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9 魔女との駆け引き

 場に並んだ六個の真っ赤なリンゴ。この中に一個毒リンゴが交っているという話だが、当然ながら、見た目ではその違いは解らない。

「ロシアンルーレットのリンゴ版だと思ってください。【六個のうち一個が毒リンゴ】です。【二人のプレイヤーが交互にリンゴを選んで食べます】。ちなみに毒というのは致死毒ですので、食べたら死にます。【死んだら負け】……シンプルなルールでしょう?」

「ちょっ、ちょっと待って。何、この勝負、命を懸けようっていうの?」

 事前情報があった丈と違って、今初めてこの話を知らされた阿澄は目を剥いた。

「その通りです。【私が死ねば私の負け】、桐島君が死ねば桐島君の負け……と、言いたいところですが、残念ですが、彼には聞きたいことがあるので、死なれたら困るのです。そこで、今回は特別ルールとして、【桐島丈がリンゴを指定し、指定されたリンゴを真壁阿澄が食べる。真壁阿澄が死ねば桐島丈の負け】とします」

「っ! お前、そのために阿澄を……」

 阿澄は人質というだけではなかった。丈の代理で命を懸けさせるために呼ばれたのだ。魔法の鍵を奪うためならば、無関係な人間の命さえも平気で懸けさせる。白雪吹雪がそこまで非道だとは思わなかった。「グリムの魔女」の名は伊達ではない。

「阿澄……」

「大丈夫よ、一緒に戦うって決めてきたんだから、これくらいのことは想定内だからっ。というか、勝てばいいのよ、勝てば、うん」

「声震えてるぞ」

「気のせいじゃないかしら」

 気のせいでなく震えているのだが、丈にはどうしようもない。この勝負、受けても受けなくても、阿澄のみが危険にさらされるのだ。丈には、勝負を受けて、勝つ以外にはないのだ。

「さて、ではもう少し詳しい手順について説明しますね。リンゴはこのように私が並べましたが、これでは私がどのリンゴが毒リンゴか知っていて、それが解るように並べたと思われるでしょう。ですから、勝負の前には【桐島丈がリンゴの位置を任意に入れ替える】ものとします。【私はその間、入れ替えが見えないように目隠しをして後ろを向いています】」

「……音で解るかもしれない。ついでに【耳栓もしろ】」

「いいでしょう。ではあなたは【入れ替えが完了したら私の肩を叩き、『入れ替え完了』を宣言してください】。【完了宣言の後は、何人もリンゴの位置を入れ替えてはなりません】」

「リンゴに細工がしてないことも、当然確認していいな?」

「勿論です。細工などしていませんが、口で言っても安心できないでしょうから、【リンゴの入れ替えと同時に、リンゴに細工がないことをお好きに確認してください】ね。ああ、そうそう、リンゴを食べる時の注意ですが、【パスは禁止です】。【順番が回ってきたら必ずリンゴを食べてください】。あまりちんたらしていても仕方がないので、【順番が回ってきたら十分以内にリンゴを食べる】ということにしましょうか。それと、食べる時は一口だけ齧る、なんてシケたことはしないでくださいね。そんなんじゃ致死量には足りませんから。きっちりまるごと一個を食べていただきます」

 死ぬまでしっかり食べろよ、と白雪は念を押しているのだ。自分が必勝のゲームでそんなことを言うからには、阿澄に確実に死ねと言っているようなものだ。

「まるごと一個ったって、種まで食えとは言わないんだろ? 毒リンゴであろうがなかろうが、リンゴの種は有害だ」

「まあ、それもそうですね。芯も皮もはっきりいって美味しくありませんしねぇ」

「つまり、【リンゴはまるごと一個分食べる。ただし、種、芯、皮の廃棄部は除き、可食部のみで一個分とみなす】ってことでいいな」

「それで構いません。細かい性格ですね」

 白雪はちくりと嫌味を言うことも忘れない。

「さて、肝心の先攻後攻について訊きたい。俺としては、実は全部が毒リンゴで、先攻の人間が確実に死ぬ、ってパターンが恐ろしいんだが」

「ええ。私がリンゴを用意したのですから、あなたとしてはそれは当然の疑いでしょう。ですから、この勝負は、リンゴを用意した者の責任として、【私が先攻となります】。これは公平なゲームですから、先攻後攻で有利不利はありません。ですから、私は無条件で先攻となることにも、まったく異論はないのです。さて、そうすると後攻はそちらとなり、最後の六個目のリンゴを食べるのは阿澄さんということになります。ですが、最終ターンまで順番が回ったとすれば、それは最後のリンゴが毒リンゴであることを意味します。死ぬと解っていて食べるのも馬鹿馬鹿しいですし、桐島君も阿澄さんをみすみす死なせてしまうのは心苦しいでしょう。特別に、【第六ターンまで勝負がもつれ込んだ場合は、後攻はリンゴを食べなくてもいいことにします。この場合は、真壁阿澄は死んでいませんが、勿論敗北とみなします】」

「だがそうすると、今度は、実はどのリンゴも毒リンゴではないのでは、という疑いが出てくる。もしそうなら、このゲームは後攻が必ず負けることになる」

 とは言いつつも、そんなことはないのだろうな、と丈は確信していた。もし毒リンゴが一つも入っていないイカサマゲームなら、このゲームで今までに死者が出たはずがないのだから。

「確かに、その疑いはもっともですが……では、最後のリンゴをわざわざ食べさせると?」

「いや、【最終ターンまでもつれ込んだ場合、最後のリンゴは真壁阿澄ではなく俺が食べる。これで俺が死ななければ、最初から毒リンゴは入っていなかったということになり、白雪の反則負けになる】わけだ。こうすれば、ゲームが間違いなく公平に行われたことを証明できるだろう」

「ちょっと待って、毒リンゴだって解ってるのに、なんであんたがわざわざ食べるのよ!」

 先に文句を言ったのは阿澄だった。

「なんでって言われても、イカサマ防止のためには必要なルールだ。それに、お前が命懸けてんのに、俺だけ安全地帯ってのも不公平だろ」

「それはそうだけどね」

「そこは否定しないのか」

 阿澄の理屈で行くと、「そこはそういう台詞を求めてるんじゃないの」ということになるのではないだろうか。

 続いて文句を言ったのは白雪だ。

「それでは、阿澄さんを代理にした意味がなくなります。あなたが死んだら困るんですって」

「解っている。だから、【俺はリンゴを食べる前に鍵の在処を阿澄に伝えておく。俺が死んだら阿澄から聞いてくれ】。これで問題ないだろう?」

「あなたが阿澄さんに嘘を言わないという保証は? あるいは、阿澄さんが独断で嘘をつくかもしれません」

「じゃあ、阿澄から場所を聞いて、その場所を探して鍵が見つからなかったら、つまり【鍵の在処についての証言が嘘だと発覚した場合は阿澄を殺していい】ことにしよう。まあ、実際には嘘なんかつかないからこんなことは起こりえないんだが。お前が信用できるように、保険だよ」

「……まあ、それなら納得していいでしょう」

 勿論、一番納得していないのは阿澄だが、阿澄を無視して条件は設定された。

長々とした台詞ばっかり……読みにくくてすみません。

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