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その28 狙撃手と神様

「え………」


 目が覚めてからまず俺は困惑した。

 というかいつの間に眠ってしまったんだろう。うーん……ゆっくりと体を起こす。

 

 例の場所だった。

 ピンク色のもやもや。浮いているのか沈んでいるのかわからない感覚。

 例えば『体を起こす』と表現したが、実際に起こしたわけじゃない。


「ちょっとまて、嘘だろ……? え、ええ!? 力のステータスカンストはここで終了なの!? え、まじで………? このタイミングで!!?」


 なんだと……。なんか今から大変なことになりそうな予感がしたのに。俺は頭を抱えた。うっそだろ。

 なんともキリが悪くないだろうか。ゼータポリスに入った瞬間ならともかく、入ってしばらくしてってのは中途半端すぎるだろう。


「で、次の神様は」


 …………いないな。いない、どこにもいないぞ。

 俺はぐるりと周囲を見回した。ついでに歩いてみる。行けども行けどもピンク色のもやもやがあるだけで……ん?


「……なんだこりゃ? …時計?」


「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁ」


 その瞬間だった。

 俺は大きくのけぞる。な……な……!! 時計がぴょんと飛び上がったかと思うと、後ろから聞こえてくる笑い声。

 

 振り返るとその時計を持つ一人の人物。

 年齢……いくつくらいなんだろう。おじいさんだ。きっと神様なんだから相当な年なんだろうな。

 なにかの神様は地味な色合いの法衣? かなんかを着込んでいた。

 地面につくほど長い黒ひげをいじりながら、俺に言う。


「ステータスを試す人間はお主か、ふうん……とても地味な成りだな」


「……悪かったな。え、あんたが次の神様?」


「左様。あ、そうそう、力の神は大変感謝しておったぞ。今報告書をまとめているところだ」


 神様の世界に報告書とかあんのかよ。

 まあそんなことはどうでもいい。俺は言った。


「おい! 頼みがあるんだ、もう少し力最強を延長できないだろうか?」


 おじいさん神は首を振る。


「それは不可能だ。一度取り下げたステータスをまた戻すこととなると、報告書じゃなく始末書もんじゃぞ」


「そこをなんとか……!! あのなあ、多分これからゴタゴタがあるんだよ。だいたい、タイミングが悪すぎだろ常識的に考えて、そもそもなあ……」


「まあ待て待て。わしがなんの神かまだ聞いておらんじゃろ」


「そりゃあまあ……そうだけど……」


 最強の力より強い能力なんてそうそうないだろう。

 おじいさんはニヤリと笑う。皺だらけの顔がさらに皺だらけになった。


「ところがな、あるんじゃ。力の神のステ振りも強力じゃが、わしのはおそらくもっとすごいぞ」


「えぇ……?」


 俺は若干困惑する。

 うそだろ……? 口が悪いが、こんな老人がか司るものってなんなんだろう。

 「知りたいか?」 神様は言う。

 俺はそっぽを向いていたが、こうももったいぶられると気になるというものだ。


「言っとくがな、これまでカンストしたのは最高の『運』と最強の『力』だぞ。これ以上のなんてそうそうない」


「それがな、あるんじゃよ」


 おじいちゃん神はニヤリと口角を上げた。
















「―――――――――――――『時間』じゃ」
















***


「はっ!」


 俺は目を覚ました。ええ、どこだここは……。

 状況を確認する前に、目の前には如月の顔。


「起きたか」


 って近い近い。吐息が鼻先を掠める。

 なんでったってこいつは毎度毎度こうも顔を近づけるんだ。


「話しながら突然気を失ったから驚いたぞ。おい、大丈夫か?」


「大丈夫だよ、心配かけて悪かったな」


 俺は彼女を押しのけるとゆっくりと起き上がる。路地裏のような場所にいた。

 ルアも心配そうに俺を見つめていた。大丈夫だよ。

 それよりも、だ。俺はあのおじいさん神の言ったことを思い出す。


「それで、『ノア』のことなんですけども」


「うむ。続けてくれ。おい運転手、聞いておるか?」


「あ、ああ。もちろん聞いてるよ」


