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その49 保安官ワイアット・アープ8

体調崩したせいで投稿頻度下がってます。

申し訳ありません。

 まずいよ。

 このままじゃ本当に負けちまう。


「くっ! こ、このぉ!」


 エクスはもう一度力を振り絞ってクリンに殺到した。

 神剣を振り上げる。だがそれより一手早く、地面から伸び出した影が足をとった。


「うわっ」


「無駄だよ。僕に触れることすらできないだろう。何回同じことをやるつもりだい」


 ごろりとクリンは長椅子に横になった。剣装に埃が付くのもお構いなしだ。

 またもやエクスはずっこける。さっきからこの連続だった。おまけに向こうはちっとも攻撃しようとしやしない。

 舐められているのだ。


「目がいいかなんなのか知らないけど」


「くっ」


「そろそろ死ぬかい」


 ぞわり、背筋に冷たいものが走る。

 クリンの『動の剣気』がゆっくりと炸裂しようとしていた。今までで一番大きな影がきりのように研ぎ澄まされ、その先端がエクスを睨む。

 ありったけの『動の剣気』が付加されたそれに貫かれれば、自分なぞ木っ端微塵になってしまうだろう。


「や、やばい……! あんなのくらったら……!」


 だが、

 『見えて』いた。エクスには。

 とにかく今の彼は『目がいい』のだ。ここでいう『目』とは遠方を見渡す単純な視力だけでなく、動く物体を捉える『動体視力』も意味している。

 彼は地を蹴って飛んだ。途端に高速で通過する錐上の影。先端がわずかに彼の足をかすめ、鳥肌がたった。


「うまく躱したね」


「お、おう! だから言っただろ! 俺は目がいいんだ! お前の攻撃は躱せるぜ」


 さっき見たいに死角から飛んでこなければな。

 どうやら動かせる『影』にもある程度の制約があるらしかった。例えば大量の影を使役して一気に全方位から自分を刺し殺す、というようなことはクリンは行おうとはしない。

 『しない』のではなく、『できない』のではないか。そうエクスは踏んでいた。故に、こうやってひたすら回避し続ければとりあえずここでこいつを足止めすることはできる。

 それがすなわち、ソラへの協力となるだろう。エクスがやられればクリンは銀色のスナイパー殺害に向かうはず。それだけは絶対にエクスがさせない。

 そのためにここで食い止める。そう硬く誓ったからこそ、彼はこの場でクリンと相対することを選んだのだ。


 だが、

 それも長く続きそうにない。


「……疲れたかい。息が上がってるよエクス君」


「ぐっ! そ、そんなことは……」


 疲労である。

 現にエクスは息が上がっていた。彼は身体能力、特に体力は一般人にちょこっと毛が生えた程度しかないのだ。

 その上今はこの実験台となった『目』で『見る』ことに集中している。精神的な疲労もかなりのものであった。


「そのまま躱し続けることはできないよ。そうだな……持ってあと5回躱したくらいで、君は体力を使い切っちゃうんじゃないかい」


 そうしたらこっちのものだ。

 クリンは口角を上げた。こっちが『影』を使役するのは何の代償も伴わない。強いて言うならかすかな疲れはあるにはあるのだが、

 実際に体を動かしているエクスほどではなかった。つまりスタミナの戦いでは明らかに自分に有利であり、


 そして5回中1回目。

 巨大な影錐攻撃が来る。あまり体を動かしたくないが、かといって動かないと死んでしまう。エクス派思いっきり横っ飛びで躱すした。

 神の実験台の『目』がなければとっくに串刺しになっていただろう。行き場を失った錐の先端は壁を突き刺す。ラティメリア教団の神像がぐらりと揺れる。


「ほれ、次だ」


「ヒィっ!」


 5回中2回目。

 前転のように体勢を崩しながらも、彼は再びその攻撃を避けた。影の錐は乱暴に壁を壊すが、まだエクスを捉えることもできず。

 返す攻撃でさらにエクスの腹を貫こうとしたが、これも大きく走って回避。5回中3回目もなんとか避けることに成功する。


「(こうなったら──────)」


 そこで、

 エクスはある作戦を思いついた。廃教会の周囲を見回す。広さ、地形、それらを把握するためによく『見た』。

 自分はこの教会から出ることはできない。そしてクリンはちょうど中央、あの大きな神像の前に座っている。彼は影で攻撃する。

 加えて、自分は目がいい。さらに、体力的に攻撃を躱せるのはあと3回だけ。


 これら全てを総合すると─────もう『これ』しか自分が勝利できる方法はない。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」


