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その19 狙撃手と移動中

 ガタガタガタガタガタガタガタガタ、

 俺とソラさんと如月を乗せたボロい……じゃなくてアンティークな車は快調に一本道を飛ばしていた。

 例によって左右には広大な荒地が広がっている。それでも数本生きた木々が見えるあたり、なるほど火山帯を抜けた証拠のようだ。

 ハオルチア大陸は場所によって風土が異常に異なる。少し進めば真夏のように熱く、また少し進めば真冬のような気候。残念なことに今は前者だった。


「暑いなぁ」


「暑いですねえ」


 ギラギラと照りつける太陽。うーむ暑い。またこの車にエアコンが付いていないときている。俺は額に浮いた汗をぬぐった。

 ソラさんはいつものように頬杖をついて外を見ていた。彼女も暑いんだろう。いつもの象牙色のコートは脱いでいる。なんかシャツ一枚のソラさんって新鮮だな……結構巨乳なんすね……ってどこを見てるんだ俺は!!

 ……しかし暑い。そういや如月は大丈夫だろうな。俺は頭上の声をかける。


「なんてことはない。暑い暑いと思うから暑いんだ」


 らしいです。そういや羽織りに袴にきっちり着込んでるこいつが言うと妙に説得力がある。

 さてそうこうしていると、目の前に大きな木が見えてきた。広々とした日陰がある。こりゃいいや。


「次の目的地は……ああ、もう少しありますね。ちょっと休憩しましょうか」


 ソラさんは言った。つーわけで止まる。車から降りて木陰の下に腰を降ろすと……うーんやっぱり違う。涼しげな風が吹き込んでくる。しかしでかい木だな。俺ら三人で手を回してもとても手が届かないくらい範囲の広い幹だ。

 如月が俺の隣で寄りかかる。そのままミネラルウォーターを口に含むソラさんに言った。


「……ニグラを出てから、ひとつふたつ……四つ国を超えたな。次で五つ目か。なかなか依頼が来ないな」


「この辺は平和ってことでしょう。そもそも、普通の人にとって殺しの依頼なんてない方がいいんでしょうし。あーぁ……」


 ソラさんは言いながら小さくあくびをした。

 確かに依頼はない。正確には2、3件舞い込んだことがないこともなかったのだが、イタズラだったりあまりにも突拍子な内容だったりと散々だ。

 中には殺し屋と何でも屋を間違ってるんじゃなかろうかと思うようなのまであった。


 だがまあ、退屈な旅路というわけでもない。

 ここに来るまでいろいろあったぜ。例えばある国では俺は死ぬような思いをした。


 思い出す。


================


「ええ……こ、これ!!? これ食うんですか!!? そ、ソラさん……」


「タガメとカミキリムシと……あとこれなんでしょうね……。ん? へえ、ゾウムシの幼虫。如月さんそっちは?」


「ええとめにゅーは……食用ミミズのハンバーグに……。こりゃあれだろ、オオヨロイグモ。この辺の固有種だな」


「ひ、ひいぃ! 勘弁してくれ……!! なんでったってこんなものを!! 俺はなあ、足が4本より多い動物はNGなんだ! 

 おい!! ちょっと店員さん!! あの、昆虫以外の食いもんはないのか!? え? この国自体昆虫食以外取り扱ってないって? そ、そうか……。ってかソラさん、平気なんですか……?」


「別にこれくらい……そんなに悲鳴あげるほどのものでもないでしょう。ちゃんと調理されてるんだし。ねえ如月さん」


「もぐもぐ……うむ、初めて食ったが結構おいしいぞ。特にこのクモの丸焼き、まるでかにみそみたいだ…おい運転手、男がぴぃぴぃ喚くなみっともない。それに、食わんと持たんぞ」


「そうですよ。なんなら食べさせてあげましょうか。ほら、あーんしてくださいあーん」


「いやいや勘弁してください!! ほ、ほんとに昆虫が主食なのか……な、なんつー国だ。……いやでも確かに食べないと腹減るしなあ……ちょっと食ってみるか……。

 …………ゔぉえっ!! やっぱ無理無理ぜっっっっっっっったい無理!!!」


=================


 またこんなこともあった。

 忌々しい昆虫の国から二つほど降った某国の話だ。


=================


「おい如月。どうしたんだお前黙りこくって。最近全然元気ないな」


「…………うむ」


「……どうかしました? あ、もしやあれですか。用心棒としてのお給料に不満でも?」


「………いや、そういうことはない」


「じゃあどうしたんだよ。どっか具合でも悪いのか? それとも悩みでもあんのか。相談になら乗るぜ」


「……………うん」


「そうですよ。言ってごらんなさい。話すと楽になりますよ」


「……………し」


「え?」 「はい?」


「……………梅干しとお茶漬けが食べたい………茶葉と自分で漬けた梅を持ってたんだが……ついこの間とうとう切らしてしまってな」


「あ! そういやお前いつも飯の時一人だけ品数が多かったもんなぁ」


「他のじゃダメなんですか? スープにつけたパンとか、ピクルスとか……」


「和食がいいんだ…………はぁ………」


=====================


 この後俺とソラさんで探しまわったのは言うまでもない。驚くなかれ隣の国まで行ってきたんだぞ。

 しかもないんだこれが。つーか異世界にも梅干しとかお茶漬けとかあんのかよ!? と思ったが、

 そもそも神様も言っていた。俺が元いた国と比較的似た異世界をチョイスしたらしい。

 そりゃあそうか。そもそも言葉が通じる時点で、結構共通点があると見るべきなんだろうな。

 微妙に異なっているのは通貨の単位くらいか。例えば書き言葉なんかは普通に読むことができる。

 そう、今この木の幹に彫り込まれている文字なんかも、俺は余裕で読解することができ—————ん?


