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7 正しい魔女との戦い方

「みなさまご存じ、リボルバー式拳銃。弾を一発込めて適当にシリンダーを回し、一発ずつ引き金を引いていく。ああ、勿論、これは玩具よ。当たりが出ても音が出るだけ。まあ、これは練習なんだから、別にこめかみに銃口をあてる必要もないわ」

 そう言って、邦子は玩具の拳銃を差し出した。本物だろうが玩具だろうが、拳銃というものは、ドラマの中ならともかく、現実には見るのも初めてだったので、丈は手に取ってしげしげと見つめた。

「ロシアンルーレットに必勝法はあるのか――まあ、実際にやって試してみましょ。さ、どーぞ」

 丈はしばし銃口を見つめる。こめかみにあてる必要はないとのことなので、適当に太腿あたりに銃口を押しつける。

 そして、トリガー。

 ぱんっ、と乾いた音が響いた。

「はい、大当たり。確率としてはいつ撃っても六分の一のはずなのに、しょっぱなから当てると、『めちゃくちゃ運ないなぁ』とか思っちゃうのよね、これ」

 異様に上機嫌に言いながら、邦子は自分の運の悪さに呆然とする丈の手から拳銃をすり取った。

「はい、では種明かし。ものすごい簡単な話だけど」

 そう言って邦子が種明かしをした瞬間、丈は思わず顔を顰めた。

「げ……」

 邦子はにこにこと笑っている。人のよさそうな笑みを浮かべながら、邦子が丈に見せたのは、全弾装填されたシリンダー。

「これがロシアンルーレット必勝法、もとい、必殺法。全弾入っているんだから、先攻のプレイヤーが必ず負ける仕組み。つまり、ロシアンルーレットに必勝法はあるのか、という質問の答えだけれど、『イカサマしていいならいくらでも』というわけ」

 弾は一発だけ、などという言葉を鵜呑みにして、まんまとハメられてしまったというわけだ。

「まあ、今のは練習だったから、あなたもたいして警戒していなかっただろうけど。実際の勝負では、こんな単純なイカサマはまず不可能。弾を一発だけ入れるところはプレイヤー双方で確認すべきことだし、その後はもう弾がどこにあるか解らないようにシリンダーを回転させてしまうし」

「けど、実際、白雪吹雪は無敗……ってことは、ばれないようにイカサマしてるってことか」

「そのようね。まあ、いくらイカサマしようが、試合中にばれなければ、文句を言う人は誰もいないわ。だって死んでるもん」

 逆に言えば、丈が魔女に勝つためには、試合前には、魔女の仕掛けるイカサマを見抜かなければならないのだ。さらに言えば、見抜いた上で、つまり、自分に明らかに不利な戦いだと解った上で、それでもどうにか勝ちをもぎ取らなければならないのだ。

「イカサマを見抜いたとして、試合が始まってからで、それに対処できると思うか?」

「無理ね」

 即答である。

「あのね、イカサマゲームってのはね、試合本番なんてお飾りなの。試合が始まるまえに、勝者が決まってる、結果が決まってる。それがイカサマなの。イカサマゲームに挑むなら、ゲームが始まる前になんとかするしかないね」

「なんとか、ねぇ」

 言うだけならば簡単だが。どんなイカサマを仕掛けてくるか解らないのに、その場でイカサマを見抜き、さらに、白雪が絶対勝つようになっているシナリオを捻じ曲げられるのか。かなりハードルが高いことは解った。

「まぁ、ゲームについて予備情報を得られたことは収穫だったな。助かったよ、戸隠」

「いえいえ。本番じゃ私は何もしてあげられないからね、これくらいお安い御用よ。さて、私からあなたにとっておきにアドバイス」

 ぴん、と人差し指を立て、邦子はいたずらっぽく微笑んだ。

「さっきも言った通り、結果は試合前にもう決まってるの。試合前には何をするかっていうと、ルールの設定よ。仕掛けるなら、ココ。ココしかない。たとえば、さっきのデモンストレーション……あなたはあっさり負けてしまったけど、その敗因はずばり、ルールを明確に確認しなかったことよ。『六発中一発だけ入ってる拳銃を順番に撃っていくだけ、ね、簡単でしょ?』なーんて言われると、いかにもシンプルで単純で簡単そうに聞こえるけど、こんなのダメ。ルールがシンプルすぎて、付け入る隙がありすぎるし、解釈のしようがありすぎる」

「つまり……弾が本当に一発だけなのか確認するとか、もしそれが嘘だった場合のペナルティの設定とか、そういうことをしろって話?」

「その通り。当たり前だと思われることも確認する。細かいことまで明確にする。曖昧なルールなんか問題外。『それはイカサマだ』って指摘しても、相手が『でもそんなこと、ルールでは言わなかったでしょ』って開きなおったらどうしようもないもの」

 イカサマをする人間は、とことんまで開き直る。ルールの穴をついて好き勝手をする。

「引き金を引くのなんて、ただの茶番よ。すべては試合前、ルールを決める時点で勝負がつくの」

 真面目にロシアンルーレットをやってる人間がいたら怒られそうな台詞だ。

 ゲームについての予備情報をあらかた教えてもらったところで、夜も遅いので丈はそろそろお暇しようとした。そんな間際に、邦子はちゃっかり付け加えた。

「そうそう、今まで便宜上ロシアンルーレットって言ってたけど、厳密には、このゲーム、拳銃は使わないの」

「は?」

「『毒殺の魔女』……いえ、『白雪姫の魔女』の名にちなんだ、白雪吹雪考案の、特殊ルール採用イカサマゲーム……その名は、『毒リンゴゲーム』」

 それを聞いた丈が思ったのは、どうして魔女というのはどいつもこいつもぎりぎりに大事なことを言うのだろう、ということだった。

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