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その18 狙撃手と許可証

 俺が廃ビルの階段に足を乗せた瞬間、上の階から轟音が聞こえてきた。銃声だ。

 如月と顔を見合わせる。 


「おい! やべえ! まずいんじゃないのかあれ!」


「落ち着け。我々が敵を一手に引き受けてソラが単独行動する……いいだしたのはあいつだろう。ヘマはしないさ」


 そうはいっても如月も気が気ではないらしい。

 階段を一段飛ばしで上がって行く。おいちょっと待てはえーよ。俺もはぁはぁ肩で息をしながら必死で駆け上がる。ちくしょーさっきから動きっぱなしだからなかなかきついぜ。

 つってもソラさんが心配だ。普段ならヘタレて休む俺も、この時ばかりは最高速度で一階…二階…と登っていく。


 そして――――たどり着いた! 七階! 蹴破るようにして扉を開ける。

 まず最初に俺が部屋に踏み入り、ついで如月。刀に手をかけながら俺の後ろから現れる。


「ソラさん!」 「ソラ!」


 俺はファイティングポーズを取っていた。当然ながら『神剣』はデカくして背中にしょってるぜ。

 しかし、目の前に広がっていた光景を見て、徐々に握りしめた拳から力が抜けて行くのがわかる。


「……お二人とも、元気そうで何よりです」


 ソラさんは両手に拳銃を構えていた。

 右手に持ったリボルバー拳銃、左手に持ったオートマチック拳銃、両方の銃口からうっすらと白煙が上がっている。

 周囲には綺麗に額を撃ち抜かれて絶命する黒服…多分敵だろうな、が二人。


「私、早撃ちもそれなりに得意なんですよ。まあ、狙撃には劣りますがね」


 ソラさんが言う。

 そしてもう一人。


「くっ……な……な……!」


「あ! てめー…おい、ゼルフィとか言ったな!! どういうことだこれはよ!」


 金髪碧眼の女! 次期議会主席を狙う外交大臣―――の娘! そうそう、こいつだ!! 