「くっくっく……そら、逃げろ逃げろ!」


 エクスは走った。さらに体力を消耗する。

 だが仕方がなかったのだ。もう『これ』しか方法がない。


 轟音が響く。

 より大きくなり避け難くなった『影』がエクスの後ろを追いくる。

 壁をガリガリと削りながら、さらに殺到した。後ろを振り返る。もう足は震えていたが、それでもなんとか躱し。

 これで5回中4回目。


 ここでちょうどエクスは神像の背中を見つめていた。神像を隔てて、クリンとエクスは相対する形である。 

 すなわち像の真裏に回ってきたわけだ。クリンの視界から逃れたわけだが、それでも影は使役できるらしい。


***


 5回中、5回目が来る。


「き───────」


 5回中、


「─────────来た!!!!」


 5回目。


 もうエクスが避けられる最後の攻撃だ。

 キリ状の影が巨大な音ともに彼に突き刺さろうとする……のを、例によって横っ飛びで回避。

 これまでと異なるのは、そこでどさりと倒れたことだ。膝が笑い、全身から汗が噴き出している。足首から上がズキズキと激しく痛み、もうこれ以上動けそうにない。


 だが、

 これでいい。全て狙い通りだ。

 行き場を失った影はやはりそのまま直進した。もともと勢いをつけているため、止まらないのだ。

 甲高い音が響いた。石膏で作られた巨大な神像。ラティメリア教団が信仰する魚の形をした唯一神の像を破壊する。


 そして、


「………ぐぁあああ!!!」


 ()()()()()()()響く。

 そう、それこそがエクスの狙いだった。神像を隔てて退治していたエクスとクリン。ちょうどエクスを狙おうとしいた影は、

 勢い余ってそのまま神像を貫き、さらにその向こうにいる術者まで────


「…………勝った」


 エクスはため息をついた。

 自分の影で自分を刺し貫くなんて全く、ざまあないな。やったぜざまあみろだ。

 散々人を弄んだ罰だ、と彼は思う。ともかくこれでこちらは終わったわけで、如月とソラさんは大丈夫だろうか。

 なんとか起き上がるも、当面歩けそうにない。漂う『影』に気をつけながら、這うようにして近くの椅子まで……


「……ん?」


 ()()()


「ちょっと待てよ、クリンは倒しただろう。どうして……」


 なぜかまだ精霊が消えていない。

 術者を倒したらその精霊、および精霊に追従する能力も消える。孤児院のアイリスとの戦いで知ったことだった。

 ところがこれでは……


「くっくっく……なーんてね」


「!?」


 もくもくと上がる土煙。

 やがてそれが晴れると、崩された神像の石膏。その上に座っている姿を、エクスは見た。


「な……」


「自分の精霊にやられるわけないだろう。後ろに回り込んで僕に影を誘導する……素人が思いつきそうな戦術だ」


 クリンは無傷であった。

 直前で影を崩したらしい。そう、エクスが裏を取ってクリンを『影』で同士討ちさせようとしていたのだが、

 それを読んでいたクリンは神像を壊した瞬間、さらに影を操作して自分を守っていたのだ。


「さあて」

「5回中6回目。もう体は動かないだろう。君の負けだ」


「いいや……」


 影の錐が横たわったエクスに向けられる。

 もう彼に避けられる余力は残っていない。ぐったりとその場に横たわったままだ。典型的なスタミナ切れである。

 立ち上がろうにも足が震えて立てない。そして立ち上がったとしても、あの高速の錐影を避けられそうにない。


 だが、

 クリンは内心いぶかしんでいた。

 なぜだろう。この男は今から死ぬというのに─────


「…………俺の……勝ちだ……!」


 彼が言うより早く、錐がその心臓に殺到した。

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