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その23 狙撃手とすべての始まり

 さてさて、腹も膨れたということで俺たちは消耗品を買って回ることにした。

 とはいえ日用品なんかはまだ余っているため、主に買い集めるのは保存食と魔導だ。如月は食べ物を、俺が魔導を買い集めることにして。

 分担すればなんということはない。すぐ終わった。時刻は16時頃であろうか。待ち合わせていた公園の―――なにやらごてごてした装飾のある噴水の前だ。俺は如月を待つ。

 程なくして、紙袋を沢山抱えた彼女がやってきた。俺を見かけると足早に歩を進める。


「ちょっと買いすぎたかな」


「なあに、多少多い分はいいだろう。さて帰ろうぜ」


 帰る? 如月は首をかしげた。

 俺は続ける。「ソラさんのとこにだよ」


 なんというか、やっぱりあれだな……彼女だけこう、仲間外れにするみたいなことはしたくない。

 もう何時間も経過していたが、とうとう連絡はなかった。つまり今の今まで外で待っているということじゃないか。

 当初の予定だとこのままゼータポリスで何泊する予定だったのだが――依頼がないかどうかもかねてな。

 しかし、ソラさん抜きだとどうにも締まらない。


「うーむ」


 すると如月はしばらく悩むそぶりを見せた。が、俺と同意見だったのだろう。やっぱりこいつも心のどこかで心配してたのかもしれないな。

 「そうだな、戻ろうか」 俺に同意すると、紙袋を持ち直す。というわけで俺たちは踵を返し、U番ゲートへと向かった。

 地図を見る。なるほどこの大通りを北の方に向かえばいいのか。


 その時である。



 ビー!! ビー!! ビー!!



 警報のようなものが町中に響き渡る。な、なんだ!? 俺たちは周囲を見回した。

 いたるところに設置された拡声器から、声が聞こえてきた。抑揚のない、コンピューターで作られた合成音だ。


『統括こんぴゅーた『のあ』ヨリデンレイ! 統括こんぴゅーた『のあ』ヨリデンレイ! コレヨリ区画Uニオイテ C級戦闘ぷろぐらむ1体ト、B級戦闘ぷろぐらむ2体ヲ 解放シマス! 

 危険デスカラ区画Uニイル方ハ 今スグ最寄リノ建物ニ避難スルカ 600秒以内ニU区画カラ離レテクダサイ

 ナオ、避難、オヨビ籠城指示ニ従ワナカッタ際ニ生ジタアラユル損害ニ対シテ、統括こんぴゅーた『のあ』ハ保証、オヨビ責任ヲモチマセンノデ、ゴ注意クダサイ

 繰リ返シマス! 統括こんぴゅーた『のあ』ヨリデンレイ! 統括こんぴゅーた『のあ』ヨリデンレイ! コレヨリ区画Uニオイテ・・・』



 ビー!! ビー!! ビー!!


「な、なんだ?」


 避難指示? 撤退指示? ともかくけたたましい警報の音ともに、電子音声の声が響き始めた。

 それまで公園でのどかに暮らしていた人々も、顔を見合わせて一様に困惑した表情を浮かべている。

 すると、どこからともなく誰かの声が聞こえてきた。「C級だって!? やべえ、巻き込まれるぞ!」

 C級……? わけわからんな。そうなると今度は慌ただしく、気がついたら公園には俺たち以外人っ子一人いなくなってしまった。

 参ったな、状況を聞こうにも聞けやしない。


「って、ぼんやりしてる暇じゃない。おい、どうしよう!? どっか建物は……。おい、如月?」


「……」


 如月は俺の問いかけに答えなかった。ただこちらが話そうとすると、片手を差し出してそれを制する。それから静かにしろとジェスチャーした。

 耳を澄ましているようだ。琥珀色の瞳がすぅっと細められると、やがて彼女はぽつりと言った。


「悲鳴が聞こえる」


「は? 悲鳴?」


「むこうの方だ。こっちに近づいてくるぞ」


 ……毎度のことながらこいつの身体能力には驚かされる。いったいどんな耳したら悲鳴なんか聞こえて来るんだ。

 当然ながら俺には全く聞こえなかった。その代わり……少々遅れて、如月の言った通りだ。遠巻きに甲高い悲鳴が聞こえて来る。

 やがて、一つの小柄な人影が。今まさしく公園の入り口に現れるのを、俺たちは見た。


「た、助けて!! お願いします! 誰か助けてください!」


 それは、一人の少女だった。年齢……いくつくらいかな、十代前半くらいだろうか。

 いや、『少女型のロボット』と言うべきだろうか。肌の質感が俺たち生身の人間とは明らかに異なっている。

 とはいえ傍目から見ていると本当に人間のようだ。現に息が上がっているのか荒い呼吸を繰り返しているし、足元もおぼつかない。かなり超長時間逃げているのだろう。

 肩ほどまで伸びた髪は、疲れ切ったように乱れている。


「だ、誰か……!!」


 そして、少女の後ろ。俺は目を見開いた。


「なんだありゃ!?」


 それは、大柄な一匹の『機械兵』に、二匹のこれまた大きな猟犬型のロボットだった。一目見て明らかに今まで見てきた奴らとは次元が違うということがわかる。

 機械兵の黒塗りのいかにも分厚そうな鎧? 装甲? は見るものに威圧感を与え、相当な重量があるのだろう。ところが軽快な動きは全くその重さを感じさせず。さらに両手にはこれまた大きな魔導銃を持っていた。

 しかし重武装なのに素早い。見る見る少女との距離が縮まる。あとほんの少しで追いつくんじゃ―――――


 という一連の状況を、俺は噴水のオブジェの陰に隠れながら見つめていた。

 ああ……ここで漫画や小説の主人公なら助けに行くんだろうが、勘弁してくれ、俺は元ひきこもりのヘタレなんだ。

 にも関わらず、襲われている少女をスルーできないお人好しでもあった。


「ど、どうしよう……!!? 助けるか……!? しかしどうやって……。おい、如月、如月! ……あれ? 如月…?」


 そこで俺は気づく。あれ? さっきまでいたあいつの姿が……


「おい、」






「―――――――――――――子供一人に寄ってたかって、卑怯だぞ」






 な……!!

 俺は頭を抱えた。


 如月は、逃げも隠れもせず少女と機械兵の間に割って入っていたからだ。

読んでくださった方ありがとうございましたー

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