魔王の生涯
短いです。
俺は夢を見ていた。
俺は見たこともない部屋で椅子に座っていた
。
視界を埋めるように部屋に溢れるのは大勢の人。それぞれがまるでハロウィンの仮装みたいに角や牙、羽や尻尾をつけていた。
俺を囲うように集まった人々が口々に叫ぶ言葉は聞いたことのないものだったが、そこに含まれる何かに対しての強い怒りは感じることが出来た。
叫びに応えるかのように俺は自然と手を挙げていた。
それを見た部屋の人々は口を閉ざし、こちらに視線を集中させた。
俺の口は勝手に動きだし、意味のわからない言葉を紡ぎ出す。
言葉を紡ぐ度に人々の顔に熱気が満ちていった。そして、椅子から立ち上がった俺が最後に一際大きく放った一言を聞いた時、部屋に集まる全ての人が割れんばかりの雄叫びを挙げた。
立ち上がり部屋の様子を見つめる俺は、部屋に満ちる熱気とは反対に体の奥が冷たくなっていくのを感じた。
場面が変わり、俺は何処に向けて急いでいた。しばらく廊下を進み、ある部屋の前で足を止めると、一呼吸してからゆっくりと扉を開いた。
部屋の中には大きな寝台があり、側にひかえるように女性が二人立っていた。
こちらに気づくと女性達は恭しく礼をして寝台から離れた。
自然と歩みは寝台に向かった。
寝台の上にはもう一人女性がいた。
額から生える二本の角、流れるよう銀の長髪と整った目鼻立ちを持つ美しい女性だった。
寝台の側に来た俺に彼女は大切に抱えていた何かを見せてきた。
それは布に包まれた赤子だった。
まだ全てが未熟で弱々しいが、そこにはしっかりと命の灯火があった。
それを見た俺は体の奥が暖かくなるのを感じた。
場面は突如として変わり、眼に飛びんでくる光景は目まぐるしく変わっていった。
ある時は太陽が輝く野原で、ある時は月明かりの照らす深い森で、またある時は何処かの戦場に俺はいた。
場面毎に体の奥が暖かかさ、冷たさを感じていたが、変わる毎に次第に鈍くなり、遂には何も感じられなくなっていった。
そして、何も感じられなくなった頃、暗い一室で四人の男女を視界に捉えた場面を最後に俺は何かに引っ張られるように意識が遠退いた。