プロローグ
開いてくださってありがとうございますー。
本作品はフィクションです。
登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はありません。
俺は死んだ。
まったくつまらない人生だった。子供の頃から虐められて引きこもり。本来守ってくれるはずの両親も、俺に愛想を尽かしたらしい。一つ下の妹とはえらい待遇の違いだった。
俺はいわゆる『ヒキニート』だった。なんとか高校を卒業したものの、今までずっと虐められていた人間が大学なんぞに行けるはずもない。
自分の世界は自室のみだ。たまに家に出たとしても、真夜中に近くのコンビニに買い物に行く時だけ。昼夜逆転である。
今思うと、これがまずかった。真夜中のコンビニ。
本当に短い人生だったぜ。20年ちょっとしか生きていないということになる。平均寿命80いくつとか言われている世界で、唯一こんだけ早く死んだのは自慢ってことになるんだろうか。いやならないか。
死の理由も大したもんじゃあない。コンビニの駐車場で絡まれてた女を助けただけだ。
その相手が街一番の不良……前科持ちのとにかく『ヤバい』奴だったらしい。
まあ、運が悪かったのだろう。死の直前に自分の胸から血が噴き出すのが見えたから、大方刺されでもしたに違いない。
『運が悪かった』というやつだ。
しかし、
人間誰しも思う『死んだ後』を経験できたのは良かったと思う。現状俺の唯一の自慢かもしれない。
「………で」
『死んだ後も』意識があるなんて、誰が思うだろう
「……あんたが神様?」
「そう。つっても私は真の意味で全能の『神』じゃあない。『運』を司る神だ」
……そうらしい。俺の目の前には年齢25歳くらいの若い女がいた。なんでも神様……いや『運』を司る神様らしく、白と赤のこてこてした服に、大きな杖をついている。なるほど神に見えなくもない……事もないこともない。
ピンク色の靄がかかったような空間に俺たちはいる。浮いているような感覚が極めて不快だ。酔いそうになる。
「さらにさらに、あんたが「地球」で生まれた時、その『運』に関するステータスを決めたのが私だ」
「へぇ……。はあ!!?」
神はしゃあしゃあとそんなことをいった。ってことは……
「うむ。君が虐められたのも、両親から虐待されたのも、そして死んだのもおそらく私の責任。
『運悪く』虐められて、『運悪く』虐待され、そして『運悪く』死んだ」
なんたることだ。俺は頭が痛くなった。
しかし考えてみると当たっている。俺は虐められた原因が本当にわからないのだ。なにか恥をかいたとか、体育の授業でミスをしたとか、学校でウンコをしたとかならまあ虐められるのも頷けるが……そんなのも全くない。
まさしく、理由もなくいじめっ子の標的になり、そのまま何年も虐められた。『運悪く』小学校で同じクラスになり、『運悪く』同じ中学校になり、『運悪く』そこでも同じクラスになった。そして『運悪く』高校でも……etc
「て、てめー……そうか、なんてことを……!! あのなあ、人の人生を……!」
ぷるぷると拳を震わせながら食ってかかろうとしたところ、運の神は片手で制した。
「まあ、待ちたまえ。これはテストだったんだ」
「はい? テスト……?」
『そう。テストだ。君たち『人間』が生まれる時、基礎的なステータスは我々神が割り振る。それぞれの担当がね。例えば運なら私が。他にも力の神、知恵の神、才能の神、容姿の神、好意の神なんかもいるな………。
よくいる力自慢のスポーツ選手なんかは、力の神がステータスを大きく振ったんだ。天才と称される学者や偉人は、知恵の神が大きくステ振りしてる。
他にも、そうだな……やたらイケメンなのに全然モテない人とかいなかったかい? そういうのは、容姿の神はステータスを振ったのに、好意の神がほとんどテコ入れしていない証拠。当然逆もあるな』
……なるほど。ちょっと納得した俺がいた。クラスに一人はいるイケメンぼっち、逆にブサメンなのに彼女持ち、裏でこういう仕組みが働いてたのか。
って、そんなことはどうでもいい。
「だったら!! なんでよりによってあんたがもう少し俺の『運』にステータスを振ってくれなかったんだ。まったくセコい奴だ。どうせ減るもんじゃないんだろうに」
「だからいっただろう。『テスト』だと。君は運以外のステータスは全て『ちょうど平均』になるように設定したんだ。我々神が話し合ってね。それで、『運』のステータスのみ低く設定する。
そうすることで、運の悪い、悪すぎる人間が世界でどのような影響を及ぼし、そしてどのような人生を送るのか、それを調査したわけだ」
「な……なにぃ!?」
「まあ、調査した甲斐はあった。振ったステータスが実際にどのように世界で作用するかは分からないからな。ちなみに、君の死因は刺されたり撃たれたりしたからじゃない。不良が胸ぐらをつかんだ瞬間、その衝撃で『運悪く』心臓が破裂したんだ。そして死んだ」
俺は頭を抱えた。何千何万と人間は生まれているはずなのに、そうしてその中からよりによって『テスト役』に選ばれてしまったのだろうか。まったく運が悪い。
「……で」
「なんで死んだのに俺はここに呼ばれたんだ? それとも、死人は全員あんたら神と話すのか?」
運の神は頭を振った。
「そこだ。
普通の人間は死ねばそれで終わり。つまり行くべきところは『無』だ。当然意識もないし、こうやって話すこともできない。
ところが、君は違う。なぜこの場に呼ばれ、運の神である私と話しているのか?」
「………さぁ」
「『もう一度』実験体になって欲しいのだ。今度は今までと逆のステ振りを試したい。端的に言うと、世界で一番運がいいということになるな」
「えっ……俺がか」
「私だけではない。ステ振りを試したい神々はいっぱいいるよ。いちいち生まれたばかりの人間でそれを検証するのは面倒でね。
ある程度育った人間……そして出来る限り世界に影響を及ぼさないような、地味で目立たない人間で手っ取り早く検証したいんだ。そして、今のとこ、君はその全てを満たしてる」
まてよ……? それはつまり……
「俺は、もういっぺん生き返るってことか?」
神は頷いた。
「そう。生き返る。そして私は転生した君の動向を観察させてもらう。ある程度データが取れたら、今度は次の神が同じように、別のステータスを弄る」
「どんなステータスになるんだ?」
「それは神様次第だ。ただ……そうだな、一般に試したいステータスは二つだな、『最強』か『最低』。つまり限界まで力の限り振ったものか、全く振らないかだ。
ただ、このうち後者、つまり『全く降らない』は例外……それこそ運のようなわかりにくいものを除いて、ある程度予想できうる。試すほどのことじゃあないことが多い。
つまり必然的に、『最高までステータスを振った状態』を試すことが多くなるだろうな」
ってことは、少なくとも今回のような酷い人生は歩まないということか。
いや、仮に『最低』のステ振りを試されたところで、今回のように最悪な人生になることはないだろう。俺は今回ほど『運』というものの重要性を痛感したことはない。
「……ふーん、断ったらどうなるんだ?」
「その場合は仕方がない。別の人間を探すさ。そして君は『無』へと行ってもらう。規定通りにね」
なるほど、
俺は決心した。どうせ『最悪』な人生だったんだ。
ならばこれ以上悪くなることはあるまい。いや、『最高』のステ振りばかり試すらしいし、そうそう悪くならないはずだ。
なにせ、一度死んだ身。これからの人生はおまけみたいなものだ。
というわけで、俺は了解した。
「よかった」
運の神はそこで初めて微笑んだ。