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その14 狙撃手と嘘

「!? ソラさん……!?」


「……あなたも……早く私たちの前から消えてください……」


 リボルバー拳銃の冷たい銃口が―――――――幻術士の額に向けられていた。


「おやぁ……? 怖いなあお姉さん。幻術士はお嫌い?」


 イドロと呼ばれた幻術士はくにゃっと首をかしげた。

 普通の人間だったら銃口を突きつけられれば、多少なりとも変化があるだろう。現に今まで俺が見てきた連中はそうだった。……俺含めな。

 それは恐怖だったり、混乱だったり、怒りだったり、人によって様々だ。


 イドロにはそんな様子が微塵も見て取れなかった。

 そのままソラさんの方に歩いて行く。腰を下り視線を合わせると、ゆっくりと片目で銃の中を覗く。

 万華鏡を始めて与えられた子供のようだ。


 すると、見かねたのか如月が声をかけた。


「おいソラ、流石に失礼ではないか? あの赤い方ならまだしも、彼女は一応我々を助けてくれたではないか」


「いやいやいいんだ、剣士のお姉さん。人にはそれぞれ事情ってものがあるからね。えーっと、お姉さん? ソラさんでいいのかな?」


 イドロはソラを見る。自分の名前が呼ばれた瞬間、ソラさんはビクッと肩を震わせた。あれ……? もしかして怯えてるのか……?

 ガチャ、拳銃が再び額に突きつけられる。そのままソラさんの銀の瞳が、イドロの紫の瞳と交錯した。


「あれぇ……君……これは……」


「あたしの心に……」


 ソラさんは言った。


「土足で踏み入るようなことはやめて」


 キッとイドロを睨む。

 声をかけられないような、張り詰めた雰囲気があった。俺と如月は割って入ることができず、ただ黙って見ているだけ。


「んー……んっふっふっふ……失礼。

 だいぶ嫌われちゃったみたいだねえ……まあ仕方がないや。その銃でズドンとやられちゃあたまったもんじゃない」


 イドロは踵を返した。足元に陣が展開する。


「ボクも尻尾を巻いて逃げるとしよう。あ、そうだその前に……ちょいな」


 ふわり、と杖を振る。青色の閃光が俺達の傷口に殺到した。

 うわっ! なにするんだ!? と思ったのもつかの間。それまで感じていたズキズキした痛み、貧血のときのような倦怠感が消えてゆく。


「お詫びだよ」


「おお! こりゃすげえ! 嘘みたいだ! っていうかあんたいろんなことができるんだな。さっきも炎をはね返したり消したりしてたし」


 イドロは杖を弄びながら言った。


「お褒めの言葉ありがとう。でも今みたいな簡単な治癒魔法は魔術士なら誰でもできると思うぜ?

 幻術士の真骨頂は「精神」の掌握さ。狡猾に計略を張り巡らせ、静かに少しずつ、相手の「肉体」ではなく「心」を抑える。

 使える魔法はなにも幻術だけじゃない。「心」に関する様々なことを研究し、自らの術とする」


「得意……へぇ。魔術士ってのはみんなそうなのか?」


「そうだよ。得意な術は人によって異なるんだ。だからひとえに「幻術士」や「火炎術士」といっても、その内容は千差万別。

 あくまでも大枠でのくくりにすぎないからね。ちなみにボクが一番得意なのは幻術と―――――――」


 魔術師は杖をかざした。

 ぎょくがぼおっと光った。中でメラメラと紫色の炎がくすぶっているように見える。あ、これ俺たちを庇ってでかい炎を消した時と同じじゃないか。


「―――――――対抗魔術。「相手の魔法にカウンターして」放つ魔法さ。

 くっくっく……今度会った時に見せてあげるよ」


 ソラさんが不満げな顔でこっちを見た。

 いやすいません、いいじゃないですかちょこっと話すくらい。

 魔法陣が光り始める。すると、腕組みをして黙っていた如月が口を開く。


「……こんなことになった理由はなんだったんだ? さっきあの赤いのと色々話してたが」


 今度黙るのはイドロ。

 鼓動するように光る魔法陣。その輝きが、栗色の髪をしたから照らしている。


「剣士のお姉さん、なかなか的を射たいい質問だねぇ。しかし、ボクにそれを聞くのは少々よろしくないよ。

 幻術士の術花じゅつかは「鬼灯ほおずき」―――――――」











「花言葉は―――――――――――――「欺瞞ぎまん」」










 如月は表情を変えない。


「ふん、なるほどな……御主にぴったりの言葉だ」


 もともと答えなんて聞けると思ってないんだろう。

 俺も同意見だ。なにやら重要そうな話だったしな。


「また君たちとは会いたいものだね。特に君。エクスくんだったかい?」


 発光が最大になる。イドロは俺を指差した。えっ俺?


