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その6 狙撃手と変なの

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ


 俺とソラさんを乗せたボロい……じゃなくてアンティークな車は、快調に一本道を飛ばしていた。

 左右には無限に広がると錯覚するほどの荒野。荒れ果てたそこには、数本の枯れ木が生えるのみ。


「しっかしすごいですね。人っ子一人いないどころか、草一本生えてないですよ」


「近くに火山帯がありますからね。昔噴火した名残でしょう」


 ソラさんは頬杖をついて景色を見ていた。風に綺麗な銀髪がなびいている。

最初は二人で他愛も無い雑談を行っていたのだが、やがて口数も減ってきた。そもそも話題もそこを尽きてきたし、なにより変化がない。

 俺の膝の上に乗せられた地図……トルカータで買った一番安いやつだ。それによるとこの道を抜けると『オプツーサ』という国に出るはずである。

 道自体は真っ直ぐであるため問題ないと思われるが、それにしたって退屈だ。行けども行けども荒野荒野荒野。遠くにはデカイ山。雲ひとつない青空。


「………」


「………」


 暖かくもない、寒くもない気候。そういえば、今ハオルチア大陸の季節はいつなのだろうか。火山帯があるからなのか、極めて気持ちが良かった。春のような秋のような、過ごしやすい温度である。

 ……やばい、眠たくなってきたぞ。というか『すぅ……すぅ……』なんて規則的な寝息が聞こえてくる。チラリと見ると、ソラさんはこっくりこっくり舟を漕いでいた。おっほ、寝顔もGJ。


 その時である。


「――――――――!!!??」


 俺は急ブレーキを踏んだ。車体がぐわんと前のめりになる。ソラさんが驚いて飛び起きるのが見えた。


***


「いや〜、かたじけないかたじけない」


「なあにが「かたじけない」だっ! だいたいなあ、ヒッチハイクってのは道路脇でやるもんだぞ!! 道の真ん中で両手広げて強制的に車止めるのがあるかい!!」


 俺はバンバンハンドルを叩きながら言った。全く驚いた。眠たくてぼんやりしている中、目の前に人影が見えたのだから。最初は見間違いかと思ったぜ。

 俺たちの車の前に立ちはだかったのは、年齢16〜18歳くらいと思われる少女であった。

 身長165cmくらいであろうか。顔立ちは悪くない。というかこんなときにどこ見てんだ俺は。

 濡れ羽色の髪を後ろで結び……ポニーテールって言うのかね。琥珀色の切れ長の瞳に、すっと通った鼻に薄い唇。

 なんというか、凛とした雰囲気が伝わって来る。

 

 そしてなにより! 

 俺とソラさんが驚いたのはその服装である。なんと彼女は『和装』だったのだ。この辺りでは極めて珍しい。

 鼠色の袴に、黒色の上衣、青色の帯。その上から蒼色の羽織りを羽織っている。足元は当然靴ではなく、草履。そして刀。


「それでだ。『おぷつーさ』という街に行きたいんだが、私も連れてって欲しい」


「おい、無視か」


「申し遅れた。私は如月きさらぎ如月きさらぎ 止水しすいと申す」


 コノヤロ……いけ好かない野郎だ。俺を無視してソラさんとばっかり話しやがって。

 おおかた、俺を手下かなんかと思っているんだろう。まあ無理もない。俺の容姿や雰囲気は中の中。神様がそう決めたからだ。

 そりゃ、手下兼運転士と思うだろうよ。

 ソラさんは何やら悩んでいる様子であった。多分俺も同じことを思っている。


「……連れてってあげるのは構いませんが…………。どこに乗るんです? 私の車は二人乗りですよ」


 そう、それだ。他にも荷物……主にソラさんのライフルや俺の神剣などなど。隙間に差し込んでいるため、とてももう一人乗り込むスペースはない。


「ふっ……なんだそんなことか」


 少女は…確か如月と言ったか。彼女は不敵に笑った。

その瞬間! ひらりと彼女は跳んだ。俺とソラさんが声を出す暇もなく。なんて身軽なやつなんだ。

 そのまま車の上に華麗に着地すると、どかっと胡座をかく。


「狭いとこは苦手でな。車中はこっちからお断りだ。さあ行ってくれたまえソラとやら……と、運転手。落ちるようなヘマはしない」


 俺とソラさんは無言だった。


「………ソラさん、アイツ殴っちゃだめですかね」


「ま、まあ我慢なさい。どうせオプツーサまでです」


***


 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 俺とソラさんを乗せた、否、俺とソラさんと如月を乗せたボロい……じゃなくてアンティークな車は、快調に一本道を飛ばしていた。


