告白
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これは夢なのだ。
床に倒れた人型を見下ろしながらそう考えた。
鎧に包まれたその姿はどこか見覚えがある。
何故倒れているのか、その答えに繋がる糸口は近くにあった。
そう、触れられる程近くというより、既に触れているのだが。
糸口を掴んで手放さないという功績は己が腕ながら褒め称えるべきだろう。
たとえ握り締めている物が硬く、重く、長いと三拍子が揃った、いわゆる凶器であってもだ。
凶器は何であるか、被害者の傷を鑑定する必要は無い、何故なら視界の端にそれはあるのだから。
それは大振りの刃物だった。大きさは調理用品より園芸用品に近いだろうか。
この美術品とも見える滑らかな長い刃は何時手にしたのか。
ぼんやりとした頭で思い出そうと記憶を手繰る。
だが、思い出せること全てが今の状況には繋がらず、また己が無力のまま窮地にいることを示していた。
見知らぬ場所、死んだ男、背後に立つ言語の壁と首筋の冷たい感触。
思い出せない部分を除いたとしても状況は悪化の一途を辿っている。
救いを求めて記憶を彷徨う中、不意に倒れている人型が動いた。
僅かにであるが動いたのだ。
「おい、大丈夫か」
急いで駆け寄り腰を屈める。
近くで見る鎧姿は記憶にある男の姿とは違った。
幾分か小柄に見える姿には罅割れ砕けた部分が無い。
声に反応してこちらに向けられた兜は顔の大部分を覆っている。
「ああ、私は生きているのか」
自問をするかのような力の無い呟きだった。
「何故、私を殺さないのだ」
二言目は思わぬ問いかけだった。急な問いだが返す答えを悩む必要は無い。
「俺には見ず知らずの相手を殺す理由なんて無いよ」
「では、ゼノア様を何故殺した」
間髪を入れずに問いは返された。
ゼノアとはあの男のことだったか、だが殺したとはどういうことだ。
「いや、待ってくれ。俺は殺してない。あいつの傷は俺がやったんじゃない」
記憶にある限りでは俺は助けようとした筈だ。何故殺したことになっている。
「白を切る必要は無い、私はお前がその剣でゼノア様を討ったのを見たのだ」
視線は握られた刃に向けられた。握り込まれた指先がうまく解けず掴んだまま話しかけていたのだ。
「これは違う。気付いたら握っていただけで、俺はやっていない」
我ながら聞き苦しい言い訳に聞こえる。だが、事実なのだ。
「何故、隠すのだ。人族が魔族を殺す、何の問題もないだろう。
それが大魔王ならば尚のことお前は誇るべきだろう。
人族は統率の崩れた魔族に勝利するだろう、お前はその一番の功労者だ」
「俺は隠してなんてない、本当に知らない。それに人族の勝利とか功労者とか俺には関係無い」
人族だの魔族だの、ゼノアというあの男も言っていたが、俺に何の関係があるというのか。
「何だと。お前には関係無いだと。では、何故ここに居るのだ。何の目的でお前は来たのだ」
「俺だって知りたい、どうして俺はここにいるんだ、俺はどうすればいい」
「お前は何を言ってるんだ」
俺の吐いた本音は心底不思議そうな声で返された。
見知らぬ相手を前に俺は訥々と今まで起きたことを語り始めた。