そんなことより今は田中さんだよ田中さん。
河原の橋下。そこで目覚めた僕は、ゆっくりと上体を起こした。
あ、頭痛い。なんだこれコンクリート? ハハッ、どうりで硬いわけだ。コンクリの上で寝るとか何考えてるんだろう。
というより寒いのですが。
よく見ると、僕の身体には毛布が一枚だけ掛けられていた。
どうやら昨夜はこの毛布だけで乗り越えたらしい。とにかく理解しがたい状況だが、そこでようやく昨日の出来事を思い出した。
「あぁ、そっか」
昨日借金押し付けられて家飛び出したんだっけ。アレ夢じゃなかったんだなー。
「あ、真鍋さん。おはようございます」
「おはよー 田中さん、ってなんでこんなところに田中さん?」
不意に声をかけられ振り返ると、昨日大泣きしていた田中さんが魚を焼いていた。
また遊びに来たのか、と思ったがよく考えてみると昨日彼女が帰るところを見ていない。ということは、
「もしかして、昨日ここに止まったのか?」
「えー 忘れちゃったんですか? 昨日は一夜をともに過ごしたではありませんか」
「一夜、え? マジで?」
えぇ、記憶に無いんだけど。ごめんよかーちゃん、知らぬ間に大人の階段のぼってたらしいです。
というか、女の子がコンクリートの上で寝るって衛生的にどうなんだろう。別にいいけど。
「あ。それじゃこの毛布って田中さんが?」
言いながらかけてあった毛布を見る。
「はい! 昨日寒くなってきたので家から盗ってきたんです。二枚運ぶの大変だったんですよ?」
取って、ではなく盗ってらしい。ここ重要。
「えへへ。わたしくるみちゃんと一緒に寝ちゃいました。とっても暖かかったです」
「そりゃよかったね」
め、めちゃくちゃ羨ましいんだけど、っていうのは置いといて。
そんなことより今は田中さんだよ田中さん。
もしかして、この田中さんはここに住んでいらっしゃる?
なんか折りたたみ式のテントとか、焚き火用のドラム缶とか、乾いた木材とか。とてもすぐに集められる物ではない。
そんな物を我が物顔で使っているこの田中さんはどう考えても……
「あのさ、聞いていいんだが良くわかんねーけど。田中さんってさ」
「いいですよ真鍋さん。わたしから言わせてください」
言い辛い、という心の内を読んだのか田中さんが僕を制した。
まぁ僕からあれやこれやと聞くよりはそっちから言ってくれたほうがいいよね。
「昨日くるみちゃんから聞いちゃったんですけど。真鍋さんは親に借金をその、えと、なんやかんやで。それで路頭に」
「あぁ別に気にしてないから。ぶっちゃけちゃってOK」
自分から言うと言ったくせになんて押しの弱い娘だ。なんとなく愛嬌があって良いけどさ。
「えっと、ぶっちゃけわたしも同じなんです。一月ほど前から路頭に迷ってまして。えへへ」
「一月ほどって。え? マジで!?」
一ヶ月前から路頭に!? えへへってアナタ、そんな笑い事じゃありませんて!?
たくましい、たくましいです田中さん! とても同い年とは思えんです!
「いいいやでも帰る家はあるんです! 昨日だって毛布盗りに帰りましたし、真鍋さんよりまだマシな状況です」
「はぁ? あ。もしかして、家出?」
「ぶっちゃけ、家出です」
「家出ねぇ」
確かに、借金取りに家追い出された僕達よりマシでしょうけど。
家出というからには田中さんにもそれなりの事情があるんだろ。深くは聞かん。
「なるほど。納得した」
「そうですか。よかったです」
そこで会話が途切れる。
ううむ。最近同い年の女の子とはあんま喋ってなかったから、何を話せばいいのやら。
あ、そうだ。この毛布のお礼を言わなければ。
それと昨日きつく言ってしまったことの謝罪も。
どうもすみませんでした。たった一言言うだけだ。よし、やるぜ僕は。ばしっとやってやるさ。
「あの、田中さ……」
「おいお前達! ちょっといいか!」
「は?」
田中さんに声をかけようとして、何者かに遮られる。
振り返ると、そこにはハーフっぽいひっつめ髪のネーチャンが仁王立ちしていた。
随分と勇ましいネーチャンですね。スラッと背も高いし、つか足長ぇ。女の人に身長負けたの久しぶりだわ。
「えっと、その。なにかご用ですか?」
田中さんが少し怯えた様子でたずねる。するとひっつめ髪のネーチャンは、田中さんが焼いていた鮎を指差して一言。
「その朝食をかけて、私と戦え!」
「「……はい?」」
な、なに言ってるんだ。この人。
次回、ヒロインそのにが現れます!




