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その1 剣征会最強

剣石ソードストーン・オニキス

象徴:『勝利』あるいは、『一撃』

 アープが剣征会の敷居を跨いだのは、『ファンタジア祭』の三週間ほど前のことであった。珍しく上着一枚でも過ごしやすい気候の、ちょうど太陽が南中した日のことである。

 いつものように黒のジャケットに、黒のズボン、山高帽。今回はその胸の部分に『幻想の国』自警団所属を表すバッジがつけられていた。


 大きな門をくぐり、中へ。

 ちょうど一番隊隊長室でセーラと面会する。彼女は何やら大量の書類とにらめっこしている。

 アープは奥の壁に掛かっているオリハルコンの長剣『エリュシオン』。彼女の代名詞ともいえるそれにちらりと視線を向けていた。


「ええと、『喫煙所』のワイアット・Q・アープね。うちのレイに会いに来たんだろう」


「『喫煙所』じゃない。『幻想の国の保安官』だ」


 アープは咎めるように言った。

 『喫煙所』は有事の際のみ投入される戦力である。従って普段彼ははそちらで名乗っていないし、いま現在大陸警察所属を表す蛇と両天秤のバッジを身につけていなかった。

 有事以外は出来るだけ所属を隠匿せよ、と同組織により常々言われている。……ということがセーラにも伝わり、彼女は「そりゃ失礼」と口を閉じる。


「……ところでセーラ隊長、怪我の方は?」


 その様子を見ながら、ところがアープは尋ねる。

 この場合の『怪我』とは言うまでもない。帝国軍対策のために先日行われた『春のない国』での事だ。彼女は会議に参加したわけだが、そこで狙撃されている。

 より詳しく言うならば懸賞をかけられそうになったソラを庇おうとしたのだが、それより前に口封じのために、とこういうわけだ(詳しくは三章の『評議会』を読もう!)


「ん? ああ、もうだいぶ癒えたぜ。真打ちは傷の治癒が早いんだ。剣気術のおかげでな」


 より、

 もっと内情を知る者が語るならば、


「…………」


 セーラの返答にアープは無言だった。代わりに思うことは、






 アニー・〝C〟・オークレイリ。






 セーラ・レアレンシス。()()()()()()()()()()()だ。

 喉元まで出かかったその言葉を、しかし彼は飲み込む。今は蛇と両天秤を身につけていないにせよ、それでも自分は『喫煙所』だ。仲間の情報は渡せない。

 同時に思い出す。ちょうどここを訪れる少し前のことだ。


***


 某所。

 『喫煙所』は決まった集合場所を持たない。それはすなわち煙草の煙のごとく、ふわふわと実態を掴ませない組織だった。

 しかし『吸う場所』は必ず存在する。喫煙者が何人か分からなくとも、『吸う場所』には必ず何人かいた。


「おう! おうおうおうおう!!! ワイアット・アープうううううううう(↑)うう!!! ラミーから聞いたぞ! 銀色のスナイパーの殺害しくじったらしいなぁあああアァァァアア!!!」


 鋼鉄の扉が勢いよく開く。現れたのは大木のごとき太い腕、上半身裸の毛深い大男であった。

 ギシリギシリと思い金属音が響く。彼が動くたびに、背中に背負ったこれまたアープの身長ほどもある『武器』が揺れる。


「……ジェシー・〝G〟・ジェイムズか」


「おう!! 新入りのくせに愛想のねえ野郎だ!! ったくよぉ! 拳銃ハンドガンじゃ銀色のスナイパーは殺せねえんじゃねぇのか!?

 やっぱり銃撃は派手にやるに限るぜ! ラミーが許可さえ出せば、俺のこの()()()()()()()()で蜂の巣にしてやるんだがなあ」


 そういえば、それこそラミーから聞いたことがある。

 ジェシー・〝G〟・ジェイムズのGは『ガトリング』のGである。彼特注に改造された巨大な機関砲を武器に、多勢を一瞬で制圧する事を得意としている、と。


「……蜂の巣じゃなくて肉塊の間違いじゃないの」


 そして、その巨体の後ろにもう一人。

 今度は小柄な少女だった。自分よりももっともっと若い。赤茶けた癖のある髪に、ロングスカート。

 そして何より鷹のように鋭い瞳。


「アニーイィィィいい!! そりゃそうか。ちなみにおい新入り! 俺たちはちゃんと仕事したぜぃ!! セーラ・レアレンシスを足止めしてきたんだ」


「あいつを撃ったのはお前だったのか」


「こいつが狙撃したんだよ!! 流石は西部最強の狙撃手だ! 剣装とかいう外套がいとうの隙間をずどんとやりやがった」


 「だから、私は狙撃手じゃないって」アニーはうんざりしたように片手を振った。

 それはそうと、聞いたことがある。

 剣征会の剣士はその機動性を確保するために、『剣装』という防御魔法を重ねがけした外套を用いている、と。

 見かけはフード付きのただの外套であるにもかかわらず、単純な金属製の鎧なんかをはるかにしのぐ物理/魔法耐性。威力の低い弾丸なら弾いてしまうのではないだろうか。


 その隙間をぬう、狙撃。


 アープはアニーを見た。ジェシーとは何度か顔をあわせており面識があったが、この少女とは初対面だ。

 見た目は普通の……少し目つきの鋭い少女……に見えるのだが。どうやら見かけによらないらしい。加えて傍に立てかけられている銃は、スコープのない中口径のライフル。


「……妖銃『フランクバトラー』。これが気になる?」


 「……いいや」見たところ魔導銃のようだが、アープは長銃に明るくなかった。

 恐ろしい腕前だ。聞くところによると近場の大氷山から市街地のセーラを撃ったというのだが。えてして真打ちを傷つけるだけでもかなりの所業というのに、それをこの少女は容易く……。


