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その18 評議会1

「おお、お前が……」


「どうもこんにちは! ゴブリン100体分のゴブリンです! よろしくお願いします!」


 翌日。

 セーラはソラ達が泊まっている宿に足を運んだ。エクスに紹介されてゴブリン100体分のゴブリンは頭を下げる。

 何やらよく分からない動物の毛皮で作った服装に、マスクに目深にかぶった帽子。

 その姿はガッチガチに緊張しており、隣のエクスは苦笑した。


「そんなに硬くなるなよ。じゃあセーラさん、彼をよろしくお願いします」


「おう。どうも、一番隊隊長のセーラ・レアレンシスです。よろしく」


 差し出された右手を、ゴブリンはがっちりと握った。


「は、はい! よろしくお願いします」


 さて、

 帝国が武力蜂起したおかげで、にわかに周辺諸国及び近隣諸国はざわついている。あの大国に攻め込まれればひとたまりもない。

 そこで、主要国が集まってこれからの動向について話し合いを行うのだ。各国の重鎮がやってくるため、そこでセーラがゴブリンの所属に便宜を図れればいい────ということを改めて彼は聞く。


「本当に俺なんかが行っちゃっていいんだろうか。いや変装してるけど」


「なあに構わねえよ。がたがた抜かす奴がいたら私が一言いってやる。じゃあ行こうぜ」


 『評議会』は明日開かれる。

 本来ならエレメンタリアの首都で開催されるのだが、今回は別の国の連中も多数やってくるのだ。そのため少々趣が異なっており。


「『春のない国』か」


 ゴブリンは改めて尋ねた。セーラは濃い橙色の剣装のシワを払う。背負った長剣『エリュシオン』がわずかに揺れた。


「そう、そこで開かれるんだ。つーわけで行くぞ。転移魔導は使えないからな。馬車で1日がかりだ」


 別国で行われるのである。

 これはもはや『エレメンタリア評議会』と言えないのかもしれず、『評議会が参加する会議』といったほうが適切か。

 とはいえそういう細かいことはいいだろう。セーラは踵を返した。


「じゃあそういうことでなエクス。ソラによろしく。え? あいつはもう出かけたのか」


「はい、じゃあなゴブリン! 頑張れよ!」


 というわけで、エクスはセーラとゴブリンを見送る。

 さてこっちはこっちで今日も1日がんばるぞっと。


***


「というわけで、これから『春のない国』へ向かう」


 言いながらセーラは大通りを歩いていた。隣にはスカーフと帽子で変装した親玉ゴブリンが。そして前方、すなわち剣征会本部。その前には一台の中型の馬車が。

 もともと彼女一人で行く予定だったため馬車は一人用のものしか用意していなかったが、直前になって変えたのであった。

 少々質が落ちてしまったがまあ致し方ない。と、そこまで考えていた時である。ちょうど正面玄関に、見知った顔があった。


「おうい、朧」


 四番隊隊長、第四真打ち 朧 月夜。通称〝剣星〟。白髪の長い髪をそのまま流した、左利きの剣士である。その胸元にはダイアモンドの剣石が光っていた。

 セーラが片手を上げると、彼女も応じる。それから隣の長身の男性に、漆黒の瞳が映った。


「評議会の方にこれから行くのか。そちらは……」


「ああ。あ、彼はえっと、新入りだ新入り。一番隊のな」


 正直に説明してもいいが、少々混み合っている。セーラはとりあえず適当な嘘で見繕う。朧は特に疑う様子もなかった。

 ゴブリン100体分のゴブリンは朧と目があって頭を下げる。大陸東部の人かな、と思った。右腰に差した得物が、通常のそれではなかったのだ。わずかに反った刀。ここいらではあまり見かけない。


