その26 評議会9
「いやー驚きましたね」
「全くだ。すごかったな。周りの国も国でちゃんと考えてるんだな」
『春のない国』の宿。
会議が終わったのは実に15時すぎであった。セーラとゴブリンは自室で遅い昼食をとる。
うどんをすすりながらセーラは先ほどの会話を思い出す。
あの魔法使い、
だけでなく、実にいろいろな人物が参加していた。
「フォーカリアもフォーカリアで、対策してるみたいですね」
ゴブリンは大きな肉を切り分けながら言った。セーラにもいるかどうか聞くが、彼女は首をふる。
「そりゃそうだろ。しかし驚いたな、『賢者』が出席しているとは」
最初にセーラに話しかけたあの魔法使い。
黒衣のローブを身にまとった少女。ちょうどセーラの次の次に発言したのが彼女であった。
少し前を思い出す。
***
「こんにちは」
ゆるりと魔法使いは立ちあがった。
黒いローブの裾がひらひらと揺れる。セーラは感じることができなかったが、ゴブリンはその少女から発せられるある感覚を、ひしひしと感じとっていた。
『魔力』である。それも、通常操られているであろうそれではない。もっと濃密で深く、そして量が多い。膨大な魔力の片鱗だ。
これほどの魔力────ゴブリン100体分のゴブリンは、はからずとも『ある人物』を思い出した。
「フィンフィア=ジュエルコレクト。元老院『賢者』です。本日は魔法国家『フォーカリア』代表として、この会議に出席させていただきました」
『賢者』。
〝大召喚士〟ゼダム・モンストローサ。彼女と同等の匂いを感じるのだ。
数少ない魔法使い。その中でも超人的な魔力を誇るたった5人の人物、『賢者』。目の前の人物はその一人だという。
いかにも頭の良さそうなその顔立ちを、ゴブリンはもう一度見た。そうかあいつが……同時に目が合いそうになって彼は伏目になる。
いかんいかん、バレてしまうかもしれない。
「フォーカリアもまた、独自で帝国に関して調査を行いました。ええ、少数精鋭かつ人工精霊を使う。それに加えて、」
フィンフィアは明瞭な口調でスラスラと説明する。要点だけがうまくまとめられており、非常にわかりやすかった。
『帝国軍』。
少数精鋭で成り立っている所以は人工精霊のおかげ。これは精霊使いのデタラメな戦闘力を考えれば頷けるだろう。ここまでは先ほどマークが言ったことと同じであった。
「私の部下に、『占星術士』がいます。優秀な魔法使いです。その術士に、現在判明した帝国軍の情報をもとに、さらにその先を予見してもらいました」
『未来予知』というものだ。
ゴブリンはセーラに耳打ちする。彼女は「なんだそりゃ」というような顔をした。
「判明したことは二つ。一つは、帝国の軍は数字で序列されているということ。だいたい100人ほどで、数字が少ないほど強い人工精霊を持つ。そしてもう一つ、軍の上位7人は、」
そこでフィンフィアはちらりとセーラを見た。
正確には彼女と、彼女の隣の愛剣──『エリュシオン』に目をやる。
「それこそ、最上位の精霊『神性』に負けないほどの力を持つそうです」
***
「では、これを踏まえてフォーカリアの対策ですが」
たった100人ほどで一国を攻めいることができるほどの『力』を持つ帝国軍。
いくら強大な力を持つ魔法使いたちといえども、無視できるはずがない。
フィンフィアはそこで一呼吸おく。これから言うことは元老院ですでに可決され、他の賢者も─────もっと言うと魔法使いのほぼ全てが既知のことであった。
「『十二の巻』を始めとして、各国から武術の達人を募っています。魔法使いといえど、肉弾戦は強くありませんから」
そこでちらりとフィンフィアは視線を流す。
その先には『十二の巻』代表───先ほどのあの侍と、隣にも和装の男がいた。




