その28 評議会11
そう、『銀色のスナイパー』が賞金首にされてしまう────かもしれない。
件の情報がまだ未知なのだ。春のない国の自警団の荒くれ者が言っていたあの言葉を、セーラもゴブリンも忘れることができなかった。
「……中央ギルドに『賞金首』として指名される手段は二つ」
セーラは楊枝を咥えながら言った。
「一つはヤードが言ってたように、観測所を通して通達される魔物だ。こいつらは最初から最後まで中央ギルドが管轄する」
すなわち、中央ギルドが発見し、中央ギルドが懸賞をかける。
その額は当時の経済状況や魔物の強さによって左右されるという。話を聞いていたゴブリン100体分のゴブリンは、見つかれば自分もm違いなく懸賞をかけられるんだろうなと思った。
「もう一つは、」
『人間が』賞金首にかけられる場合。
いわゆる『アウトロー』というやつである。盗賊、人斬り、闇ギルド所属の、法に縛られない無法者たち。
そういった連中は大陸警察を通じて、情報の収集/及び協力という形で中央ギルドで賞金首とされる。
魔物の場合た討伐(殺害)しなければならないが、こちらはDANA(生死問わず)でもよかった。
「つまり、噛んでいるとすれば……」
「大陸警察……ですかね?」
「ああ。さっきの会議にもいただろう。あいつだ」
一見温厚そうな、金髪のあの青年。
あいつが何か知っている可能性が高い。セーラは濃橙の剣装を取ると、立ちあがった。
***
というわけで、
善は急げである。セーラとゴブリン……ではなく、セーラだけがもう一度春のない国のギルドを訪れていた。
言うまでもなくあの青年に会うためだ。ゴブリンを連れて行かなかったのは、さすがに変装しているとはいえ魔物を大陸警察の重鎮に会いに行かせるわけにはいかないからである。
「なんていう名前だったかな……あ、こいつか」
セーラは関係者にだけ配られた名簿を見た。
ちょうど上から三つ目。大陸警察、ラミー・ヤーミ。大陸警察『喫煙所』、ワイアット・〝Q〟・アープ。
確かに大陸警察の連中は二人ほど出席していたな。あの金髪と、その後ろに一人。
『喫煙所』は武力強襲部隊なので、まあ間違いなく聞くべきはワイアットなんちゃらじゃなくてラミーの方であろう。
ギルドは簡易宿泊所の役目も果たしている。受付にいうと、同じ会議出席者ということもありすんなり通してもらえた。
部屋の前に立つ。
さてどうするかな。銀色のスナイパーのことをなんとかして聞き出さねば。しかし、妙なことを言おうものなら逆に相手に情報を与えてしまいかねない。
例えば自分とソラが幼馴染であり親友であることなど、おそらく知られていないはず。……というか知られたらまずい。逆に情報を聴き出されかねない。
「…………」
ならば、
こういう方法でいくか。案外簡単にその方法を思いついたセーラは、意を決して扉をノックした。
***
ちょうどその頃。
同建物の3階。すなわちセーラがいる階の一つ上。その東側の部屋。
「無事に終わってよかったですねえ」
フィンフィアは窓を開けて春のない国の景色を眺めていた。鋭角的な屋根が立ち並び、遠くには大氷山の万年凍土が青く輝いている。
「……『十二の巻』と『フォーカリア』の同盟の事は言わなくてよかったのか」
窓からゆっくりと吹く寒風が、侍の大羽織りを揺らす。
フィンフィアは無言だった。ところが、景色を見つめたまま、侍の方を向かずに一言。「私は錬金術士でしてね」
「ただの石ころを貴金属に変えてきました」
口数の少ない侍は、問い返さない。
一見無関係に見えるこの話がしかし、重要な意味を持つことは、長年の経験からわかった。
「『錬成』を行う上で最も大事なことは──────混ぜすぎないことですよ」
そこでようやっと振り向く。
「帝国への対策があるからといって、それを全て喋ってごらんなさい。今後の実験ができなくなってしまう」
そう、
それは意図的に隠したことであった。『武術の達人を集めている』といったが、それだけだ。
魔法国家『フォーカリア』と東方國家『十二の巻』の同盟。国と国がつながろうとしていること。当然、言えばこれ以上ないほど衝撃が走ることは必至であり。
しかも、これまで東方國家『十二の巻』が鎖国制度を取っていたから余計にである。
「あなたは國から出たかった、そして私は武術の達人が欲しかった。ねえ、win-winじゃありませんか? 如月 動水さん」
「……知るか。俺は人探しをしているだけだ。国家間がどうなろうと関係ない」
侍は……如月 動水というらしい。
それだけ言うと、以降口を開くことはなかった。