 そもそもソラさんが事前に行った話では、なんでも俺らのことを告げ口したらしいじゃないかよ。

 油断のならんやつだ。詰め寄って文句言ってやろうと思ったら、その前にやつが口を開いた。


「ぜ、全滅……? 冗談じゃねえ! 職業軍人だぞ!? いわば戦闘のプロだ…そ、それなのにたかが殺し屋の部下二人なんかに……何もんだお前ら!!」


 ゼルフィは俺たちを睨んだ。怒りと困惑。双方半分ずつ入り混じった視線が飛んでくる。

 なるほどそりゃあ信じられないわな。騒ぎが大きくならないよう内密に俺らを殺すとはいえ、敵の人数は全部で30人ほど…だろうか。ともかく多勢だったわけだ。

 そいつらの襲撃…そして後続の追撃。どっちも掻い潜ってほとんど無傷でここにいるわけだから、まあこいつが驚くのも分かる。


 要するに―――その次の言葉を如月が紡いだ。


「……相手が悪かったってわけだ。甘く見るなよ悪徳政治家」


「その通り。職業軍人かなんか知らねえがなあ、古流剣術の達人と…そして、ハオルチア大陸一力の強い男だぜ。ねえソラさん?」


 俺はソラさんを見た。

 彼女もちらりとこちらを見る。リボルバー拳銃をコートの内側にしまうと、片手の拳銃をゼルフィに向けた。


「……そういうことです。さて、」




「―――――――そろそろ、お仕舞いにしましょうか」




 引き金に力がかかるのがわかったのだろう。


「ま、待て!!!!!!」


 廃ビルの中にゼルフィの叫び声が響いた。


***


 晴天の空が広がっていた。

 左右に見えるのは無限とも思える荒野。全く木々の一本も立っていない。こうも変化がないと眠たくなっちまうね。

 俺はハンドルを握りながらこのあいだのことを思い出した。無論こないだの依頼のことだ。

 要人狙撃―――しかし実際に狙われるのは俺らだったという…全くあんなこともあるわけだ。なんとかソラさんの機転で助かったんだけど……。


「でも、ゼルフィのやつ、ほんとに生かしておいて良かったんですかね? そりゃあ、なんでもかんでもポンポン殺すのはあんまり気分良くないですけど」


「ええ。彼女を殺してしまえばもっと大事になりますからね。

 脅してたくさんの「魔導」と向こう何ヶ月分かの金銭……そして、『コレ』。対価としては上々じゃないでしょうか」


「私と運転手で散々暴れといたからな。触らぬ神に祟りなしだ。一旦国を出てしまえば連中もビビって手は出せまい」


 車の上から如月が会話に入ってくる。このやろーまぁた俺を運転手呼ばわりしやがって。絶対わざとやってやがるなこいつ。

 でもまあ言ってることは納得できる。そうさ、あのまま帝政都市『ニグラ』にとどまってたら何されるか分かったもんじゃないが、こうやって離れちまえばもう大丈夫だろう。

 そもそも俺らは殺されかけて迎撃しただけだ。『要人』は結局殺されちゃいないし、そうなるとゼルフィたちも血なまこになって探すまいよ。


 それに、

 ソラさんの手の中にあるもの―――彼女の言うとおりだ。『こいつ』が手に入ったのはデカい……らしい。

 いや俺ハオルチア出身じゃないからよく知らないんだけど。「ソラさん…そんなにすごいものなんすかそれ。」 つーわけで聞いてみる。


「ええ。発行しようにも高すぎてなかなか手が出るものじゃありませんよ。他にも戸籍、身分証の提出やら年単位に及ぶ審査……真っ当な人ならともかく、私たちみたいな裏稼業の人間ならまず手に入りません」


 『それ』は免許証のような一枚のカードだった。裏側を見ると複雑な模様が彫り込まれており、時折ぼんやり光が走っている。

 なんでも指紋を登録し、魔導を流し込むことで正規品/複製品をいっぺんに判断することができる。かなり複雑な機構で、高等な魔導師が何人も集まって作成するという。

 他にも『コピー防止』の魔導も何重にもかけられており、事実上偽造は不可能。登録した本人以外使用できないため、闇ギルドに流れることもまずない。


「へえ……でも確かにもらっといてよかったですね。ええと、俺たちは今ハオルチア大陸を北西から北東に移動してるんで…使うとしたら『十』の字の一番上の部分ですか」


「まあ、当分先でしょうけどねえ。ないよりあったほうがいいでしょう」



  ――――――『十字河じゅうじこう』の通行許可証。



 ハオルチア大陸は四分割されている。海ほどに広い『河』によって。人々はその河のことを十字河と呼ぶ。うん、前にソラさんに聞いたぜ。

 その河の渡航許可証がこのカードだ。ソラさんがゼルフィを助ける代わりに提示した条件の一つ。

 あいつは審査だの戸籍だの全部すっ飛ばしてすぐ発行してくれた。さすがナンバー2の娘だ。コネってすごいな。まあ向こうにしてみりゃ命が助かるんだ。これぐらい安いもんだろう。

 許可証こいつに比べると魔導やら金やらはおまけなレベルらしい。ようやく俺も凄さがわかってきたところだ。

 んでそんなにすごいもんなら、当然話題になることがあるわけで。案の定如月の声が聞こえてきた。


「誰がもっておくんだ、それ。十字河の許可証など無くしたら大変だぞ」


「……だよなあ、俺は勘弁してくれ。そんなもんもってたら心が休まりそうにないぜ」


「私が持っておきましょう。登録された指紋はエクスさんのですがね」


 ソラさんは言った。

 だよな、やっぱこういうアイテムはリーダーが持つもんだし適任だ。

 それに彼女なら大丈夫だろう。俺と違って几帳面だし、責任感もあるし。


 その時である。

 たまたま吹いた風。


「あ」


 ……ん? どうかしました……?


「ああ!! ちょ、ちょっと待って!! エクスさん止まって!! 止まって下さい!! きょ、許可証が……!!」


「え? ちょ……! わっ! ソラさん危ないからまだ扉開けないで!!」


 手元が狂って窓から飛んで行った許可証。

 急停車の後慌てて拾いに行くソラさん。


 ……だ、大丈夫だろう。多分。

読んでくださった方ありがとうございましたー

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