 その時。

 名状しがたい『違和感』のようなものを、彼はほんの一瞬だけ感じる。

 とはいえ次の瞬間にはそれはもう消え去っていた。一秒にも満たない、ともすれば気のせいとしてしまいそうなほどの間だ。


「ふむ」


 朧は一歩近づいた。一瞬左手を出しそうになり、次いで右手を差し出した。

 それが握手であることに気づくのにわずかに遅れ─────ゴブリンもまたその手を握る。「あ、どうも。よろしくお願いしま……」


「いい『目』だな」


「え?」


 朧は正面からゴブリン100体分のゴブリンの目を見つめていた。いや待てこれバレないだろうな。ハラハラしたものの、

 特に朧が不審がる様子はない。一陣の風が吹き、透明度の高い白髪を揺らした。


「貴公の目だ。澄んでいる。フ……昨今の隊士にはあまりない」


 羨ましい限りだ。

 やがて別れる。そのまま朧はセーラと反対方向に歩いて行った。


「おい、行こうぜ。馬車はあっちだ」


「あ、ああ」


 ゴブリン100体分のゴブリンは、

 その一瞬のみ感じた違和感をぬぐいきれず、いつまでも朧の後ろ姿を追っていた。


*** 


 『中央ギルドエレメンタリア支部』。

 ギルドのギルド───の支部である。前述した通り、各ギルドの管理、および賞金首の管理を行っている。

 新たなギルドを設立する場合や、賞金稼ぎのためにここを訪れるものは多い。今回ソラが訪れた目的は、もちろん後者であった。

 木製の古めかしい建物。一見すると酒場のようだ。事実として、中は大きな丸テーブルがいくつも並べられており、いわゆる『冒険者』の活気ある声で満ち溢れていた。

 門をくぐれば、金属と硝煙の匂い。ところが、雰囲気を楽しむ余裕は今のソラには全くなかった。


「えぇ!?」


 受付嬢の話を聞いて素っ頓狂な声を上げる。

 賞金首、および懸賞がかかった魔物。たくさんいるだろう。いるはずだ。その中から金になりそうなのを倒し、旅費を稼ごうと思っていたのだが……


「申し訳ありません。現在賞金首も魔物も取り扱っていないのです。()()()()()()()しまいまして」


 受付の女はぺこりと頭を下げる。三つ編みにした赤茶けた髪がふわりと揺れた。


「ちょ、ちょっと待ってください。全部いっぺんに倒されたってどういうわけですか。え? だって数百以上いるんでしょう?」


「ですから、数百全部倒されたんです」


「そんな……」


 そんな馬鹿な。

 ソラは受付嬢に断ってカタログを借りる。机に置いてパラパラとめくってみれば、

 見慣れた『Dead or Alive No Ask』通称DANAの文字が。ところが、その写真、そして情報・素性が書かれたところに全て黒でバツ印が付けられていた。

 依頼が達成された証だ。さらにページをめくってみる。最後の頁まで来てようやっと生きた依頼があった。『クソザコナメクジの討伐 報酬1ツーサ』。

 これでは菓子代にもならない。却下だ却下。彼女は無造作に本を閉じだ。


「一体誰が……」


 プロの賞金稼ぎの集団でもいたのだろうか。たまたま活動が自分達と被ったとか。

 いや、依頼は全部で数百だぞ。場所がわかっているから腕に自信があればすぐにでも処理しに行くことが可能であるが、中には自分でもかなり手こずりそうなものも混じっている。

 いくら凄腕の賞金稼ぎの集団であろうと不可能。それを名も知らぬ『誰か』はいとも容易く……。

 その時であった。乱暴に扉が開く音。現れたその人物に、周囲がシンと静まり返った。

 「おい……みろよまた倒してきたらしい」「すげえな、これで何回めだ?」「全部一人で持っていっちまうんだもんな」……云々。小声で聞こえてくる。ソラもつられてそちらを見た。


「おい受付の嬢ちゃん! これで全部だろう! ほれ、『巨大オーク』に『四つ首ワイバーン』に『火怨ワーム』それに……

 あああと賞金首は生け捕りにして全員自警団の預けてきた。ほれ証明書」


 出るは出るわ。

 ゴロゴロ魔物を倒した証ーーー体の断片や首なんかを差し出し。

 また近隣の国の自警団から発行されたと思われる捕縛所をカウンターに置いた。分厚い。それだけでもう何十人分もあるのは明白で。


「な……」


 それよりも、

 ソラはその人物を見て、唖然としていた。


「どうしてあなたが……」


 件の人物は振り返る。


「ん?おお、なんだ……てめェもここにいたのか。久しぶりじゃねえか」


 主は、元『大陸警察』喫煙所の主は、自分の弟子を見てニヤリと笑った。

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