その1 狙撃手と神の実験台2
俺は生まれ変わった。
転生? 転移? ともかくまた生をうけたらしい。マジで意識がある。路地裏らしき場所に寝転んでぼんやりと視線を漂わせていた。
あの神…『運の神』の言う通りだった。そりゃあ、言われた時は信じられなかったが、今自分自信が身をもって証明している。
明らかにここは『地球』じゃない。
俺は神様との会話を思い出した。
「なんだって? 地球の日本の東京に戻るんじゃないのかよ!?」
「うむ。そことは別次元の『ハオルチア大陸』という『異世界』だ。そっちにこれから生まれてくる人々のステータスを、その前に君で試したいからね」
……とのこと。大小様々な国が密集し、『十字河』という読んで字の如く『十』の字の巨大な川によって四つに分けられる混成大陸。
世界観・文化は国によって様々。いろんな特色の国があるわけだ。
それだけではない。さらにあの神との会話を思い出す。
元地球人である俺が行動しやすいよう─────つまり神様連中の『実験』が行いやすいように、地球と文化や言語が近い異世界に召喚される、と。
それがこの『ハオルチア大陸』だった。言葉も通じるし、文化レベルも地球と酷似する。
なるほどそりゃそうだろう。せっかく異世界に転生しても言葉も通じないし、何やら生活様式が全く異なるし、では意味がない。
服装を見てみる。TシャツにGパン。死んだ時のまんまだな。
唯一違うとすれば胸元にあるペンダントだ。十字架を模したようなそれは、ふっふっふ……驚くなかれ『剣』である。そう、小さくした剣だ。
再び神様との会話を思い出す。
「ハオルチア大陸ではこれを持っておくように。『神剣』という。大きいけど、小型化してペンダントみたいに首からかけられるからね」
「……そのまんまのネーミングだな。うわっ、重い」
「ステ振りの触媒になる道具だ。普通に剣としても使えるし、そのへんの名刀より質良く作られているからね。
生き返ったらこれを身につけているときのみ、我々神のステ振りの効果が得られる。決まった人で何回もステ振りを検証するとき、どうしてもこういう道具が必要になるんだ。生身のステータスを何度も変えていると本人に負担がかかるからね」
「ふーん……ってことは俺は……」
「とりあえず君の諸々のステータスは全て『ちょうど平均』だ。そして『神剣』のステータスは運のみ全振り……つまり『最高』にしてある。
ゆえに、君は神剣を身につける最強の運を手に入れることができる。
神剣が壊れたり盗られたりすればその能力を全て失う。欠けたり、ヒビがはいったりすればその大きさに準じて能力が減少」
だそうだ。無くしたら大変である。
俺はぐっとペンダントを握った。よしよし、まあ肌身離さず身に着けてれば大丈夫だろう。
まあそれはいいとして。
さてこれからどうしよう。そもそも、神様の実験台って一体どんなことをやればいいんだろうか。
なんてことを考えるまでもなく、再び神様の言葉を思い出す。
「そうそう、ハオルチア大陸ではなるべく波乱万丈に生きてほしい。
危ない目にあったり、冒険をしてみたり。多少どんぱちやらないとステータスを試す意味がないからね」
……とのことだ。そりゃそうか。平穏に生きてちゃ試験もなにもないし、わかりにくだろうしな。
さて、話を戻そう。
これからどうすべきか。波乱万丈以前に、そもそも右も左も分からない。日本ならばまだしも、異国……いや、異世界ではないか。
と、その時だ。
「ん?」
なにやらどたどたどたどたと騒がしい。そちらを向いてみると……
なんだありゃ。いかつい男3人が、やけに慌てた様子で駆けてくる。
「あ、兄貴! ほんとなんでしょうか! ほんとうに……」
「はぁはぁ、ああ、間違いねえ! 『銀色のスナイパー』だ! とにかく逃げろ! やつに目をつけられたら……」
ダァアン!! 響き渡る銃声。俺は思わず肩をすくめた。
え!? え!? なんだ!? なにが起きたんだ!? 目の前の男の一人が血を吹き流しながら倒れる。
仲間と思われる数人が飛び抜くと、各々拳銃を取り出した。すご……ほんものだ。
それだけじゃない。この人たち腰に長い剣? サーベル? かなんかを挿している。
そうそう、神様が言っていた。ハオルチア大陸は剣と魔法……と銃の世界。どうやら本当らしかった。この人たちが全部証明している。
「ちくしょう! おい、どこにいやがるんだ! 姿をあらわしやがれ!」
「おい! 無駄に打つな 弾が……!」
残った二人……一人は丸刈りで一人は長髪。
うち長髪の方が闇雲に銃を乱射する。再び路地裏に何発もの銃声が響き渡り、おいおいこえーな。俺は耳を塞いだ。
だが、打った弾は目標を捉えなかったようだ。カラカラカラと転がり、足元に落ちる。
丸刈りの方も銃を構えながら周囲を見渡した。
そして俺と目が合う。そう、俺は腰が抜けたかのように、転生(転移?)してからその場に立ち尽くしていたのだ!