「いろいろと興味深いなあ、君は。くっくっく……では殺し屋のお三方、御機嫌よう」


 また……―――――――


 また、いずれ…―――――――


 紫色の光がほとばしったかと思うと、もう魔術師の姿は消えていた。

 行っちまったようだ。しかし本当に妙な奴らだったな。


「……それにしても妙だな。どうしてあいつ、私たちが殺し屋だって分かったんだ……?」


 如月が誰に言うでもなく呟いた。


「それだけじゃないですよ」


 と、ソラさん。

 ドッと疲れが出たように壁に寄りかかる。傷は完治しているというのに心なしか顔色が悪い。


「ソラさん……? 大丈夫ですか?」


「はい。ごめんなさい……少し感情的になってしまったかもしれません。

 エクスさん……あなたが狙われてたのでつい……」


「え?」


 俺は首をかしげた。狙われてた?


「あの幻術士が反射した一撃……。

 あれが飛んできたのは偶然なんかじゃありません。最初から、あなたに向けられていました」



***



 ガタガタガタガタガタガタガタガタ、


 俺とソラさんと如月を乗せたボロい…じゃなくてアンティークな車は、順調に焼け野原となった街を飛ばしていた。

 車を見つけるのに苦労したぜ。なんせ走って走って走ったからな。結構距離が開いていた。

 見つけてからも苦労したぜ。そもそも壊れているんじゃないかとハラハラしたが、どうやらギアが機嫌を損ねていただけ。

 拝むようにゆっくりレバーを倒すと、なんとか動き始めることができたようだった。


「魔術士は、ハオルチアでもっとも強大な存在です」


 ソラさんは言った。


「成るには才能がないといけません。これは先天的なもので、当然私たち凡人は魔法を使うことは不可能です。

 強力な魔物もなんなく使役し、無尽蔵と言えるほどの魔力を従え、そして例外なく途方も無いほどの寿命を手にしている。

 ある軍事大国の軍隊が全て、たった一人の魔術士に滅ぼされたという話も聞いたことがあります」


 少し前の俺だったら、例えソラさんの話でも半信半疑だっただろう。またまたご冗談を、なんて思っちゃったかもしれない。

 だが、今では笑う気になれなかった。あの2人…ファイラとイドロを見ているとそれも頷ける。

伝説のような話も伝説じゃない。事実だ。現に、ファイラは「布の国」をほとんど壊滅状態にしたではないか。

 「魔術士」ってのはそういう存在だったのか。


「それだけじゃない」


 車体の上の如月が口を挟む。

 まだ炎が至る所でくすぶってるし、建物が倒れてきたりしたら危ないから車中には入れと言ったのだが、彼女はとうとう聞き入れなかった。


「魔術士は人間性も少々私たちとは違うみたいだぞ。現に、私は一度だけだが戦ったからよくわかる。

 他ならぬそいつも言っていた。「「まともな人間」なら魔術士になんかなれん」とな」


 なるほど変人が多いっていうことか。それもまた最初は信じなかっただろうが、今なら頷ける。

 出会った二人…どちらも強烈に印象に残っていた。


「そしてエクス。お主はさっきの二人に気に入られたようだしな。

 ともかく、これ以上会うことがないよう祈るばかりだ。幸いながら魔術士自体数は多くないようだし」


 如月の言葉に、俺は今更ながら震えそうになってきた。

 気に入られた…間違いない。これが恋だ愛だの話ならどんとこいなのだが、どうやらそういうわけでもない。俺の「ステータス」の件を悟られたのだろうか。

 そういえば、2人の魔術士の1人が言っていた。「その剣…」と。そりゃ神剣なんてデカイし目立つ。ひょっとしたらそのせいでしなくていい苦労をしなければいけないかもしれないな。

 もしそうなら、うわあ、嫌だ……。神剣の「あの能力」を使わないといけないかもしれない。

 うーむあまり気は乗らないなあ。今まで使ってなかったんだから当たり前だけれども。


 そんなことを考えていると道に出た。

 荒地をさらに進む。


「お……!」


「む……」


「見えてきましたね。」


 前方にうっすらとであるが、建物が見えてきた。

 そこそこデカい建物も何個か立ってるじゃないか。へえ、今まで見た中で一番大きいかもしれないな。


「帝政都市「ニグラ」。さて、一稼ぎしますか」


「え?」「ん?」


 俺と如月は同時に聞き返した。

 ソラさんはまたあのボッロボロの携帯端末を弄っている。


「……――――――依頼が入ったんですよ。それも大きなね」

読んでくださった方ありがとうございましたー!

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