その30 評議会13
〝剣聖〟ソフィア。
いや知らないな。セーラは剣聖とか言われてもピンとこなかった。
それこそ自分も剣士。しかも〝剣将〟とかいう大層な名前をもらっている身分だが、それでも知らなかった。
「……剣聖」
ってどういう意味だ。いや言うまでもなく『剣』の『聖』。つまりそういうことなんだろう。
「何の罪で捕まってたんだ?」
この問いにラミーは答えなかった。ただ意味ありげに笑うのみ。
セーラは首をかしげるが、「いずれわかりますよ」その一言ではぐらかされてしまった。
「とまあそれは言いとして、ええと、ご用件は? まさかこんな話を聞きに来たんじゃないでしょう」
「え? ああそうだった。いや、そうそう、実は聞きたいことがあってきたんだ」
いかんいかん。
アルカトラズからの脱獄。あまりに衝撃的すぎて本題を忘れてしまっていた。
というわけで本題に入り直すことにする。セーラは椅子に座り直すと、紅茶にもう一度口をつけよう─────としてもうティーカップが空になっていることに気がついた。
***
「実はだな、ここ最近……ついこの間のことだ。エレメンタリアに魔物がたくさん出てな」
「魔物ですか」
「ああ。明らかに前と比べて量が多い。ゴブリンやオークや……」
「マジすか」
そこでだ。
セーラは一度言葉を切る。言わんとすることはラミーも分かっており。
「なるほど、賞金稼ぎですか」
「そう! さすが幕僚。話が早くて助かる」
魔物が多く集まるとなれば、当然それを狩ろうとする賞金稼ぎも多くやってくることになる。いわばエレメンタリアが『狩り場』となるのだ。
中央ギルド所属のまっとうな賞金稼ぎなら問題ないのだが、ところがどっこい、連中の中には腕っ節だけで成り上がる───いわゆる『アウトロー』が多いのもまた事実。
「情報が知りたいんだ。剣征会も何かあったらすぐ動けるようにしておきたい。だから、近いうち懸賞がかけられるアウトローを教えてくれないか」
「ふふふそうですか」
これなら多分不自然じゃないはず。自警団の仕事も行えているし、かつソラの情報も聞き出せるかもしれない。
会議前に侍と揉めていたあの春の国の自警団が言っていたこと────『近いうちにソラが賞金首にされる』。その真偽を……。
しかし、果たしてそう簡単に教えてくれるだろうか。相手は大陸警察のNo.2だ。機密情報の扱いというものもあるだろうし……
「ええとですね。一人だけ。『銀色のスナイパー』というアウトローに懸賞をかけようと思ってます」
教えてくれました。ドンピシャ。
「ご存じです? 銀色のスナイパー」
「いや、よく知らない。会ったこともないな(大嘘)」
セーラは首を振った。
本当だったのか。銀色のスナイパーが賞金首にかけられる。等級はどのくらいになるんだろう。いや、それだけではない。
そもそも今まで野放し状態であったのになぜ今頃になって賞金国などという……当然ながら疑問は尽きない。
「凄腕の狙撃手ですよ。それだけじゃない。『双銃術』とかいう妙な銃技を使います」
「ふ、ふーん」
『双銃術』ってのはあれか。いや自分は剣士だからそこまで詳しくないんだが、確か『武術』に似た銃撃方法とかいう。
それからラミーはその銀色のスナイパーの情報を語り始めた。自動式拳銃と回転式拳銃を扱う、銀髪銀目の狙撃手。
象牙色のコートを一年を通して羽織っていて、殺し屋兼賞金稼ぎとして暮らしているアウトロー。どう見てもソラのことです本当にありがとうございました。
「とまあこんなところですかねえ」
「なるほど。恐ろしい奴だな。で、彼女は今どこにいるんだ?」
「そうそう、それなんですけど」
と、言ってからラミーは声を一段低くする。
立ち上がり扉を開けてから聞き耳を立てている人がいないか確認すると、さらに声を小さくした。
「言わないでくださいねこれ。実は、エレメンタリアに潜伏しているんらしいんですよ」
「えっ!」
セーラは精一杯驚いたふりをした─────ように見えて、心底本心から驚いていた。
なぜそこまでバレているんだ。
ソラがエレメンタリアに来ることになったのは全くの偶然である。旅先の目的地を『じゃれ』(※国を消し去るナニカ)に消されたせいで行き場を失っており、
偶然再会した自分がエレメンタリアへ誘ったのだ。つまるところ本来そこへは行かなかったはずなのであり。しかもソラがやってきてからまだ一ヶ月も経っていない。
「まあでもご心配なく。多分剣征会の手を煩わせることはないでしょう」
「は、はあ……と、言うと?」
「もう手は打ちましたから。今殺しに向かわせています。賞金首にするのは保険なんですよ」




