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その7 狙撃手と闇ギルド

 『オプツーサ』について如月と別れてから、まず俺たちは宿をとった。『商業ギルド』の『宿』の部門が管理する宿泊施設だから安心だとか言われたが、詳しいことは知らん。

 当たり前だが俺とソラさんは部屋は別である。別に残念じゃない。


 それから適当な喫茶店のテラスへ。遅い昼食をとり、俺はのんびりと食後のコーヒーなんか啜っている。二人なのになぜか三人席に座っていた。

 ソラさんはこってこてに盛り付けられた、ド派手な色のフルーツパフェを食べている。かなり甘党らしく、昼食もみつをたっぷりと効かせたホットケーキだった。よく 食べていたが太らないのだろうか。


「さってと……これからどうしましょうかねえ。ともかく、依頼人を見つけないと……」


「あら、その心配は要りません。もうじきここにきますよ」


 ……え?

 俺が何か言う前に、ソラさんは携帯端末を取り出す。ひどくボロい、見ただけで安物とわかるものであった。

 さくらんぼを舐めながらピピピと操作する。すると、しばらくして人の気配が……


「『銀色のスナイパー』でいらっしゃいますか?」


 紳士風の男性。俺が「なんだあんた?」というより早く、ソラさんが口を開いた。


「『ご職業』は?」


「『公務員』です。それも『しがない』ね」


 問答が終わると、ソラさんは俺に目配せした。

 一瞬意味がわからなかったが、すぐに察する。俺は三席目の椅子を引いて紳士風の男に進めた。そして、幾分か落ち着いて(いるように演技をしながら)言う。


「――――――依頼、お伺いしましょう」


 ソラさんは俺にだけ見えるようにべぇっと舌を出す。

 吐き出されたサクランボのふさは綺麗に結ばれていた。まるで俺に「よくできました」と言っているようだった。


***


 紳士風の男は自分の名前を『Q』と名乗った。どうせ偽名だろう。

 Qは闇ギルドと闇市を仲介するブローカーであるという。流れてきた盗品をまた別のところに流す、それで利益を得ているそうだ。

 殺しの依頼はとある闇ギルドの頭領。理由は仲介関係の仲違いらしいが、どうも胡散臭い気がする。まあ、あまり聞きすぎてはこちらも部が悪くなるし、俺は黙っていた。

 ソラさんはQに尋ねる。


「では、報酬は……」


「6000万ツーサでどうでしょうか?」


「結構。期日は?」


「二ヶ月後にお願いします。今の今だと足がつきそうですからね」


 おお、仲違いなんかせずにきっちりまとまった。結構結構。例によって6000万ツーサがどのくらいの価格なのか俺はわからないが……その辺はソラさんきっちりしているし、おそらく損ということはあるまい。

