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その8 新生ボルトランド8

 そう、

 それは少し前にソラが気がついたことであった。


 ちょうどバロンボルトとロ口が交戦している頃だ。ソラは単独で別の路地裏にいた。

 わずかに大通り寄りであるため、最深部よりも明るい。腐った肉をカラスがついばむ音が響く中、象牙色のコートが時折揺れる。


 この段階でようやく如月、エクス、それからロロも気が付いたわけであるが。

 それよりももっと前だ。ソラは誰よりも早く気づいていた。持ち前の狡猾さ、そして観察力。

 そして何よりもスナイパーとしての直感によって、だ。現れた親玉ゴブリンを始めとしたゴブリンの軍勢が、いわゆる通常の魔物ではないということに。

 メタルフレームの奥の瞳が周囲を見渡す。銀色の双眸は『誰か』を探していた。


「(……おそらくこの辺に)」


 大きな武器屋の建物、その裏口に面した細い路地を行きながら、ソラは思考する。必ずいるはずだ。

 ゴブリンが通常の魔物ではない。となると、そのゴブリンは一体なんなのか。

 明らかに普通よりも強い個体。すなわち、そいつを使役している者が存在しているとしたら。


 ソラは周囲を見渡しながらホルスターから銃を引き抜いた。

 新生した双銃『ボルトランド』。その片割れである自動拳銃『ボルト』。

 とある人物のおかげで、それは今現在『魔改造』されていた。色の基調が黒色から銀色に変わっているのはそのためである。

 傍らの小さなダイヤルを回す。直後に数度クルクルと回転させた。空中の魔力エーテルを取り込む、魔弾を打つためのリロード方法であった。


「ほう」


 直後、

 唐突に聞こえてきたその声。ソラは振り返る。ほとんど反射的に銃口を向けた。


「その拳銃、魔術的な措置が施されておるな。金属の弾丸と魔導の弾丸をどっちも打つことができる、と」


 現れたのは一人の少女であった。子供……? ソラは一瞬だけいぶかしむ。時折途切れる月明かりの中、ところが彼女は断定できた。初対面だが、こいつだ。

 外見年齢は12歳くらいの少女であった。

 身長150cm弱、ローブの下は赤と黒を基調とした法衣。動きを阻害しない緩やかなそれは、多くの魔法使いが着用しているものだ。

 わずかにつり上がった勝気そうなもえぎいろの瞳。片手には大杖を握っている。そして足元には白色の魔方陣。


「正体表したね」


 いつものように殺気は消していたが、『ボルト』の引き金には指をかけていた。狙いも研ぎ澄ましている。ここまでくればほとんど勝ちだ。

 ところが相手は魔法使い。どうも連中は信用できない。布の国の一件でもそうだし、()()()()()()()

