表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

協力者

変更があるかもしれません。

嘘を嘘と見抜けなければ世の中は生き残れない。世の道理であるが、今回ばかりは少し酷に思える。

見知らぬ相手が訥々と語りだしたことは俄かには信じられないことばかりであった。

勇者と大魔王の戦いの結末、地獄からの大魔王の帰還とその最後、私が予想していた範疇を軽々と超えていく内容は衝撃だった。地獄という異世界の存在とそこからの帰還は気の触れた妄言と片付けられても仕方ないほど突飛な話である。更に驚くべきことはゼノア様のある行動だ。地獄より連れたこの者にゼノア様は力を引き継いだという。改めて見ても、何の力も感じないただの人族の一人にしか見えない。悪い冗談なのだろうか。だが、思い出せば私はその力の一端を見たのではないか。今は暗い瞳が紅く燃え立ち、振りぬかれた刃が私の命を繋いだのだ。あの場を見たこの命そのものがその証明であるのか。では、私が生き残るためには何を信じねばならないのか。


「お前の話は信じ難い。だが、私にまだ命があるという事実をもってお前の話を信じよう」


私の許容を超える現状に混濁した理性は狂気めいた判断と共に信じると決めた。


私の言葉に男は安堵した表情を浮かべた。

だが、男の安堵の表情は一瞬で、すぐさま不安げな顔に変わる。


「俺は帰らなければならないんだ。だから教えてくれ。ここはいったい何処なんだ、帰るには如何すればいい」


帰るには、か。当然ながらそれはここではない世界へだろうか。違う世界の存在、御伽噺の類であろうそれらを現実に行き来する方法など私の持ち合わせる程度の魔術の知識ではどうにもならない。


「ここは大魔王城、深き黒き森の中だ。ここを出たいのなら森を抜けなければならない。だが、お前は森を抜けたいのではないだろう。違う世界の行き方、残念だが私にそれは分からない。そもそも世界を渡るなど尋常のことではないはずなのだ」


「待ってくれ、でも何か方法はあるだろう。俺はここに来たのだ、ならば帰れないはずがないだろう」


男は狼狽えながらも答えを求める。

来たならば帰れる、確かにそうなのだろう。

ただ私には分からないだけなのだ。


「ならば、方法があるとすれば、ここに来たのと同じように帰るしかないのではないか」


「同じようにって、つまりあいつと一緒にか。でも、それはもう・・・」


男の顔が曇る。

同じ状況を再現しようにも、既にゼノア様は居ないのだ。


「いや、待て。確かあいつは俺の部屋に飛ばされたと言ったんだ。なら、あいつを飛ばした奴なら俺を元の場所まで帰せるだろう。確か勇者の仲間と言っていたはずだ」


「ゼノア様をお前の所へ転移させた術者か。確かにその者ならお前を帰すことが出来るかもしれん」


祝福された人族の子、勇者とその仲間達。大魔王に比肩しうると語られる力は真実だったか。大魔王に深手を負わせ、異世界へ転移させた力、並大抵のものではないのだろう。


「だが、お前では会うことは難しいだろう」


私の一言に男の表情は硬くなる。


「お前にはこの地との繋がりが無い。相手は名高い勇者の仲間とはいえ、いや、だからこそ会うのは困難を極めるだろう。何も知らないお前が一人でこの広大な大陸を探し歩くというのか、無謀だ。誰かの手を借りなければどうにもならん」


「誰かの手といっても、ここに手を借りれる知り合いなんていないんだが」


それはそうだろう。この者を知るのは今や私一人だ。世界は未だ知らないのだ、この者が何であるかを。


「ならば、私が力を貸そう。お前が私を信じるならば、この地に生きる者としてお前を導こう」


私は手を差し出した。話を聞いた段階である程度覚悟を決めていた。今の状況で私が何をすべきか、希望を求め、絶望した私に何が残されたのか。答えを見つけだしたのは冷静さかそれとも別の何かだったか。


「あんたは俺の話を信じた。それにここで独りは勘弁だ。だから俺も信じるよ。俺は深海明人だ。あんたの名前は」


男は私の手を握り、名を名乗った。


「私はミラでいい。では、明人よ、さっそくだがお前にやってもらいたいことがある」


「俺に出来ることなら言ってくれ、帰る為なら何でもやるさ」


「何でもやる、か。ならば話が早くて助かる」


私は明人の手をしっかりと握り締め、言った。


「明人よ魔王になってくれ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