「なんだこりゃ?」


 その時ようやっと俺は気がついた。え、なんだこれは。

 大木の幹の根元になんか彫り込んであるぞ。相当昔に掘られたらしく、ところどころかすれている。


《 ゼータポリス ノア 0 8 4 2  ケ204-1193-34 

  方舟計画 2015・9・14 <drddtgu-{nnnnt}"-d"dddadndtdidd D4> 》


 気がつくと、俺と同じようにソラさんも如月もかがんで文章を読んでいた。 

 

「ゼータポリス……って確か…」


 如月が呟く。俺もその単語に目がいっていたところだ。


「ええ」


 ソラさんが言う。


「———————次の、目的地です」


***


 この世のありとあらゆる事象を機械化したらどうなるのだろう?

 幼い頃俺はふとそんなことを思ったことがあった。小さなネジを一つ見た時、噛み合う歯車を見た時など、今でも時々思う。

 俺たちが今目指している国は、まさにそんな思考への回答である。

 

  —————『機械都市 ゼータポリス』


 盆地のようになだらかな窪地に存在するその国は、広大だった。

 とても一目では見渡せない。高い建物がいくつも連なり、非常に近代的だ。遠くから見ていると全体的に銀色チックで、人工的な建物しか存在していないのではないだろうか。


「すご……」


 俺は思わずつぶやいた。今までやってきた国で一番文明が進んでいるんじゃなかろうか。

 ソラさんも如月も同じように圧倒されているみたいだ。


 車はさらに続く。ところがである。近づいてみてわかったが、簡単に国の敷地の中に入れないようだ。

 巨大な防壁……であろうか? 10m以上はあろうかというと壁が延々続いている。


「なんだ……どっから入るんだこれ」


 如月のつぶやきが頭上から聞こえてきた。行けども行けども入り口がないぞ。

 俺は壁のカーブにそってハンドルを切る。すると、どのくらい進んだだろうか。

 ようやっとそれらしき建物が見えてきた。それまでむき出しだった地面が急速に人工的に変わり、タイヤの周りもよくなる。


 そのまま道なりに進むとやがてドーム状の建物が見えてきた。

 大きな電光掲示板も見える。《外来の方はこちらから》《車、飛空機、二輪車はこちら》《ワイバーンなどの生命体でお越しの方はこちら》 云々。

 定められた通りにハンドルを切る。如月がハッと声を上げた。


『ピピピピピ ぜーたぽりす へヨウコソ。クルマヲオイタラ U番ゲートヘオハイリクダサイ』


「なんだこいつは……?」


 俺もつられてそちらを見る。

 ぼうっと浮いた半透明の立方体から、一人の女性が浮かび上がっていた。ははあ、バーチャル映像って奴か。

 如月はちょっと警戒してたじろいていた。しっしっし、あっち行けなんてやってる。おいちょっとかわいいな。

 

 やがてまた道なりに行くと、なるほど大きな駐車場が。しかしやったらごちゃごちゃしてるな。

 立体駐車場らしいが、ゆうに高層ビルくらいの高さがあるんじゃないのかこれ。

 停止する。車から降りると、俺たちはU番入口? 言われた通りの場所を目指す。如月はやっぱりキョロキョロしていた。

 そういやこいつは言葉使いも仕草も服装も何から何まで古風だし、この中じゃ一番浮いているな。


「……すごいな、車が勝手にどっか仕舞われていく……」


「さすが機械の国ですね。さっきのもプログラムみたいですし、ほぼ全自動ですよこれ」


 それから歩いていると、ゲートが見えてきた。どうやら税関であるらしい。

 ここを通過すればゼータポリスの敷地の中だ。っと、その前に受付に行かなきゃならない。

 これまた精巧な、アンドロイド? ターミネータ? 人造人間? 正装の女性型ロボットがにこやかに微笑む。


「旅の方ですか? ようこそゼータポリスへ。伝染病予防の有無を確認しないと入国できない決まりになっています。どうぞご協力ください」


 なるほど見た所人の流入が多いみたいだし、そういうのは必須であろう。

 俺たちは納得して次に案内された部屋へ。医務室であろうか。これまただだっ広い空間だ。


 ところが、である。


「……まずいですね」


「え?」


 振り向く。

 ソラさんのメタルフレームのメガネの奥の瞳。

 その銀色の双眸が険しく光っているのを、俺は見逃さなかった。


 

読んでくださった方ありがとうございましたー

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