、普通の人間じゃあないと思ってたけども」


 C級防御プログラム……? 先ほど如月が切り殺したロボットのことだろうか。

 「おい、なんだこいつは……敵か?ルア」 如月は刀に手をかけながら尋ねる。


 ルアの返事はない。

 俺は彼女を見た。


「おい、ルア……ルア…………?」


「ど、どうして……」


 怯えた表情。

 その顔色だけでもう俺は判断することができた。間違いない、目の前のこの少女は……敵だ。

 つまり、さっきのC級なんとかいうでかいロボットの仲間ということだろうか。


「―――――――――――――『防御プログラム』」


 少女は言う。鉄くずが一つ転がり、俺の足元に落ちた。


「統括コンピュータ『ノア』への害を速やかに排除するための、防衛機能のことさ。基本は戦闘力の高い順にC級、B級、A級と分けられている。

 君ら、知らないのかい。その裏切り者からもう聞いたかと思ったんだけどね」


 裏切り者、と言ったところで少女はルアを見た。その粘度のある視線にさらされると、びくりと肩を震わせる。

 話を聞く限り、C級が一番強くてA級が一番弱いのか。ということはC級一体とB級一体を倒した俺たちって……あれ、結構すごくね。

 いやそんなことはどうでもいい。俺は恐怖に身をすくませるルアと少女の間に割って入った。


「そうか、だいたい状況が飲み込めていたぞ! てめーもその『C級防衛プログラム』ってやつなんだな! 冗談じゃない、せっかくさっきルアを助けたのに、また襲われてたまるかっ!」


 俺が言葉を紡ぐと、すぐ隣に如月が立つ。

 彼女もまたルアを隠しながら、琥珀色の瞳を少女に向けていた。


「そもそも、なぜルアを狙うのだ御主らは。こいつも御主も……同じロボットだろう」


 如月は言う。そこで俺はハッとなった。確かにその通りだ。なんというか成り行きで……理不尽に襲われてたからとっさに助けてみたものの、

 よくよく考えれば道理に合わない。それこそ『人間』狩りならともかく、どうしてロボットがロボットを襲うんだろう。


「確かに『同じロボット』だけどねえ、『同じ目的』じゃあないんだ。機械が心変わりするなんて、まったく笑えてくるよ」


「心変わり?」


「そう。方舟計画……増えすぎた人間を『間引き』して……優秀な遺伝子だけを残す選別計画。そいつを台無しにさせようとするんだからねえ……我々も躍起になって殺そうとするさ。さぁ」

「裏切り者さん、「チップ」を返したまえよ。君のそのコアの中に同期させているんだろう」


 ルアはハッとして自分の胸元を抱く。

 それから恐怖におののきながらも、キッとした目つきで『敵』を見つめ、首を横に振った。


「………仕方ないねえ」

「手荒なことはしたくない――――――――というわけじゃないしぃ……」


 ピピピピピピピピ


 少し前に聞いた音が響く。俺と如月は顔を見合わせた。


「おい……これってよ」


「ああ……さっき戦った機械と同じだ」


 ピピピピピピピピ


「統括コンピュータ『ノア』より、伝令を上書き」


 少女は言った。


「裏切り者は―――――――――――――」












「―――――――――――――排除」











 ほとんど同時に、俺と如月は駆け出す。

読んで下さったかたありがとうございましたー

近々主要キャラのまとめを投下します。

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