時の流れ
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時の流れは残酷である。
時計の針を戻す方法を持たない我々に対して一切の猶予なく決断を迫るのだ。
決断には結果が伴い、結果には責任が伴う。時の流れは結果だけを必要とし、我々に無慈悲に決断を求め、無情な責任を強いるのだ。我々は巻き戻すことのできない現状を常に受け止めなければならない。
「おい、大丈夫か」
「ああ、平気だ。少し考え事をしていただけだ」
ミラの問いにとある思考をを中断して返事をする。
魔王として鍵の役割を果たした自分の次なる仕事は荷物持ちであった。あれもこれもと言われながら、ある物は着込み、ある物は背負い、ある物は肩にかけながら全身で荷物を抱えていた。
厳重に封印されていた品々は異様な雰囲気を纏い、本能が触れることに警笛を鳴らしてはいたが、抱える数が増えるにつれてその感覚も麻痺していった。抱える荷物の量に対して二人で扱いきれないのではないか、といった疑問については「先立つ物がない我々には必要だ」とミラは答えた。対価なくこれだけの品々を手に入れられる機会は二度と無い、だから持てるだけ今運び出す。単純明快な理由であり、是非もなかった。後ろ盾もない、先立つ物もない、それに加えこの世界のことさえ知らない、まるで冗談のような足手まといの自分を連れた旅はどれだけ困難であるか想像がつかなかった。地下を出る頃には出鱈目に身につけた品々は相当な数になったが、着込んだ不思議な鎧のおかげで歩くことに問題はなかった。
禁忌とされる理由も分からぬまま持ち出された品々の扱いについては怪しい部分もあり大変不安があるが、何より不安があるのは道具以外も持ち出してしまったことだ。振り返ると翡翠色の瞳がこちらを見つめる。
「何か御用でしょうかアキト」
透き通った声でこちらに問いかけるのは新たな同行者の一人。意図せず解放してしまった、禁忌庫の住人である。なぜ封印されていたのか、なぜ目覚めたのか、どうやって元に戻すのかも分からない為、同行してもらうことになった。
「いや、気にしないでくれリリィ、何でもないよ」
「いつも側におりますので、御用があれば何なりとお申し付けください」
陶器のような肌の上に銀の髪を滑らせながらまるで侍従のような態度をとる彼女の正体は未だ分からない部分が多いが、何故か主認定をされ、甲斐甲斐しく世話をしようとしてくれるのは心細い身の上では大変嬉しいことに変わりはない。たとえ何か問題を抱えて地下にいたのだとしても、きっと何とか解決できる問題であろうと希望的観測をすることにした。現状の問題を先送りする程度に疲れた思考と混迷した状況が彼女を癒しとして必要だと断じた。
大荷物と不安を抱えたままミラの案内により城と森を隔てる門までたどり着いた時、不意におとずれた大きな振動と共に何者かの大きな影が三人を覆った。




