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3 身近な魔女はこんなもの

 アパートに戻る前に、丈は寄る場所があった。一言文句を言わなければならない相手が、なんと一挙に四人もできてしまった。

 アパートを通り越して歩くこと十分ほど。約一か月ぶりくらいの実家である。やや乱暴に扉を開けて進入する。三和土にはローファーが一足、赤いヒールが一足、黒いパンプスが一足、そして脱ぎ散らかされたサンダルが一足だ。どうやら四人勢ぞろいしているらしい。

 ずかずかと上り込んで、すぐ右手の引き戸を開けると、リビングのソファで三人の女がだらだらしているのが目に入った。

「おお、丈か、よく帰った」

「なんだ、丈かぁー」

「丈、飯作ってー」

 三者三様の反応、そのうちの二つはかなり神経を逆撫でするものだった。

 唯一良心的な出迎えをしてくれたのは、三女の三恵。大学三年生。専攻は文学らしいが、学業よりも怪しげなサークル活動に精を出しているという噂である。

 誰か他の客でも待っていたのか、あからさまに失望したような顔をしたのは次女の双美。駅前の小さなビルの一階で怪しげなポーションを売っている、姉妹の中で一番胡散臭い感じの女である。

 そして、久しぶりに実家に帰ってきた弟にいきなり理不尽な命令をしてきたのが、長女のはじめ。会社員だが、その傍らよく部屋に引きこもって創作活動に励んでいる自称作家なのだが、何の作家なのかはいまいち不明。

 ちなみに、リビングにはいないが靴はあるので、おそらくは自室に引きこもっているであろう四女の名前は四葉。高校三年生で、受験勉強真っ最中の時期である。

 以上四名が、桐島家の魔女。どいつもこいつも曲者である。

「今日、『毒殺の魔女』が来たぞ。姉さんたちがそろって弟を売ったらしいな」

 ああ、その話か、と気だるげな調子で呟いたのははじめだった。

「別に、何事も起こらなかっただろう? ほんとに毒殺でもされたって言うなら文句もあるだろうけど」

「毒殺されてからじゃ文句も言えねえよ!」

「ぴんぴんしてる奴の苦情は受け付けませーん」

 耳を手で塞いで「何も聞こえません」アピールをし始めた。取りつく島もないとはこのことである。すると、双美がどこか複雑そうな顔をして言う。

「はじめお姉ちゃんね、会社でセクハラされたから不機嫌なの。だから、そのストレス解消に、ちょっと可愛い弟を困らせてやろうとしただけなの。許してあげてね」

「セクハラ? はじめ姉ならセクハラなんかされても返り討ちにしそうなもんだけど……」

「だから、セクハラされて、返り討ちにしたら、それがやりすぎだっていうんで上司に怒られたんだって。『被害者は私なのになんで怒られなきゃいかんのだ!』って超ご立腹」

「ああ、そう」

 被害者であるという事実を差し引いても「やりすぎ」と叱責されるほどの反撃とはなんだったのか、考えるだに恐ろしい。

「まあ、虫の居所が悪かったことについては理解した。だが、ストレス解消の方法として弟いじめを選んだことについては納得がいかないんだが」

「お金がかからない、いい方法だよね」

「全然」

「ちなみに、三恵は去年落とした単位の再履修、四葉は受験勉強のストレス解消のために、そして私は特にストレスはないけれどみんながやってるからという理由で便乗して、丈を困らせてみました。以上」

「納得いかないッ! 特に双美姉の理由が一番釈然としない!」

「末っ子とはかくあるものだ。諦めるべし」

 と、うんうんと何度も頷きながら三恵が締めくくった。

「ま、大丈夫だろ。なんだかんだで、今までの十六人も舌先三寸で追い払ってきたんだし、『毒殺の魔女』だろうが『毒舌の魔女』だろうが、なんとかなんだろ。それより飯作ってくれ」

 他人事だと思っていい加減なことを言うはじめは、いまだに食事を諦めていなかった。しつこい。

 薄情な姉を持つと苦労が絶えない――その事実を再認識して、丈は実家を出た。しばらく奴らの顔は見たくない。

 弟思いでない姉たちのせいで面倒なことになってしまったな、とうんざりしながらアパートへ帰り着く。すると、部屋の前で面倒な事態が待ち受けていた。

 すなわち、カンカンに怒った阿澄である。

長女:はじめ、次女:双美、三女:三恵、四女:四葉

……と整理してみましたが、今のところ覚えておかなくても問題がない(つまり活躍しなry

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