表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/190

その37 保安官 ワイアット・アープ4

 さてその頃、剣征会本部。


「……んもー…………うるさい」


 ロロはセーラと別れてからそのままぐっすり眠っていた。

 なんか慌ただしいな。さっきから部屋の外でバタバタ走り回る足音が聞こえる。ったくなんなんだこんな真夜中に。

 文句でも言ってやろう────髪を結びながら扉を開けると、ところがである。夜警の言葉に彼女は自分の耳を疑った。


「………………セーラさんが……狙撃された……?」




 パラリと足元に髪留めが落ちる。

 その瞬間、




                    銃


                        撃                 


    狙  

       撃        セ 


                     ー ラ さ ん が ?


      殺 さ         撃   ち 


     れ               殺   さ       れ      た

          る     撃


          た    瀕 死      死


          れ                ぬ


          た





 ざぁーっと全身の血がたぎり始めるのが感じられた。


***

 

 コツ、コツ、という足音が響く。

 やがてゴブリン100体分のゴブリンの目の前に現れたのは、


「……流石はラミーの精霊だ。場所がもうちょっと正確なら言うことはないんだがな」


 一人の男性であった。

 ベストに黒いジャケット、黒いズボン。黒尽くめであるため夜の闇に溶け込んでいる。

 その中で唯一、鷹の目のように光る双眸が印象的である。

 

「…………来やがったな、『喫煙所』」


 言いながらセーラは立ち上がる。背中のオリハルコンに手をかけた。

 喫煙所……? そうか、こいつが追っ手か。セーラの言葉を聞きながらゴブリンは思う。わざわざ逃げた自分を追ってくるあたり、

 どうやら確実に仕留めようとしているらしい。


「セーラ・レアレンシス……と、ええとそっちは……」


「ゴブリン100体分のゴブリンだ」


「それ名前か……? まあ良い。お初お目にかかる。ワイアット・〝Q〟・アープ」


 『喫煙所』だ。

 男は……ワイアット・アープは言った。


***


 マジか。

 いやここまでくればしばらく時間稼げると思ったんだけどな。


 位置を捕捉されている。

 どうやらあの幕僚……ラミーか。自分より何枚も上手であるらしい。


「……あんたが……ワイアット・アープか」


「ほう、俺のことを知っているのか。それなら話が早い」


 アープはゴブリン100体分のゴブリンを見ながら言う。

 こいつがラミーの言っていた『魔物』であろう。まさかセーラの仲間にこう言う異形の存在がいるとは思わなかった。


 一方のゴブリン100体分のゴブリン。

 何としてもセーラだけは守らなければならない。……そう考えて構えたのだが、

 刹那、力が抜ける。ちょうどアープを見てみると、いつの間にか右手にもたれたリボルバー拳銃。その銃口からゆっくりと煙が上がっていた。


「な……」


 倒れる。

 ところが違和感。打たれたというのに痛みはない。代わりに四肢の自由がまるで効かない。

 「ぐ……てめぇ」同様のことがセーラにも起きていた。お互いまるで動けない。


「麻酔弾だ。安心しろ、俺の狙いは『銀色のスナイパー』。お前らは殺さん」


 アープの拳銃は奇妙だった。

 銃身が何やらありえないほど長いのだ。ソラが扱う双銃『ボルトランド』の8インチでもそこそこ長大であるにもかかわらず、

 アープのそれは倍以上もの長さを誇っている。ちょうど18インチくらいであろうか。



 ───────『バントラインスペシャル』



 その長銃身拳銃の銘を知っているのは、この場ではアープ本人のみ。

 彼はリボルバーに込めていた麻酔弾を吐き出させると、代わりに鋼鉄メタルの弾丸を込め始めた。

 真珠で覆われたグリップが月光を照らし白く輝く。


「……おい! 喫煙所。お前らほどの連中がどうしてソラを……」


 セーラの言葉にアープは無言だった。

 ただ彼女に近寄ると、剣装のポケットに突っ込まれた魔導端末を引ったくる。そのまま操作すると、やがて耳に当てた。


「て、てめぇー……」


「余計なことを言うなよ、……もしもし」


***


「……は?」


 同時刻。

 精霊国家『エレメンタリア』……の某所。

 ソラはたった今端末から発せられら声を聞いて眉をひそめていた。


 先ほどから電話してもしても出なかったセーラ。

 かと思えば向こうからかかってき、出てみれば一言。



 『指定された場所に来ないとセーラと魔物を殺す』



 それは男の声だった。当然ながら聞き憶えはない。

 またこうも繰り返されていた。『中途で『狙撃』しようとしても殺す。場所は……』


「ちょっとお待ちなさい! あなた一体……もしもし!? もしもし! ありゃ、切れちゃいました」


 遅れて端末には、ちょうど打ち込まれた座標が通信されてきた。

 なるほどここへ来いということか。しかしセーラが襲われた、とは一体どういう……


「「ええ!?」」


 当然ながらエクスと如月も驚いた。

 いや当たり前である。『評議会』であった一連の騒動を、まだこの二人は知らないのだ。


「どういうことなんですか! というか一体誰が……」


「……『剣将』を襲う……?」


 如月が気になったのはそこだった。セーラが不意打ちされるような不本意な腕前ではないのは、同じ剣士として当然わかっている。

 にも関わらず……ともかくそこへ急ごう。そう思考した時である。


「いえ……」


 ソラは何事かを考えていた様子だった。

 だが一段落すると、早速向かおうとしているエクスと如月を止める。


「あなたたちは向こうの路地裏に行ってください。セーラさんのところへは私一人で向かいます」


「えっ? なんでです? 三人で行った方が……」


「敵は一人じゃないということですよ。おそらく私の勘が正しければ……ですが」


 お二人はそっちの方をお願いします。

 きっぱりとした口調でソラは言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