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その11 双銃術2

「……ほう」


 さて、その頃親玉と戦っている路地裏の面々。

 少々予想とは異なる展開に、バロンボルトは目を丸くしていた。


「どういう風の吹き回しかな、東方の侍さん」


「お、お前……!! どうして」


 青い顔をして死を受け入れていた親玉ゴブリン。ところが、顔を上げればそこには黒の浴衣。藍色の帯。

 如月が割って入ったのだ。後ろで縛った濡羽色の髪が揺れる。

 親玉ゴブリンを切り裂こうとするバロンボルトの『王妃神刀』を、如月の太刀が受け止めていた。


「……勘違いするな、助けたわけじゃない」


 お主に少々聞きたいことがある。

 如月は後ろで驚愕の表情で見守る親玉ゴブリンに言う。命は助けてやるから、こちらの訊ねることに答えろ。

 切迫した状況の最中、つばぜり合いの接着点から火花が漏れる。如月は地を蹴って後ろに飛ぶ。


「エクス!」


 大上段に刀を構えながら、如月は言った。


「ゴブリンを頼む!」


「おう!」


 バロンボルトの脇を駆け抜けて、直後にエクスはゴブリンの手を取った。

 が、


「うわ重……っ! おい、立てるか100人ゴブリン!? 走れ!」


「ゴブリン百体分のゴブリンだ! いててて……」


 親玉ゴブリンは立ち上がった。ダラダラと傷口から血が流れる。

 常人なら間違いなく気を失ってしまっているほどの出血の量だ。持ち前の体力をなんとか振り絞ると、エクスの手を借りて走りだす。


「逃がすものか。『宝樹・群雀』─────〝追え〟!」


 バロンボルトは剣を振ろうとする。魔力が一気に輝き、直後にそれは一匹の『雀』の形を模した。

 魔力の雀は合計五匹。そのまま真っしぐらにエクスたちを追おうとした。

 もっとも、この段階でバロンボルトは計算間違いをしていたことになる。

 それはある意味でエクスが持つ、おおよそこの場でもっとも『最強』と言えるかもしれない能力。


「あれ?」


 バロンボルトが魔力の雀を召喚した時にはもう、ゴブリンとエクスはその場にいなかった。











          逃     げ     足











「……あ、あんた凄いな」


 ゴブリン百体分のゴブリンは驚愕していた。

 手を掴んだ瞬間にこの没個性な青年が超加速したからである。重い自分を物ともせずに、もう崩壊した壁を超えてバロンボルトの雀を引き離していた。


「おう、元ニートだからな。逃げることには慣れてる」


「ニート?」


「あ、ああ。えっと、あれだ。遠い国の職業の一つだ」


***


 まあそれはいいとして。

 エクスは振り返った。如月とバロンボルトとかいう魔法使いが交戦しているのだろう。

 ここまで来れば一安心……というわけにはいかない。というのも、彼はただ逃げただけではないからである。

 どちらかというと、()()()()()()()()()目的の方が強い。


「……おい、いるんだろ。出てこいよ。俺はハオルチア大陸一目がいいんだ。どこにいるかわかるぜ。逃がすつもりもないんだろ」


 直後、

 エクスとゴブリン百体分のゴブリンの目の前に着地する足音。


「………………どこに行くつもりかしら」


「っ!? さ、さっきの……」


 ゴブリン百体分のゴブリンの顔が引きつる。

 剣魔はまだ生きていた。両腰の双剣は蔦が絡みついて全く抜くことはできないのだろうが、それでもほぼ無傷である。

 エクスの言葉通り、逃がすつもりはなかった。凡人と手負いの魔物。容易く葬ることができる。


「言っとくが、こいつは渡さねえぞ。ソラさんが考えたことがようやっとわかった。このゴブリンを操ってる元凶がいるんだ。そいつのことを聞かなきゃならない」


「…………知ったこっちゃないわ。そんなこと」


 エクスが神剣を大きくするのを皮切りに、ロロも腰の双剣に手をかけた。

 『真打ち』が得物を握る。それがどういうことなのか彼も容易く理解できる。


 ……正直、逃げたい。


 が、逃げられない。如月も戦っているし、今ここでロロから目を離せば確実にこの真打ちはゴブリンにとどめを刺そうとするだろう。

 それだけでなく、如月まで手を出すかもしれない。魔法使いと戦っている現状、それは絶対に避けたかった。


 勝つ必要はない。

 すなわち……ここで()()()()()ことが重要であった。


「お前らはどうでもいいかもしれないけどなあ! こっちは魔法使いに嗅ぎまわられてるんだ。布の国と孤児院の件でな。その手がかりを早々渡せるか」


「…………なるほど。そういうことなの」


 だが、ロロからすればそんなこと知ったことではない。

 『人外狩り』を生業とする彼女にとって、久々に出会えた切りがいのありそうな獲物なのだ。

 とはいえ、エクスが引き下がりそうにないこともまた事実。どろりと淀んだ不健康そうな目を彼に向ける。やることは一つだった。


「…………それなら、こっちも『本気』でシようかしら」


 言いながら鞘ごと腰から双剣を抜くロロ。

 次の瞬間にゆっくりと口元まで持っていくと、鍔元の紋章を赤色の舌が這う。

 どろりとした透明の液体がヌラヌラと鍔を濡らし、ロロの口角から一筋地面に落ちた。


 それは、

 エクスとゴブリン百体分のゴブリン、全員を絶望の淵に叩き落とす行為だった。



「────────────『覚醒』。〝ダーインスレイヴ〟」

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