 ソラはもう一度相手の萌黄色の瞳を見た。魔法使いにも種類がある。得意な術式、魔法、目の前のこの魔術師がどういうタイプなのか。もう予想していたことだ。


召喚士サモナーですか」


 すなわち、ゴブリンを使役する『術者』の存在。

 それこそがソラが感づいたことである。


「御主が『銀色のスナイパー』か。お初お目にかかる。ゼダム・モンストローサ。元老院の賢者じゃ」


 萌黄色の魔法使いは杖を振り、魔法陣を消去した。

 元老院……魔法国家『フォーカリア』にて絶大な影響力と権力を誇る統治機関。当然ながら名前くらいはソラも聞いたことがある。

 確か布の国でも二人の魔法使いが言っていたな。布の国壊滅には元老院が絡んでいる、と。


「賢者……なるほど、ペンタグラムの五賢が動いているのは本当でしたか」


 さすが詳しいな。

 ゼダムは言いながらクックと笑う。ソラに……すべてを撃ち抜く百発百中のスナイパーに照準を合わせられても、全く動じた様子はなかった。


***


「遠くから撃つのが得意らしいな。ソラとやら」


 ゼダムはコツコツと杖の先端で地面を叩いていた。

 なんらかの術式を起動するつもりか。ソラは自動オートマチック拳銃『ボルト』の弾丸を叩き込めるように油断なく構えていた。

 まだ撃たない。目の前のこの魔法使い。敵か味方かわからないのだ。敵なら撃ち殺してしまっていいが、中立であった場合以降少々面倒なことになってしまう。


「ゴブリンの親玉を召喚したのはあなたですか?」


「そうじゃ。ふん、少々知能を与えすぎたかもしれんの。まあ、あのような低級な召喚術なら、容易きことよ」


 ゼダムの得意とする『召喚術』のことをソラは詳しく知らない。しかし魔導にせよ魔法にせよ、『無』から『有』を作り出すのは途方もなく難しいはずだ。

 おまけにその作り出した『有』が自立して動くとなればなおさらである。

 自我を持ち、自分の判断で動く生物。こうも容易く作り出してしまうとは……なるほど目の前のこの召喚士、『賢者』の名にふさわしい膨大な魔力を持つようだ。


「まあそれはいいんじゃがな。実はわしは『帝国』から『ある要件』を言付かって折るのじゃ。それは─────」


 その瞬間だった。

 ゼダムは大杖を掲げる。先端の玉が激しく発光し、辺りには眩いエーテルの奔流が満ちた。

 ソラは思わず目を背ける。

 ……のは一瞬。自分がいた場所からサッと飛び退ると、同時に利き手でコートの内ポケットの回転式リャボルバー拳銃『ランド』を引き抜いた。


「────『銀色のスナイパーを殺すこと』ですか」


 ゼダムはにやりと笑う。


「明答。行け、〝ワイバーン〟!!」


 光の中から現れたのは一匹の小型のドラゴンであった。

 ただしソラが機械の国『ゼータポリス』で出会ったような、大型の個体ではない。ニコルが使役していた黒龍よりずっと小さいものだ。


 たった今『召喚』されたワイバーンはギラリとした瞳でソラを見る。

 口を開ければノコギリのように並ぶ歯。獲物を見つけた魔物は、嬉々としてソラに飛びかから─────ない。


「……!?」


「できればこの『技術』は使いたくないんですけどね」


 直後。

 召喚されたばかりのワイバーンはゆっくりとその場に倒れ伏した。

 代わりに、ソラの双銃、その銃口からは煙が上がっている。


***


 今度はゼダムが困惑する番であった。

 何をした、あの狙撃手……? 召喚したばかりの自分の下僕をいともあっさりと倒されてしまい、いささか彼女は言葉を失う。


 ワイバーン。

 小型のドラゴンの総称だ。古より生態系の頂点に立っていた最強の種族、『ドラゴン』。その近縁種である。

 連中ドラゴンほど魔力耐性/物理耐性は高くないものの、ワイバーンとて戦闘に長けた生き物。少なくとも、弾丸の一つや二つ受けたところで死亡するはずが……


「『フルバースト』。……凝縮した魔導を『すべて』『一度に』打ち出す銃撃の方法です。弾速は遅いんですがね、威力は大砲すらしのぎますよ」


「な……」


 銃撃の余波で長い銀髪が揺れる。

 魔導……すなわち人工的な魔力。銃内部のそれをいっぺんにワイバーンに叩きつけたということか。

 それならばこの圧倒的な破壊力も納得がいく。ゼダムは見るも無残に胸部を撃ち抜かれ、召喚した瞬間に絶命した肉塊に目をやった。


 しかし、

 言うなれば拳銃から大砲の弾を撃つようなものだ。()()()()()()()()()()()()だろう。

 ところが、ゼダムのその予想は覆されることになる。ソラの二挺の拳銃……双銃『ボルトランド』は、全くの無傷であった。

 破壊されるどころか、銃口が赤熱してすらいない。


 ここまでくると、どういうことなのかゼダムは推測することができた。

 『フルバースト』という技名。そして何より、()()()()()使()()()


「……さすがは、」


 ゼダムは珍しく驚愕していた。

 彼女だけではない。『大陸警察』を知るものなら、誰でも『その男』の名を知っている。


「…………さすがは『喫煙所の主』の弟子じゃ。銀色のスナイパーはその技術を使おうとしないと聞いていたのだが……」


「『双銃術』。あら、ご存じなんですか。ええ、できることなら使いたくないんですがね」


 ソラはニコリともせずにリロードした。


「相手が相手です。久々にお見せしましょう」

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