 やがて商談はまとまったらしい。初老の男性は立ち上がった。すると、俺はふと思いついたことがあった。


「ちょっと聞きたいことがある」


 ソラさんは若干批判的な視線を送ってきた。用件が終わったらさっさと撤退、というのがいいのだろう。まあまあそう言わずに。


***


 さて、二ヶ月後。

 いよいよ俺たちは行動に移す。ソラさんは購入した弾丸、愛用の拳銃を入念に手入れしていた。

 一方俺は……


「エクスさん……はい、もういっぺん深呼吸して」


「は、はい!! すーっ! はーっ!」


 緊張していた。

 そりゃそうだ、緊張の一つや二つするに決まってるだろう。なんせ今から『殺し屋』として仕事をするんだ。

 正直この時はちょっと運転手の方が良かったかな、なんて思ったね。

 だがまあ仕方がない。なあに、死んだところでまた神様のところに戻るだけだ。大丈夫大丈夫。


 作戦は極めて単純だった。すなわち、近距離と遠距離、両方から襲撃してターゲットを捕捉してぶち殺す。ただそれだけ。

 遠距離はもちろんソラさんである。1km以上離れた廃ビルの屋上から狙うそうだ。車で彼女を送った。

 そして、近距離。驚くなかれ俺だ。というか、最初ソラさんは反対したのである。狙撃地点でターゲットが現れるのを何日でも何ヶ月でも待つ。それが彼女の作戦であった。


「冗談じゃないですよ。そんな面倒なことできますか。俺の剣の腕信用してないですね?」


 正直この時は気持ちよかったぜ。ソラさんは図星だったらしくオロオロしていた。ちょっと俺が怒ったふりをするともう面白いほど焦る。

 というわけで俺は切り込み隊長となった。剣の腕? 当たり前だが剣術なんて齧ったこともない。だが大丈夫。『俺は運がいい』。

 依頼人Qによると、この日確実にターゲットはギルドの中にいるそうだ。つまり、俺は敵の本拠地に乗り込むということになる。

 闇ギルドは裏路地の最深部にあった。ぱっと見とてもそんな非合法な活動をしているように見えないところがタチが悪い。


「さて、行くか。じゃあ行きますよーソラさん!!」


 俺は耳に手を当てて言う。右耳には小さなイヤホンのようなものが差し込まれており、これで遠くにいるソラさんと会話することが可能だ。

 2つの機器の内部の魔導を合わせることで、互いの通信を可能にする。もちろん詳しいことは知らん。

 ソラさんは一言『安全第一で』といった。敵陣に正面から乗り込むのに安全も糞もあるか。


「おりゃーっ!!」


「うわっ! なんだ貴様っ!!」「ぎゃあっ!」


 見張り二人に俺の拳が炸裂した。屈強な男達だったがなんとか一撃で倒すことができた。どうやら運良く急所に当たったらしい。

 そのまま扉を開き中へ。


「ハオルチア大陸一『運のいい』殺し屋エクス参上!! てめえらの悪巧みを成敗しにきた&頭領の首をもらいに来た!!」


 そしてここからは作戦開始。まずは現れる増援、剣やら銃やらを持っている。

 こいつらを自慢の神剣で一刀両断にー――――――しない!!


「追え!! 階段に向かったぞ!」 「逃がすな!!」


「ぬおおおおっ!!」


 俺は力の限り走った。目指すは階段だ。一階から二階へ。

 登り終えたところで神剣を一振り。近くの壁を大きく切り裂き、足止めとした。


「ぎゃあっ!」


 どさどさ後ろで人が倒れる音がする。俺は振り向かずにそのまま走った。

とにかく『階段』を探す。これもQから仕入れた情報であった。ターゲットは最上階にいるという。

 そして、兎にも角にも高所を目指す理由はもう一つ。二階→三階。

よし、この高さなら……俺は周囲を見回した。窓もある。東南の位置。よし、万事オッケー!!

 俺は背後の追っ手に叫んだ。


「気をつけな! この高さ、この位置。お前らは皆『ロック』されている!!」


 瞬間、ガシャアアンという音。俺の右側のガラスが一瞬にして砕けた。


「なんだこれ!? 貴様、魔法使いk……ぐわっ!」


「ぎゃあっ!」 「ひぃっ!!」


 一瞬にして崩れる三人の追っ手。見れば足元にはそれぞれ一発ずつ、弾丸が散らばっていた。

 やれやれ……さすがソラさんだ。末恐ろしい。どんだけ離れてると思ってるんだ。

 正直俺が間違って打たれたらどうしようかとか思っていたのだが、俺は自分がそんな心配をしたことを恥じた。

 建物の間取りは全て頭に入っている。あたりまえだ。Qが手に入れた図から狙撃ポイントを決めたのだから。そして、この正面の部屋が――――――――――――


「ターゲット!! ギルド長『アラタ=ネペンタイス』がいるはず!! へへ、ここまでほんの短時間!! 逃げられt――――――――――ぐほあっ!!!!」


 全てがうまく行く! というかこんなに簡単でいいのかな……

そのとき、俺は猛烈な衝撃を腹に受けて吹っ飛ぶ。思いっきり転がって頭をぶつけた。目の前に火花が散り、口に酸っぱいものがこみ上がる。


「おい! いってえな!! 血が出たんじゃねえのか血!! あいたたた……。や、やりやがったな! どこのどいt――――――――――」


 その瞬間だった。

 俺は思わず言葉を失った。


「ふむ――――――――――」


「……な……」


 俺はそいつを見る。まだ、信じられなかった。


「……どうしてお前が……」


「できれば、御主達とは違うところで会いたかったな――――――――――」


 如月はそう言って構えた。

読んでくださった方ありがとうございましたー


9/4 「プロローグ」を少し改変しました。

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