小さな恋人
僕には恋人がいる。
とっても小さくて可愛い恋人だ。
彼女と出会ってからもう随分たつ。
あれは僕がまだ小学生になりたてのころ、彼女は僕の前に突然現れにっこりほほえみこう言った「私を守って」と。
僕は彼女の登場に驚いたが、すぐに胸をはって答えた「うん、僕が守るよ!」と。
変な話だが、僕は真剣だった。いきなり現れた知らない女の子は一瞬で僕をヒーローにした。
彼女はとっても可愛くて儚くて、彼女のほほえみは簡単に崩れてしまいそうだった。
これは夢でもなんでもない。だって僕の隣には、いまでも彼女がいるからだ。
彼女の名前は花。
僕がつけた。
だって彼女は名前はないというから。
僕は花と出逢ってから、随分大きくなった。
身長はぐんぐん大きくなって、今では周りね大人と変わらない。
体重もあの頃に比べてとっても重くなった。
きっと悪者がきても、花を守れる。
なのに花はちっとも大きくならない。
あの頃のまま。
可愛くて、儚くて、小さい。
僕は花が愛しかった。
花も僕を好きと言ってくれた。
「花、学校にいってくるね」
花はコクンと頷き、笑顔で僕を送り出す。
僕は学校が嫌いだった。
皆が僕を嫌いだったからだ。
だけど、なぜか花に出逢ってからは僕は学校を好きになれた。皆も僕のまわりに来てくれるようになった。
「祐希!!」
肩をつかまれ、呼びかけられ一瞬びくっと身体が震える。
「あ、わりぃ」
拓也はしまったという顔をして謝った。
拓也は僕が花以外で初めて仲良くなった友達だ。
大きな体をして不器用だけども世話好きである。
「大丈夫、なに?」
僕が答える
「いや、ぼーっとしてるなぁって思って」
拓也は喋りながら僕の隣に椅子を寄せ座る。
「あ、もしかして花ちゃんとなんかあった?」
拓也は唯一僕が花の話をした相手でもある。
花は僕以外誰にも見えないらしい。
「特にないよ、あ、でもこの頃いつもよりでてこないんだ」
花は大体僕の部屋にいるこどが多いが、この頃帰っても居ないことが多く、その事について聞いても、微笑んでるだけだった。
「ふーん…そおっかぁ」
下を向いて考えこむように拓也は言った。
少しの間を置いて、拓也は言った。
「なぁ、明後日遊びにいこーぜ。鈴木たち誘って」
一瞬答えにつまる。
僕は沢山の人と関わるのは苦手だった。
チャイムがなる。
黙っていると拓也は絶対遊ぶぞ!と言って立ち上がり席を戻して自分の席に座った。
「ただいま」
「お帰り祐希くん。手洗っていらっしゃい。」
「うん」
僕はお婆ちゃんと暮らしている。
僕の家にはパパもママもいない。パパが居なくなってからママは僕を嫌いになった。
僕はそれでもママのそばに居たかったのだけど、ママは僕の前からいなくなった。
けど寂しくはない。
だって僕には花がいるから。
「花ただいま」
「おかえり」
花は微笑む。
今日のことを花に喋る。僕の1日で1番楽しい時間だ。
「で、明後日遊びにいくことになったんだよ。どおしよう僕あんまそういうのなかったから」
「大丈夫よ。祐希ならもう大丈夫。」
なぜか花はいつもより儚く見えた。
今日は遊びに行く日だ。
あんなに気が進まなかったのに、楽しみに思える僕がいた。
「祐希、おはよう」
「…!?花?」
花が大きくなっていた。
僕と同い年くらいに。
「なんで?どうしたの!?」
花は微笑む。
そして口を開くと
「急がなきゃ。遅れちゃうよ」と言った。
「そんなことより…」
僕が言い終わるより速く「早く!」と言って、無理矢理僕に準備をさせた。
「いってらしゃい」
「うん…」
僕は気が乗らないまま、家を出た。
「祐希!」
突然呼びかけられる
僕が振り向くと、
「大好きよ、祐希。いつまでも。わたしはあなたよ。あなたはもう大丈夫。」
花は強く僕にそう叫んだ。
僕の目から涙がでる。
「花…っ」
花は消えていく、微笑みながら。
花は僕だった。
幼い頃の弱い心と寂しさを背負って、僕は僕よりも弱い存在を作り出した。
僕の僕のための幻想。
だけどたしかに「花」はいて、僕を守ってくれたんだ。