……後々考えると隠れたりしといた方がよかったかもしれないな。どこにでもいそうな地味で『普通』な容姿の俺。
当然舐められやすく……そう、言うなれば『人質』になんか最適なんじゃあなかろうか。
「おい銀色のスナイパー! どこかで見てるんだろ!! 今すぐ狙撃をやめろ! やめないとこいつを殺すぜ!!」
丸刈りが街中に響き渡るような大声で言う。ほら言わんこっちゃない。「え、俺!!? おい、離せよ!!!」
言ってみたところでどうにもならないことは目に見えていた。丸太のように太い毛むくじゃらの腕でがっちり掴まれる。
それだけではなく、首筋に冷ややかな感触が。えぇ……剣を突きつけられているんだ。
ふざけるな……いきなりピンチじゃないか。俺はゾッとした。暴れてなんとか逃げようとするも、まるで動けない。すごい力だ。
「さすが兄貴! さて、どこにいやがるんだ」
子分だろうか。長髪の方が周りを見渡し始める。
双眼鏡を覗いて、狙撃手? 襲撃者? ようわからんがそんなのを探し始めた。
丸刈りの方は俺をがっちりと盾にしながら笑う。弾丸の飛んできた方に俺の全身を突き出しているんだ。恐ろしいことこの上ない。
「へっへっへ、手は出せねえはずさ。銀色のスナイパーは最小の弾丸で必ず敵を仕留めることで有名だ。
依頼と無関係な人間や善人は絶対に殺さない。ひゃっはっは!! この前科百犯の大悪党、マカセ・K・コアクティを打とうとしたのが運の尽きだったな! おい子分! 探し出してさっさと撃ち殺せ!」
「く、くくっ! おい、ふざけるな離せよ!! おいっ!」
どこが運がいいんだこれの!? 俺は心の中で神様に抗議した。もう猛抗議だ。
いやいや、偶然降り立ったところで前科百犯のやつと鉢合わせするなんて運が悪すぎるだろ!?
しかもなにやらこいつら……話を聞くに襲われているらしい。スナイパーがいるという。冗談じゃない。そいつらが俺もろとも撃ってきたら……。
だがその心配とは裏腹に、謎のスナイパーはうって変わったように銃撃をやめる。
「ほらみろ。こいつを盾にしたおかげで助かった。おい、このままアジトに運ぼうぜ。そこで殺して金目のものを奪うんだ。臓器は闇ギルドに流してしまおう。若い健康な男だ。高く売れるぞ」
「ですね。おら、暴れるな! このままこっちにこいっ!!」
な…!! 俺は目をむいた。盾にされたまま丸刈り……さっき名乗ってたがマカセというらしい。
マカセと子分に引きずられる。
「おい、やめろ! 冗談じゃない!! なんとかいうスナイパーが撃つのやめたじゃねーか! 離してくれよ!」
「狙撃をやめたら殺さないとは言ってないだろう。はっはっは!! おらこっちにこいっ!」
なんだそりゃ!? いやいやふざけるな。ようやっと生き返ったんだ。転生して30分もしないのにぶっ殺されてたまるか!
というわけで俺は暴れる。どうせもともとピンチなんだ、遠慮はいらん。だが抵抗も虚しく、がっちりとでかい二つの腕は俺という盾を離そうとしなかった。
「ぎゃっ!!」
「ん?」
……のだが。
どういうわけかその拘束が緩む。俺はダッと走って距離をとった。
振り返るとなぜかマカセが悶絶している。え? そういえば俺が無茶苦茶に振り回していた腕がどっかに当たった気がしたのだが……
といってもそんなに強く殴ってないぞ。
そこで俺は分かった。
どうやら振り回した腕が『運良く』、マカセの小さな、しかし治りきっていない古傷をえぐったらしい。
読んで下さった方ありがとうございましたー