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その23 評議会6

「おいおい! 隠さずに答えろよおっさん。お前その格好、どう見ても旅人だろう」


 ちょうどセーラの目に入ったのは、おそらく年齢20過ぎであろうと思われる若い一人の男性であった。

 白いシャツに黒色のジレ。両腰にはホルスターに釣られた二丁の大型自動拳銃が見える。

 イライラとした様子で、その茶髪の頭を掻く。間違いなくどこかの自警団所属の人間だなと思った。ここ、春のない国か、あるいは別国か、もしくはそのどちらでもないかです。

 そして、そのガンマン風の男に話しかけられる人物。


「だから、『銀色のスナイパー』など知らんと言っている」


 「あれは……」セーラは訝しげに目を細めた。ちょうど隣のゴブリン100体分のゴブリンも背伸びして見つめている。二人とも長身であるため、周りよりもよく観察することができた。


「知らんと言ったら知らん」


 年齢40過ぎくらいであろうか。

 初老の一人の男性であった。鋭い眼光の、隙のない佇まいの人物だ。

 見た所中肉中背であるが、相当に鍛え抜かれていることが分かる。()()()()()()()容易く見抜くことができた。


 そう、ガンマンと相対する男は剣客だった。左腰に2本帯びている。

 ただしセーラはあまりそのことが気にならなかった。隣のゴブリンも、いや、彼らだけではない。周りの野次馬全員だ。

 男の格好が少々ここら辺では見慣れないものだったので、皆そちらに注目していたのである。


「そうかよ! は、銀色のスナイパーは近々大陸警察から賞金首にされるらしいから、先んじて捕まえておこうと思ったんだがな! 

 後お前、その妙に偉そうな態度が気に入らねェ。俺の名は『甘党の国』の自警団第一部隊所属、テキタウ・ラグドラスだ! 腹がたつから捕まえて異端者として差し出してやる」


 ガンマンの男……テキタウというのか。彼はさっと両手で銃を引き抜いた。

 野次馬の中から小さく悲鳴が上がり、その輪が広くなる。何人か流れ弾に当たってはまずいと足早にその場を去り、セーラとゴブリンは中央に近づいた。


「…………俺は評議会に出席せねばならんのだ。これで失礼する」


 ところがである。剣客の男は特に動じた様子はなかった。短髪の黒髪に一度手をやると、大儀そうに腕を組む。

 それから何事かをベラベラと話すテキタウに、それこそ話は終わりだと言わんばかりに背中を向けて歩き出そうとした。

 少数となった野次馬の数がざっと割れる。


「おいこらぁ! ちょっと待て! 誰が帰っていいと言った!!」


 えぇ……。

 あんなのが自警団なのか。ゴブリンはテキタウを見て困惑する。どうも同じ正義組織といっても、セーラたちのように真面目な連中ばかりではないらしい。

 「言っただろ。血の気が多い奴がいるって」彼女も彼女でため息をつく。いや名声を上げようとして一人で突っ走る変なのがいるんだよ。

 おそらくあの男……テキタウは賞金稼ぎ上がりだろう。もしくは兼業か。そっから腕っぷしを認められて、自警団に入ったクチだと予想できた。


「ど、どうします剣将のダンナ……助けますか?」


「そりゃあもちろ……いや待て」


 まあそれはいいとして。

 本来なら割って入って止めるべきであった。オリハルコンの柄に手をかけかけていたセーラであったが、そこでふとやめる。

 あの男……ガンマンではない。剣士の方だ。あの男の腕のほうが気になった。大口径の拳銃を向けられても動じない大胆さ。それだけではない。今まさに背を向けて歩き出そうとしている。


 もしも殺されそうになったら、直前で助けるか。

 剣気を練りながらセーラは思う。


 その時だ。テキタウは去りゆく剣士の背中向けて駆け出す。そらきた。


「銀色のスナイパーはよ! 『双銃術』っちゅう武術じみた銃捌きをするらしいじゃねえか。あいつと戦うために、俺も真似てみたんだ!! 喰らe」


 そこで、

 叫んで気合とともに撃鉄を引こうとしていたテキタウの動きが止まる。そのまま苦悶に一瞬顔を歪めたかと思うと、次の瞬間にはがっくりと腰を折る。


 野次馬は全員ぽかんとしていた。セーラの隣にいたゴブリンも、止めようと駆け出そうとしていたところである。

 中途半端に足を下げたまま訝しんでいた。あの剣士何をした……? テキタウが叫びながら引き金を引くその瞬間、一瞬半身になって柄に手をかけたのだ。ゴブリンの目に映ったのはそれだけだった。


「ぐっ!! がっ……いてぇ!! いってェ!! お前……な……!! 何をしたんだ!」
















「────────────秘剣『いかずち』」
















 ()()()()()()()()()。剣士はいう。

 傍目には柄に触れただけにしか見えなかったが、テキタウは首の後ろを強烈に打たれていた。いわゆる峰打ちである。そのまま倒れると、驚愕のまま今度こそ気絶した。

 去りゆく男。「な、なにをしたんだ」思わずゴブリンは呟く。


「……飛ぶ斬撃だ」


 セーラは言う。彼女も見えなかったが、しかし彼女の『剣気』は如実に捉えていた。目ではなく静の剣気でわかったのである。


「え?」


「柄に手をかけた瞬間に、見えないほど早い抜き打ちで斬撃を飛ばす……いや、峰打ちだけどよ」


 しかも、その飛ぶ斬撃が『曲がった』。

 頭上で折り返してテキタウの後首にぶつかったのだ。いや、そんなことよりも……


「……へぇ」


 セーラはわずかに笑う。男の格好をもう一度見た。間違いない。


「『十二の巻』からも来てんのか。こりゃでかい会議になりそうだ」


 そう、

 たった今不逞ふていなガンマンを撃退した男は『和装』だったのである。

 黒色の着流しに明るい色の大羽織りを3枚ほど重ね着していた。その無染の帯に、大小を帯びている。一目見ただけで大業物と分かる代物であった。


 一番上の桃色の羽織が寒風に揺れる。

 セーラとゴブリンが気絶した男に近づく頃、件の剣士は…


 …否、


 『さむらい』の背中は、もう見えなくなっていた。

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