「……で、」


 俺は上を向いて言った。


「どうしておめー『オプツーサ』に行くんだ? 観光ならもっとデカい『トルカータ』の方がいいだろうし……」


 最初から気になっていたことだ。俺たちは新しい職場探し兼逃避行で『トルカータ』から一番近い街である『オプツーサ』を目指すわけだが、普通なら『オプツーサ』へはあまり行く人はいないそうだ。理由は単純。規模も観光レベルも、なにもかも『トルカータ』の方が大きいからである。『オプツーサ』は小さな国だった。

 ちなみに、俺とソラさんが『殺し屋』であることは話していない。そういえば……俺もソラさんの仲間になったからには『殺し屋』になったわけだ。なんというか身が引き締まる思いである。ビビってなど断じていない。

 如月は当然俺たちの素性を尋ねてきた。ライフルと俺の『神剣』。護身用というにはあまりにも過剰すぎるだろう。


「公務員です」


 ソラさんはなんの躊躇いもなくそう答えた。

いやいやちょっと……突っ込みそうになったのは俺だけだ。如月もそれで納得してしまったのだからズッコケそうになってしまう。

 そんなことを考えていると、上から声が聞こえてきた。この時ばかりは車のボロさが利点となる。劣化した車体のおかげで非常に聞き取りやすい。


「私は剣士だ。刀を探している」


「あん? いやそんなこと聞いてんじゃなくて……ってか刀ってお前、もう持ってるじゃねえか」


「これはなまくらだ。とりあえず持ってるだけで、本差しは別にある………妖刀『疾風はやて』」


「……? はや…?」


「私の愛刀だ。3歳の時に師からいただいた。寝食を共にしたと言っても過言ではない。刃渡り二尺七寸、反り七分二寸、目方一斤四匁。乱れ刃黒漆拵え、小鋒」


 如月はすらすらと淀みなく言う。俺は正直半分も理解できなかった。なんか大事そうな刀だな、くらいだ。


「……命と同じくらい大切だ。だが、少し前だ。『ある魔法使い』に奪われてな。全く不覚を取ったものだ」


 如月が自嘲気味に笑ったーーーーーーような気がした。いや、多分俺の気のせいじゃない。

 そうそう、魔法使い。こういう存在は明らかに俺の元いた世界とは違う。


 注釈すると、ハオルチア大陸全土には、『魔力エーテル』と言われる物質が溢れており、人々はこれを用いて超常的な現象、すなわち『魔法』を使うそうだ。

 もっとも、『魔法』は誰でも使えるわけではないという。魔力を扱える才能のあるものしか使えないそうで、その才能がないものはどんなに鍛錬してもダメであるらしい。ゆえに、職業としての『魔術師』は多くない。


 それとは別に、『魔導』ってのもある。簡単に言うと人工的に作り出した魔力のことだ。ハオルチア大陸で使われるもっとも一般的なパワーソースらしい。

 武力から産業、様々なことに用いられる。もちろん、今動いているこの車の動力源も魔導……らしい。それらの扱いに長けた連中を『魔導師』という。魔術師の50倍はいるそうだ。


「そしてそれを闇ギルドに流された、わけですか。そしてあなたは今からそれを取り返しに行くと……」


 そこから先を話したのはソラさんだった。彼女はいつものように頬杖をついて外の景色を眺めていた…と思いきやちゃっかり俺と如月の会話は聞いていたらしい。

 如月は何も話さない。あまりに当たっていたので話すまでもなかったのだろう。肯定だ。ってちょっと待てよ。


「あの、すいませんソラさん……闇ギルドって……?」


 俺は話の腰を折って申し訳なく思いながら尋ねた。面倒に思われたかも知らないが仕方がない。知らないもんは知らないのだ。

 ソラさんはところが、おずおずと切り出した俺に実に分かりやすく説明してくれた。


 まず、『ギルド』というのはハオルチア大陸におけるめっちゃ巨大な『何でも屋』の総称らしい。

 ギルドを統括する『中央ギルド』というのがあり、そこから分岐して商人・武人・農民・ありとあらゆる職種が固まって『派生ギルド』を作る。

 そこで依頼者から仕事を請け負ったり、はたまた仕事を紹介したりするそうだ。

 

 そして、『中央ギルド』に所属しない非合法に活動するギルドを『闇ギルド』という。法外な金銭を要求したり、人身売買などいろいろと倫理的に問題があるようなこともやるという。

 『ヤクザみたいなもんか』と俺は思考した。


「その闇ギルドの名は?」


 ソラさんは聞いた。俺じゃない、如月にだ。

 彼女は無言だった。やがていう。


「……御主たちには関係のないことだ」


「返してもらえるアテはあんのか?」


 俺も尋ねる。つまり闇ギルドってのは『危ない奴ら』の集団。そんなところに出て行って刀を返せ、なんて言っても果たしてすんなりと応じるのだろうか。


「無論」


 如月は一言それだけ言うと、目的地に着くまで口を開かなかった。

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