真鍋さん、わたし今。ものすごく失礼なことを言われた気がします。
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
『僕は田中さんと楽しく朝食の準備をしていた。しかしそこへ朝食をかけて勝負しろ、と意味不明な言動を繰り出すネーチャンが現れた』。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、僕も何が起きているのか理解できてネェ……
頭がどうにかなりそうだった……借金だとか路頭に迷っただとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっとヤバイものの片鱗を味わったぜ……
いや、なんかごめんなさい。一度言ってみたかったもので。
さてさて冒頭で言った通りですよ皆さん。大事件ですよ。なんですかこの頭の悪そうなネーチャン。
ひっつめた茶髪に小麦色の肌。すんげぇ美人だってコトはわかります。
朝食をかけて勝負しろ、なんて馬鹿けた発言さえなけりゃ危うく惚れちまうほどの美人さんですよアレは。
「さァ! 私と勝負するんだ!」
だからね? んなこと言って自分の魅力に泥塗ってんじゃないよ。
勿体無い。田中さんに胸が無いのと同じくらい。
「真鍋さん、わたし今。ものすごく失礼なことを言われた気がします」
「馬鹿言ってんな。冒頭から僕一言も喋ってねーだろ」
あ、焦るわ。くるみといい田中さんといい、なんでこの人達心読めんの? テレパシー?
全くプライバシーの侵害ですよ、これじゃぁ愚痴の一つも言えん。
「そうですか? 確かに……気のせいですよね」
「気のせいですよ、だから田中さんは火の番してなさい。あのネーチャンは僕が相手するから」
そう言うと田中さんは「はぁ」とあまり納得してない様子で火の番に戻る。
危し。なんとなく、田中さんが怒ったら勝てる気しないのね。おっかなそうだし。
さて危機も去った。あとはあのネーチャンを追い払ってから朝食にしよう。
「あのー すみません」
「勝負する気になったか!?」
「なんでやねん」
「私はとても腹が減った! だから朝食をかけて戦え!」
「うおぉ……」
やばい。なんか関ってはいけない臭いがプンプンするのだが。
彼女が腹を空かしているところまではわかるのだが、それがどう戦うことに繋がるのかがわからん。
「私は誇り高き戦士! だから正々堂々戦って勝ち、堂々と飯を食う! どうだ! わかったか!?」
「わかったって言われても。そうだな」
誇り高き戦士様によると、女子供をブン殴って飯を奪うのが正々堂々というらしい。
とまぁ要するにこのネーチャンは、
「つまりなんだ? 飯が食べたいと?」
「そうだ!」
「ウチ帰って米でも炊け!」
「帰る家など無い! 米も無い!」
テレビもねぇ、ラジオもねぇ、とかそういうノリだろうか。
「私は追われる身! 私は逃げ続ける! 逃げるためにはナニカ食べる! だが私にはお金が無い!」
「は、はぁ」
話がややこしくなってきたな。
なにか事情がありそうなのはわかるが、正直関わりたくありません。
それとあのカタコトした喋り方は外人さん? それにしては日本人っぽいような……あ、ハーフ?
「追われる身とかよくわかんねーけど、とにかく腹減ってんだろ? 一緒に魚食うか? 丁度朝飯だし」
ま、事情があるのはこっちも同じことだ。ここは事を荒立てずに、あえて心を通わせようではないか。
幸い言葉は通じるみたいだし、人間同士言葉でわかりあえるものさ。
「なんだと! タダで飯をくれるのか!」
「毒なんて入ってないぞ?」
「う、上手い話だな! 世の中そんなに甘くないと仲間が言っていた! だからお前は嘘をついている!」
「――はぁっ!?」
人の好意なんだと思ってんのアンタ!?
「私を罠にハメようとしたな! なんてヤツだ恐ろしい!」
「恐ろしいのはお前だ、この野蛮人! 一方的に勝負挑んできてナニが誇り高き戦士だ! 寒すぎるわ!」
「褒めるな!」
「褒めてねぇよ!」
変なヒロインだなぁオイ。
なんて思われた方、今後の彼女にご期待ください(笑)