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その46 保安官ワイアット・アープ5

 さて、

 時間が少し巻き戻る。ちょうど如月とろろが交戦している頃だ。

 ソラは双銃ボルトランドに弾を込めると、そのまま暗い路地を歩いた。


「……あら」


「!? ソラ!」


 辺境の廃墟。そこに響くもう一人の声。

 セーラはそちらを見る。ソラがまさしくこちらに歩いてくるところであった。月光に照らされて、銀色の髪が光る。

 ちょうど同じタイミングでアープも振り向いた。


「…………お前が……」


「誰ですかあんたは」

 

 アープは言葉を紡ぐソラを見ながら思考する。

 彼は自分の標的……すなわち『銀色のスナイパー』とは初対面であった。ある程度ラミーから容姿の特徴は聞いているものの……

 長い綺麗な銀髪。深く深い、見ていると吸い込まれてしまいそうな銀目。象牙色のコートを羽織った、清楚な女性。間違いなく()()()だ。


「…………」


 同様に、

 ソラもまたアープを見て同じことを思う。すなわち、この黒い中折れ帽の男……『強いぞ』と。

 それは外見的なことではなく、もっと内面的なことだ。同じ銃使い(ガンスリンガー)としてよく分かった。

 ソラは相手のホルスターを見た。まだ抜かれていない拳銃。自動式か回転式か判別できないが……と、その時である。


「『幻想の国』自警団 兼 『喫煙所』、ワイアット・〝Q〟・アープ」


「……!!」


 ()()()()()()()()


 全くの同時だった。


 アープの右手が動く。

 銃声。

 ソラが反射的に建物の陰に身を隠す。


 それらが三つが全くの同時。

 ここはエレメンタリアの辺境だ。

 使われていない建物は無数にある。それらが障害物となり、ソラの体をアープの弾丸から隠した。


「な……」


 もっとも、

 ここに来てソラは先ほどの自分の予感。すなわち、『この男、強いぞ』。

 それが正しかったことを確認する。


 全く見えなかったのだ。

 アープが腰のホルスターから銃を引き抜き、ソラの眉間を正確に狙う。その挙動が。

 ソラだけではない。この倍にいる全員……ゴブリン100体分のゴブリンも、そして動体視力を慣らしているであろうセーラですら、全く。


「えぇ……」


「あ、あの男今何したんです……? 拳銃を抜いた……のか……?」


 ()()()()()()速い─────


***


 ──────超高速の、早撃ち。


「……ぐっ」


 ()()()

 見えなかった。全く。


 身体能力には自信がある。眼鏡をかけているため視力は高くないが、それでも動体視力はそこそこあるつもりだった。

 それが全く……少しも捉えることができない。相手の殺気を感じて、ただ反射的に体を翻したに過ぎないのである。

 アープの狙いが恐ろしく正確だったこともあり、体をわずかに動かすだけで避けられた。

 しかしそれは()()()()回避したに過ぎないのであり。つまるところ運が良かっただけだ。


 まずい。

 これほどか。セーラが闇討ちされたと聞いていたから相応の敵と思っていたのだが。

 いや、それも頷ける。あの男……ワイアット・アープは『喫煙所』と言っていた。


「……ち」


 連中が動くということは。

 確実に自分を殺そうとしているらしい。なるほど、どうやら敵も一筋縄ではいかないぞ、と。


***


「……始まったようだねえ」


 同時刻。

 『春のない国』のギルド。

 ラミーは紅茶を飲みながらのんびりとその様子を『観戦』していた。セーラの体内に残存した自分の精霊『アールグレイ』の能力がある限り、ある程度戦況が分かる。

 母体となるセーラが血を流しすぎているためおそらく持ってあと数分といったところか。結末が知れないのがとても惜しい。


「……天才狙撃手が勝つか……」


 もっとも、今は狙撃ではなく双銃使いか。


「…………あるいは、早撃ちの達人が勝つか」


 『喫煙所』はその超人的な能力に合わせて文字を一つだけもらう風習がある。

 これはコードネームの代わりにもなっており、いわゆる通り名のようなものであった。


 ワイアット・〝Q〟・アープ。

 『Q』とは、早撃ち(Quick draw)のQである。

 通常より明らかに長い長銃身のリボルバー『バントラインスペシャル』の18インチを目にも留まらぬ速さで引き抜くその技術、

 加えて、眉間を寸分たがわず狙う正確性。ラミーは数多くのガンスリンガーに会ってきたが、未だに彼よりも早い早撃ちの使い手は見たことがなかった。


「……さて」


 どう出る。銀色のスナイパー。


***


 避けやがったか。今のを。

 ソラが身を隠す。銃声が轟いたが、そこには目標を打った手応えは存在しなかった。


「……ほう」


 俺の早撃ちをかわすとは。

 決して驕っているわけではない。しかしアープもまた、ソラと同様に意外に思っていた。

 今まで躱されたことなどなかったのだが。彼は思考する。ほとんどの戦闘を抜き打った一発で仕留めてきたクイック・ドラー()に取って、避けられたことはこれ以上ないほど新鮮だった。



 ──────面白い。



 口角がつり上がるのが自分でもわかる。

 アープは歓喜していた。保安官としてではなく、『喫煙所』の人間としてではなく、一人の銃使い(ガンスリンガー)として。

 これほどの相手と戦えるとは。生死をかけた興奮、緊張感、心が躍る。

 撃鉄を起こし、すぐさま次弾が放てるよう準備すると、もう一度ずらりと周囲を見つめた。さてどこからくるか。


 『バントラインスペシャル』。

 明らかに長い銃身。実に18インチものそれが街灯の光を反射し、鈍く輝いた。グリップの真珠もキラリと光を反射する。淡い白の光がわずかに漏れた。


 いいぞ。

 鋼鉄の弾丸が飛び交う戦場。それでこそ自分が生きる意味がある。

 元アウトロー、現正義組織という異例の経歴の持ち主。アープが『喫煙所』に入隊した理由はただ一つ、強者との戦いにあった。

 『喫煙所』に所蔵していれば、正当に連中と戦うことができる。罪に問われることもなく、情報も手に入る。いいことずくめではないか。


 さあ、

 始めようじゃないか。銀色のスナイパー。生か死か。天国か地獄か。

 まさしく一発の弾丸によって生死が一瞬で決まる、血が焦がれるような『戦い』を。


***


「(……なんでパールグリップなんて使ってるんでしょうか。あれ観賞用じゃ……)」


 というかあの銃、見れば見るほど妙だぞ。

 ソラは双銃『ボルトランド』を引き抜きながら思考する。目下アープが右手に持ったあの得物についてだ。

 まず長い。いやはや長い。銃身がデカすぎる。自分の『ランド』の8インチでもかなりの長さであるのに、()()はその2倍以上あるぞ。

 しかもそれを普通の拳銃と違わないほど。……いや、それ以上の速さで引き抜いてくるのだ。どれほどの技量か、その難しさが伝わってくる。


「……とにかく……」


 うかうかしてたらセーラの命が危ない。さっさと片付けてしまわねば。

 まずは近くか。ソラはそう結論づけた。銃使いが銃使いに接近しようとするなど、よくよく考えれば妙かもしれない。

 しかし、自分としては双銃を使う場合『近距離』が一番やりやすいのだ。それに、接近戦となればあの恐ろしい早撃ちも殺せるだろう。


「…………」


 行くぞ。

 勝負は一瞬。ソラは素早く作戦を立てると、ゆっくりと『ランド』をホルスターから引く抜く。

 撃鉄を起こして両脚に力を入れた。

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