いやはや、これは本当にめずらしい。
路頭生活六日目の朝。
朝食の準備とサラダさんの安否を確認するため、僕と田中さんは朝の6時に起床していた。
「それじゃあ、また遊びましょうねくるみちゃん」
田中さんはそう言って、静かに寝息を立てているくるみの枕元にクマのぬいぐるみをそっと置いた。
ちなみにこれは昨日の放課後に商店街で購入した物である。
「それにしても今日のくるみちゃんはお寝坊さんね? いつもこのくらいの時間には起きてくるんだけど」
「ま、普段に増して遊び疲れてたんだろ?」
実際は夜遅くまで寝たフリを続けていたのが主な原因なんだろうけど。
そんなことを考えながら、咲の言葉に相槌を打つ。
「よーし。お土産も渡したところで、そろそろ河原へ戻るか?」
「そうですね、サラさんのことも心配ですから」
「いやサラダさんならたかがカラスの群れくらい秒殺だろ」
「そ、それはそうかもですけど」
それにサラダさんの元気が有り余っていることは、昨晩身をもって証明してきたからな。
「ってことでサラダさんの心配はしなくてよし」
「もーっ、またそんなこと言って! ダメですってば真鍋さん!」
ふん。飯を作りに来てやった恩人に暴力を振るうヤツに、遠慮はいらんのですよ田中さん。
ということで、今日はサラダさんに対しての風当たりが少しだけきついと思うけど大目に見てください。
「っていうかさ、前から思ってたんだけどそのサラダさん? ……ってなんなの?」
「ぶっ!」
「ちょ! なんでふきだしてるのよ! あたし変なこと言った!?」
いや、だって僕以外がサラダさんのことをそう呼ぶの初めて聞いたから、なんとなく。
「い、いやすまん。まぁそうだな、また咲にも紹介してやるよ」
「サラさんとってもいい人なので、きっと咲さんとも仲良くなれると思います!」
「ふーん? ま、いいんだけどね」
別に仲良くなるとかはどうでもいい感じで返事をする咲だが、その素っ気無い態度がサラダさんを前にしてどう変わるかは見ものだろう。
あと田中さん。多分、咲とサラダさんは仲良くなれないと思います。いや絶対。
「じゃ、僕達そろそろお暇するわ。一晩世話してくれてありがとな咲」
「いいのよ。呼んだのはこっちなんだし」
「あの、昨晩はすみませんでしたっ。急に押しかけたりなんかして、今思えばなんて失礼なことを……」
「ホントよねー、あの時の美晴には流石に驚いたわー」
「うっ。も、申し訳ないです……」
どうやら田中さんは早乙女家に無理矢理押しかけたことを気にしていたらしい。
まぁ、あの時の田中さんは普段の二割り増しで暴走してたからなぁ。
「だから、今度からはちゃんと言ってよね」
「え?」
「美晴ならいつでも大歓迎ってことよ! もう友達なんだから! ホラ、わかったならさっさと帰る!」
「さ、咲さん……ありがっ。うわわっ!? なんで押すんですか! ちょ……っ!」
咲の言葉に感動して涙ぐみそうになっていた田中さんだったが、その前に無理矢理部屋の外に押し出されてしまった。
「えぇー!? 咲さん、なんでそんな追い帰すんですか!?」
部屋の外で田中さんが騒いでいるが、咲は少し頬を染めてそっぽを向くだけだった。
ははーん。咲のヤツ、めずらしく照れてやがるな? いやはや、これは本当にめずらしい。
「なぁ、咲……」
「な、なによ?」
「お前って、可愛いよな」
「……は?」
「ごめん。なんでもないです」
たまには僕にもデレて欲しいです。