「お前、出身は?」


 その問いに、アニーはしばらく答えなかった。傍に置かれた木製の椅子に腰掛ける。


「『狩人の国』よ」


「西の方のか。……それって確か……」


 アープが言うよりも早く、アニーは頷く。

 ちょうど傍の彼女の相棒、妖銃『フランクバトラー』がガチャリと音を立てた。

 なんということはないというように彼女は続ける。


「『じゃれ』に消されたわ」


***


「いやあ、皆さんようやっとお集まりいただいて」


 ラミー・ヤーミがその場を訪れたのは、それからしばらくしてのことだった。

 いつものようにきっちりと正装をし、金色の髪は切りそろえられている。飄々として心のうちの読めない笑みのまま、アープ、ジェシー、アニーたちを見た。


「おう!! おう!! おせーよラミー!! なんだ! これからの任務って!!」


「ええ。それなんですけどもね。あ、その前に紅茶を淹れましょう。……ご安心を『アールグレイ』は使いませんから」


 『アールグレイ』は彼の精霊である。飲んだ、もしくは触れた対象の精神と位置を補足するという、まさしく幕僚にピッタリな能力だ。

 三人の目の前に置かれたティーカップ。芳醇な香りを楽しむ前に、ジェシーはがぶりと口をつけた。


「さて」

「実は今後の任務のことです。ええ、これから『幻想の国』へ行っていただきたい。皆さんにはそこでファンタジア祭の警備を行っていただきます」


 幻想の国へ?

 アープはティーカップを動かす手を止めた。冗談だろう。確かファンタジア祭は『剣征会』の面々も共に警備をするということになっている。

 当然ながらアープも含めた幻想の国の自警団も動く。そこへ更に『喫煙所』も加わるとなると……


「随分と大掛かりね」


 彼の胸中をアニーが代弁した。赤茶けた髪の西部最強の狙撃手は、無表情で紅茶に口をつけていた。


「そうなんですよ。実はですね、これには訳があります。ええ。帝国軍が動きます……という情報が出ています。ジェーンさんから……

 あ、そうかアープ君は新入りだから知らないか。ガラミティ・〝D〟・ジェーンという喫煙所の仲間がいるんですけどね……」


 ガラミティ・〝D〟・ジェーン。

 なんでも少し前から帝国へ潜入していたという、喫煙所の構成員だ。自分たちの同僚がそんなところにいるなんて、アープは今の今まで知りえなかった。

 ……のだが、どうやら他のメンツも同じらしい。「あの野郎、抜け駆けして『帝国』にいやがったのか」なんてジェシーの言葉が耳に入ってきた。


「彼女が入手した情報によると、No.14〝移動要塞〟カトプシス・エオネアという帝国軍の幹部が攻めてくるらしいです。ファンタジア祭の賞金を強奪するためにね」


「帝国軍ってのは確か……」


 アープは少し前に行われた『春のない国』での帝国対策会議。そこで話された内容を思い出した。

 帝国軍とはその名の通りジェイド帝国が保有する武力だ。フォーカリアの賢者〝王水〟フィンフィアの部下の調査によると、

 その幹部の数はきっかり百人。強い順に1から100まで番号を与えられ、特にNo.1〜No.7までの7人は、それこそ剣征会の真打ちに匹敵する。


「ちなみに、」

「ついこの間捕まった幹部……孤児院で奴隷を横流ししていたサラという男ですが、彼も帝国軍でした。No.89。〝火竜〟なんて二つ名を持っています」


 そして、特筆すべきは彼らの持つある技術。


「『人工精霊』とか言ってたな」


 ラミーは頷いた。それだ。帝国軍の最も強力で厄介な点は、精霊を保有しているという点である。

 その力の強さはラミーも、そしてこの場にいいない剣征会の面々も既知であろう。

 特に帝国はその精霊を()()()いる。


「そう。人工精霊です。サラの精霊も完全に人の手で作られていました」


 ラミーのその言葉を聞くと、ジェシーはばんばんと机を叩く。


「おうおう!! ってことはええと、その〝移動要塞〟とかいうやつも精霊使いか! 幻想の国を攻めてくると!! おもしれえ! 剣征会の奴らと共闘するわけだな!!!」


 「ええ。そういうことでしょうね」ラミーはそう頷……かなかった。

 ところがである。いつものように飄々とした微笑。「さあ、どうでしょうか」


「え?」


「『共闘』ではなく『三つ巴』かもしれません。ともかくそういうわけで、皆さん『幻想の国』へ、宜しくお願いします。

 ジェーンさんも向こうで合流するらしいですからね」


 『共闘』。2 vs 1。

 『三つ巴』。1 vs 1 vs 1

 アープとジェシーは驚きに思わず紅茶を飲む手を止めた。


 ただ3人の中で、アニー・〝C〟・オークレイリ。彼女だけが普段通り、表情を変えなかった。

新章開始です。どうぞよろしく。。。キャラのまとめは近いうちに作成します。

関係ないけどtwitterや他の掲示板で『銀色のスナイパー』で検索したら話題にしてくれてる人がいてすげえ嬉しかった。

呟いてくれた人どうもありがとー。

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