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その12 狙撃手と突然の戦闘

「やっと見つけたぜぇ……!!」


「見つけさせてやったんだけどね……」


 どうやら俺たちは2人の『魔術士』の戦いに巻き込まれたらしい。赤色のローブの魔術士…曰く『火炎術士』。濃紫のローブの魔術士…曰く『幻術士』。

 ソラさんが血相を変えるはずだ。俺は『魔術士』って連中を舐めていた。話を聞くだけならRPGのゲームやなんかによく出てくる、なにやら難しい言葉をごにょごにょ羅列しながら、火の玉だの雷だのを放つだけかと思いきや……


 『街一つ焼き尽くす』業火。


 『触覚にまで作用する』巨大な幻。


 手に負えない。俺は車を降りた。ズキリと左肩が痛む。ダラダラと血が流れ、足元にポタポタしたたっていた。利き腕じゃない方の肩を撃ったのはGJだソラさん。それにしてもいってぇ…。

 ソラさんも同意見なのだろう。視線を交わすまでもなくドアを開く。大事な商売道具であるライフルケースを肩にかける。如月も飛び降りてきた。おいおい、こいつも顔に血の気がない。見てみると、左脇腹が赤く染まっていた。

 ソラさんが誰一人かけることなく揃っているのを確認する。


「逃げましょう、このままでは私たち全員犬死にです。

 特にあの紫色のローブの……彼女に気をつけてください。幻術は巻き込まれると極めて厄介です。なるべく声を聞かないようにして、目も見ないように。あと気持ちをしっかり持って!」


「くっ……魔術士……聞いていたとおりだ。イカれてる」


 憎々しげに呟く如月。そうか、そういやこいつは『ある魔術士』に刀を取られたんだったな。

 俺たち3人は走り出した。車がもったいないなんて言ってられない。流石にほとんど『力』のステ振りを試してないのに死ぬのはゴメンだね!

 俺たち3人はバラバラにならないよう全速力で走る。走り、走る!傷のせいでいくらか歩みが遅いが、こんなときに泣き言言ってられるか。


 周囲はまるで爆弾の雨でも振ってるかと思うほど、ボンボン爆発した。建物が倒れ、破片のシャワーが降り注ぐ。

 魔力だか光だかの塊が乾いた音を立てて弾けたと思えば、今度は逆側からおびただしい数の火の粉が降り注いできたり、全くどんだけ暴れまわってるんだ。

 その時、俺の耳に赤ローブの魔術士…火炎術士の『ぐえっ!』という声が飛び込んできた。


「ふぁっ!?」


 俺の隣をゴロゴロと転がり、吹っ飛ぶ人影。おいおい、やられたのか!?

 バランスを崩し、そのままザザザーっと地面を擦った彼女は、呻き声を上げながら倒れる…のも束の間。バッと立ち上がった。


「ふっふっふっふ……おもしれェ!! おもしれェぞ幻術士!! やっぱり戦いはこうでなくっちゃなぁ!!」


 笑っている。いや、世間一般でいう『笑み』ではない。

 底冷えするような、心の底から隠す気もなく見える惨忍さ。凄惨なそれを相手に『嗤い』に変換して相手に押し付けていた。

 そして俺たちの背後。もう一人の声が聞こえてくる。


「やれやれ……ボクはつまらないね。まず君のその行為は『戦い』なんかじゃあない。ただ好き勝手に暴れてるだけだ。

 本当に相手を倒す気なら、周到に作戦を立てるべきだろう。まず情報を収集し、考えられるあらゆることを予測し、対策を立て、それらを踏まえて幾重にも策をはりめぐらせる。そこからようやく君の言う『戦い』が始まると思うんだがね……ファイラくん」


「ぬかせ!!!!」


 火炎術士……ファイラと言うのか。杖を高く掲げる。


「策略!知識! てめえら幻術士の好きな戯言だよなァ!! 

 だがな、思い知らせてやるぜ!! そんなもん、紅蓮の炎の前では無力だ!! 

 オレの大切な火種、特別にくれてやるよ!! 受け取れ――――」




「――――――――〝セントエルモ〟!!!」




 まばゆく光るファイラの杖のぎょく

 高く挙げられた杖はまるで帆船の帆のようで。

 その瞬間、彼女の杖からまっすぐ直線的な一条の炎が放たれた。なんだこの炎? やたら細くてほとんど『ブレ』てない。まるで猛烈に紅いレーザー光線のように見える。

 って、いかんいかん!! そんな悠長に観察してる暇じゃねえ! 『俺たちの後ろにいる幻術士』を狙ったということは……


「ぎゃあっ!! あっぶね掠ったぞおい!! さっきから俺たちを……!!」


「エクスさん!! 足を止めないで! 走って!! とにかく離れるのよ!!!!」


 く、くそー……!!! 俺は歯ぎしりした。そしてまた走るっ! だいたい、どうしてあの炎使いはこっちに吹っ飛んできたんだ。

 だが俺は気になった。後ろのあいつのことだ。心配しているわけではない。というかそんな余裕はないぞ。


 どうやって対処するんだろう。『レーザー光線』と例えた通り、相当早いのだ。俺は狙われていなかったからギリギリで当たらなかったものの……

 気になる。これがソラさんや如月だったらとてもそんな余裕はないのだろうが、俺は別だ。そりゃ逃げてるけどな。なんたって俺は異世界の人間。魔法なんか見たことすらないのだ。ゲームやなんかでしか見たことない。


 というわけで、


 たまらずチラリと後ろを見る。うわっ!! 紫に直撃する――――――――




「――――――――〝うつし鏡〟」




 なんだありゃ……? いきなり出てきた…鏡……? 

 よく見りゃ火炎術士の気の強そうな顔が写ってるじゃないか。


「『大切』な火種なら受け取るわけにはいかないね………錠つきの金庫にでも入れておくといい」




「〝返す〟よ」




 鏡にレーザー炎が触れる。

 否、『触れた』。それはほんのわずかな時間だった。


 『返る』。

 来た時と逆の軌道を描き、レーザー炎は火炎術士へと殺到した。


「ぐっ……反射魔法っ………!! ちぃっ!」


 たまらず身をよじり、すれすれで回避する火炎術士。

 えっ、自分の炎なのに受け止めないのか。





 ――――――――!?






「危ないっ!!!」


 ソラさんが俺に向かって叫ぶ。ほとんど同時に、俺は反射的に片手を動かした。

読んでくださった方ありがとうございましたー

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