序 魔女の遺言
魔法は登場しますが、魔法でドンパチはしない予定です。残酷描写ありは保険です。
その魔女は、今わの際に、重大な事実を告げた。いや、今わの際になるまで重大な事実を教えてくれなかったという方が、聞かされた方の心情的には正しいだろう。もう文句も言えなくなってからそんなことを言うなんて卑怯だ、と桐島丈は嘆いた。
危篤だというから駆けつけてきてみれば、懇ろに看病してくれていた姉たちをあろうことか追い払い、丈と二人きりになるや、魔女は「お前だけに秘密を打ち明ける」などと言う。丈は頭を抱えた。
聞きたくもないのに、もっと他に話すことがあるだろうに、魔女は勝手に話す。勝手な遺言をする。
「大事な鍵を隠しました。魔法の鍵です。その在処を、お前にだけ教えておきます」
「なぜ俺なんですか。俺は、姉たちと違って、魔法は使えません。魔法の鍵の場所なんて、知ったところで……」
魔女の力は遺伝する。しかし、魔「女」というだけあって、魔法の力を持つのは女性だけだ。男の丈には、魔女の力は受け継がれなかった。ゆえに、丈にとって魔法の鍵など、無用の長物である。
しかし、魔女は――桐島御影は、魔女の姉たちではなく、丈を選び、鍵の在処を託すことにした。その理由は明かしてはくれない。よく解らない理由で秘密を負わされた丈としては釈然としないものがあるが、やはり今となっては文句も言えない状況だ。
「捨ててはなりません。いつか必要になるときが来ます。それまで、大切にしてください。誰にも渡してはなりません」
魔女は、元気だったとき同様、一方的に丈に命令する。
「いいですか、鍵の在処は――――――」
たった一度だけ、魔女はその秘密を丈に告げ、息を引き取った。




