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その32 評議会15

 そこから、

 実に『春のない国』のギルドからめちゃめちゃ離れた高所──────『大氷山』。

 『春のない国』は一面銀世界と表現できるが、こちらはさらにその先を行っていた。

 すなわち、『雪』ではなく『氷』。あらゆるものがすべて完全に凍結され、全くと言っていいほどそれ以外が存在しない。

 鬱蒼と茂る森もすべて凍結され、地面にも分厚い氷が張っている。何十年も前から形成され、風雨によって磨き抜かれたそれはさながら天然の鏡。そのまま歩いていると滑って転んでしまいそうだ。

 その、大きな樹氷の、これまた大きな枝の上。


「……はい、成功。当たったわ」


 一人の少女はゆっくりと照星から目を離す。

 癖の強い赤茶けた髪をゆっくりと搔き上げると、これまた緩慢な動作で枝の上から飛び降りて着地した。

 ロングスカートの裾の霜を払う。中口径の魔導ライフルを肩に担いだ。


「うわはははははは!!! やりやがった!! 死にやがったぞ!! 〝剣将〟!!!」


 もう一人。

 今度は大男であった。少女の倍くらいの身長の、超長身。

 双眼鏡越しに確認する。獲物───セーラ・レアレンシスは血だまりの中に落ちた。少し観察していたがピクリとも動かない。

 興奮して動くたびに背負ったこれまた巨大なガトリングガンがガシャガシャと揺れる。


「もういいから。セファロのとこに戻りましょうよ」


「おっそうだな。いやはやしかし恐ろしい腕前だぜ。さすが西部最強の狙撃手」


 なぜセーラが『銀色のスナイパー』の仲間だとわかったのか。

 それだけではない。どうして二人の『喫煙所』の面々を大氷山に配置していたのか。

 そう、すなわち、


「……ああもう、その言い方やめてくれるかしら。それに何回も言ってるでしょう。私は『狙撃手』じゃないわ」


 大陸警察『喫煙所』所属、アニー・〝C〟・オークレイ。


「がははは!!! おおそうだった。しかしこれであの新入り……なんて言ったかな、ワイアット・アープか。あいつも動きやすくなるな」


 同上、ジェシー・〝G〟・ジェイムズ。


 二人の『喫煙所』所属のガンスリンガーは踵を返した。

 自分たち以外何も動くものがない、一面氷の世界。靴の裏にスパイクがなければ、滑って転んでしまいそうだ。


「ラミーの予想通りだったわね」


「ふははは!! 全くだ! あいつの持つ精霊の力は恐ろしい! 『目的を視る』なんてよ、そうそうできるわけないだろう。おかげで俺たちも退屈しのぎができた」


***


 『春のない国』のギルド。

 たった今携帯端末から入った伝言を一瞥すると、ラミーは立ち上がる。

 目の前には二つのティーカップ。一方が自分の、もう一方がセーラが飲んだものだ。


「……ご苦労さん。『アールグレイ』。これで当面大丈夫だろう。確実に『銀色のスナイパー』を殺せる」


 言いながらラミーは自分の右胸の大陸警察所属を表すバッジ─────の背面に彫り込まれた紋章を撫でた。

 ラミーのティーカップに入っていた紅茶、ルビー色のそれが霧散するように空中に散り、やがて消える。

 『覚醒』を解くと、カップの中はまるで最初から紅茶など入っていなかったかのように空になった。


 しかし、

 驚いたな。あの女剣士……〝剣将〟セーラ・レアレンシス。

 まさか銀色のスナイパーと親友だったとは。いやはや危ないところだった。剣征会の剣士。しかも隊長だ。正面から打ち合いたくはない。 


 『アールグレイ』とは、

 ラミー・ヤーミの有する精霊だった。精霊憑き(※『覚醒』させるために必要な『紋章』が彫られている道具)はバッジである。

 背面にはティーカップとポットの紋様がごくごく小さく彫られているのだが、正面から見ただけではとてもわからない。

 『アールグレイ』はその名の通り、『紅茶』を司る精霊だ。ちなみに作者が一番好きな茶葉でもある。香りが良くてとても美味しいです。

 しかし本質はそこではなく、()()()()()()()()()()()ことにあった。


 セーラ・レアレンシスの思考。

 先ほど話しているうちに手に取るようにわかった。緊張しているのか、がぶがぶ飲んでいたためこちらとしてはこれほどやりやすいことはない。

 『銀色のスナイパーが本当に懸賞にかけられるか探りを入れる』『場合によってはお前らと対立してでもソラを助けるぞ』云々。


「……残念だなあ。すごく優秀な剣士さんらしいんだけど」


 明らかに敵対の意思があった。

 これがもしもただのアウトローならば、さすがにこちらからいきなり殺しにかかったりしないのだが、

 他ならぬ『銀色のスナイパー』だから問題だ。確実に殺しておかなければならない。その障害は、些細なことでも確実に排除する。

 最高権力────セファロタスから言われたことを彼は思い出した。


「まあ……仕方がないことだ。なんてったって銀色のスナイパーは大陸警察われわれにとって……」


 と、そこまで呟いたときである。

 唐突に携帯端末が振動する。見てみると、噂をすればなんとやら。自分の上司からであった。


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