 嘘だ。俺は彼女らの話が半分も伝わってこなかった。

 それほどまでにあの神様に言われたことが衝撃的だったのだ。本当にこんなことが可能なのだろうか。

 首元からかけられた小さくした『神剣』の十字架。その中央には、これまでと違いボロボロの時計が埋め込まれている。

 カバーはかけられておらず、直接針をいじることができた。現在の時刻も差していない。長身も短針も、今はどちらも12時を指差していた。


「…………」


 た、ためしてみようか。

 俺は緊張しながらくるくるくる、ほんのわずかに時計の針を動かす。ちょうど120秒分、秒針を回転させた。


 その瞬間、

 世界からまず一切の音が消える。先ほどまで聞こえていたあらゆるもの……例えば雑踏の声、どこかの機械の稼動音。

 如月の声もルアの声も、何もかもが唐突に消え去ってしまった。






  ―――――――――――――時間が止まった。






 そして、






  ―――――――――――――俺だけが、その止まった時間の中で動くことができる。






「ほ、ほんとうにこんなことが……うわあ、まじかよ」


 俺は時間の神様の話を思い出した。なんでも普通の人はこのステータス……すなわち『時間』に関するステータスは『最低』にしてあるらしい。

 最低も最低。全く振らないそうだ。だから万人は時間に対して全くの無力。なされるがまま、受け入れるしかない。

 では、『通常は全く振らない』そのステータスを、『限界まで振る』とどうなるか――――――











 ―――――――――――――時間に干渉して、それを操作することができる。











「………試してみよう」


 そうだな……俺は銅像のように動かない如月の髪留めを解いてみた。

 ポニーテールがパラリとはだける。髪紐を彼女の膝元に置くと、ちょうど120秒たった。


「ん……? 変だな、いつの間に」


 如月はほどけた自分の髪を見て呟いた。

 その様子を見て俺はまた確信する。間違いない、本物だ。時間を止めて、その止めてる間俺は自由に動いて誰にでも干渉することができる。


 ……すご。

 まじかよ、強くねこれ。つか強いってもんじゃねーぞ。あの神様、本当はすごいやつだったんだ。

 しかし、当たり前ながら代償も存在した。俺は軽いめまいにも似た疲労感と、頭痛を感じている。

 時間を止めて、操作する時間が長ければ長いほど体にも負担がかかるそうだ。

 ……まあ使いどころを選ぶ強能力。何でもかんでもぽんぽん止めるなんてことはやめたほうがいいみたいだな。


 ……で、


「えっと、なんだっけ?」


 ようやく落ち着いた俺はルアたちに言い返す。その通り、聞いていなかったのだ。

 如月が髪を結びながら批判がましい目を向けてくる。許せ、それどころじゃなかったわけだよ。

 それからルアは言った。


「ええと、どこからです?」


「その『ノア』とかいう……制御コンピュータ? 統括コンピュータの次から」


 ああ、わかりました。

 彼女は続ける。


「『方舟計画』―――――――――――――というのがありまして」


「え? 方舟」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。

 如月はもう聞いていたのだろう。険しいながらも、涼しげな顔だ。


 こうして、

 『力最強の旅』はここで終わりを告げる。力なだけにまあ色々と派手な旅路だった。

 できれば次はもう少し穏やかに行きたいね。少なくとも俺はこの時はそう思っていた。


 それが、

 『最悪の形で外れる』ことになるとは、この時思いもよらないことであった。


「ええ。簡単に言うと……大掛かりな虐殺行為のことですよ」


「ぎ……虐殺!?」


 俺は聞き返す。

 ルアは冗談を言っているようには見えない。そのまま彼女は続けた。


「ええ。虐殺。機械による―――――――――――――『人間狩り』です」





第2章 終了


To be continue ……――――――――――

これにて第二章終了。第三章に続きます

読んでくださった方ありがとうございましたー!

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