その24 狙撃手と秘技『綱引き』
「あ、あのバカ……!! 普通にまともに立ち向かいやがった」
なんてこったい。馬鹿正直に正面から相対することはなかろうに。俺は絶句した。
少し思考する。が、考えたところでなんにも答えなど出ない。
ええい仕方ない。味方が頑張っているのに俺一人だけ隠れてられるかっ! というわけで俺は如月の隣に並んだ。
「そ、そうだそうだ!! お前ら恥ずかしくないのか! おい、お嬢ちゃん、ちょっと下がってな」
後方で呆然と立ち尽くす少女にいう。
近くで見るとよくわかるが、本当に人間によく似ていた。黒色のワンピースを着ている。
その裾がほつれ、ところどころ泥や油だらけなのが見える。彼女は俺の声にびくりと方を震わせると、
しかしだ、突如現れた見ず知らずの助っ人に、困惑するばかり。そりゃそうか。いきなり見ず知らずの人間が二人……しかも格好としてはかなり浮いてるし。
《ピピピピピピピ》
「ひぃっ!」
ビビりながら俺は振り返る。敵の機械兵……デカイのがなにやら機械的な(当たり前か)音を出しながら一歩後退したからだ。
《……ボウガイシャ2名 『異物』ト認識 統括こんぴゅーた『のあ』ヨリ 新タナ指令 ヲ 上書キシマス》
「……っ」
ほとんど同時に、如月の目が険しく光るのがわかる。その瞬間彼女は俺に叫んだ。
「来るぞ!」
《『異物』ハ―――――――――――――ハイジョ》
ド ォ オ オ オ ン ! !
「うわああぁぁっ!!」
「っと……ふむ、普通に殺す気みたいだな」
軽く飛んで避ける如月に比べて、俺は必死だった。そりゃそうだ。こいつみたいに戦うことに慣れてないからね。
つーかまじかよ!? 普通にぶっ放して来やがったぞあの機械兵士! 俺はゾッとした。如月の声がなければ確実に撃ち殺されていただろう。
そして、流れた弾丸の威力にさらに目を丸くする。さっきまで隠れていた大きなオブジェ―――それがたったの一発で跡形もなく粉砕されていたのだから。
「えぇ……。って、ドン引きしてる場合じゃない! おい、お嬢ちゃんこっちだ!」
俺は考えるよりも早く体が動いた。爆風に煽られて腰を抜かしていた少女を抱えて――――――――逃げるっ!!
逃げるというか、この場合は『逃す』か? ともかく、このまま少女がここにいたのではせっかく助けに入ったのに意味がない。彼女が危害を加えられては本末転倒だ。
俺に担がれた状態で、少女は叫ぶ。「あ、あの!! あの!」
「いいんだ! 遠慮すんな! 厄介ごとに巻き込まれるのは慣れてるんだ! 巻き込まれるってか……勝手に巻き込まれに行ったんだけど」
「そうじゃなくて!! 後ろ! 後ろ!!」
「ん? うおわっ!!」
俺は盛大に転んだ。少女も二転三転して……綺麗に着地する。結構運動神経いいんだな。
それどころじゃない。俺は振り返った。足元に違和感。なんじゃこりゃ!? 紐……!?
俺の右手には何本も束ねて強靭に加工された鋼鉄製のそれががっちりと巻きついていた。その先を目で追うと……
「げ……嘘だろ……うわわわわっ!!」
あの犬のロボットだ! 二匹ともこっちに走ってくる。うち一匹の顎の辺りから件の紐が伸びていた。すげーなあんな機構が搭載されてるのか。ちょっとかっこいいな。
ってそんなことはどうでもいい。ひもは回収されていく。つまり必然的に俺はズルズル引きずられるわけで。
もう一匹の犬型ロボット――――研ぎ澄まされた刃の輝きを放つ爪と牙に、当たり前ながらヘタレな俺は泣きそうになる。
「冗談じゃない。まて、まてよちくしょう!」
俺は半壊した噴水のへりを掴む。いててててて……そう引っ張るなって!
慌ててワイヤーを掴み返すと……犬と綱引きするような格好になった。いでででで足が抜ける。
業を煮やしたもう一匹がこっちに近づいてきた。ギリギリギリギリという唸り声を上げながら、再び爪と刃が俺に襲い来る。
いやいやあんなの紙のように切り裂かれちまうぞ。
「うわっ!!」 俺はとっさにもう片方の手で『神剣』を大きくすると、剣身で相手の噛みつきを防御する。
「くっ!! 引っ張るなってのに……このっ!!」
ええいこうなりゃ力くらべだ! つーか綱引きなら負けんぞ! ハオルチア大陸力の強い男をなめるなよ!!
俺は思いっきりひもを引っ張った。片手かつ相手は金属の塊だ。普通ならば当然この運動会に負けるのは人間の方だろうが。
心配無用。力のステータスはカンストしている。
「おらぁ!!」
軽々と引きずられる犬型ロボット。
俺は適当な長さまで紐を手繰ると、そのまま投げ縄のように思いっきり振り回してやった。
当然まさに飛びかかってきたもう一匹にぶち当たるわけで……けたたましい音に火花、部品が散る。
ざまあみやがれ! これで一安心――――というわけにはいかなかった。
片足に激痛が走る。
「な……!!」
体が粉々になり、もう四肢を動かすこともできない。
頭が外れたにもかかわらず稼働する犬型ロボット。首だけになった頭部が俺の左足に噛みついていた。
同時に、背後から声が響く。あの少女のものだった。
「『コア』です!! 頭部にありますから! それを壊せばダウンします!」
「こ、コア!? ええいわからんけど、このやろっ!」
神剣で思いっきり引っ叩いてやる。
ギギギギギギという嫌な音ともに、半分ほどひしゃげた頭部は動かなくなった。
***
「おい、怪我は!? あんた、怪我はないか!」
「は、はい。あの……すみません私のせいで」
少女は一目散に俺の元へ駆け寄ると、開口一番頭を下げた。どうやら怪我がないようで一安心だ。
つーか俺の方が負傷している。傷は浅いにせよ、足からはだらだらと出血していた。
「そうだ……如月が……! なあ、あのデカいのの弱点は!? そのコアってのがそうなのか?」
「えっ。は、はい。全てのロボットは体のどこかにコアを持っていて……それを壊されると」
「あのデカいののコアはどこにある!? 場所は!?」
俺は食い気味に言った。こいつはまずいぞ。斬っても壊してもまだ攻撃してくるなら、
少なくともそれを知らないと今の俺のように不意を突かれる恐れがある。
少女は慌てて答えた。「あのタイプは……右胸です。」 聞くや否や俺は駆け出す。
彼女も意図が分かったのだろう。俺の背後から遠慮がちについてきた。
如月の姿が見える。案の定まだ交戦中だった。
「如月!!」
「右胸だ!!! 右胸を狙え!! 中に弱点があるんだ!!」
読んでくださった方ありがとうございましたー!